今年の4月中旬に第二子である男の子を出産した。妊娠中・出産時には特に大きなトラブルはなく、母子ともに健康。ありがたい限りである。

この妊娠については、以前、「39歳での二人目妊娠レポート【前編】」という形でレポートを書いた。無事出産が終わったこともあり、妊婦後半についても思ったことや感じたことなどをレポートしていこうと思う。



■2人目妊娠はあっという間


1人目妊娠時と2人目妊娠時の大きな違いというのは、2人目妊娠のときには上の子の世話をしなければいけないということである。

1人目妊娠時の妊娠後期はとにかく暇だった。どんどん行動範囲が狭くなるので、できることも限られる。結局、読書したり子どもの服を縫ったりしたけれど、それでも暇だったので、「これじゃ禁固刑だよ!」と頭がおかしくなりそうだったのを覚えている。

ところが、2人目の妊娠時はさほど暇ではないのだ。上の子が自宅にいる時間は育児をしなければいけないし、上の子が保育園に通っている時間は、保活やお古の整理など、やるべきことがわりと多い。だから、あまり退屈せずに過ごせるのである。

というわけで、2人目妊娠はあっという間。つわりはあんなに長く感じたのに、安定期に入ったあとの速さと言ったらもう、走馬灯のようである。気が付いたら臨月に突入なのであった。

■臨月のワンオペ育児で途方に暮れる


で、上の子を抱えながらの妊娠はやっぱりシンドイ。つわりのときも相当つらかったが、妊婦後半もつらかった。

特につらかったのが、休日や平日夜のワンオペ育児だ。妊娠5ヵ月のとき、休日にワンオペで娘をそこそこ近所のショッピングセンターの遊び場に連れて行ったら、娘が夢中になってなかなか帰りたがらず、ついに力尽きてしまって、帰り道に抱っこせざるを得なくなった。

「エイヤッ」と体重14kgの娘を抱き上げると、心臓が口から飛び出るかと思うほど急激に心拍数が上がり、目の奥で星が炸裂した。このときばかりは本気で生命の危険を感じたものだ。安定期に、たかだか自宅から自転車と電車で30分程度のところだと思って油断したのがよくなかった。たまに妊婦さんが上の子を抱っこしているのを見かけることがあるが、体力のない高齢妊婦は真似すると危険である。

さらにお腹が大きくなると、悩まされたのが頻尿だ。何せ、トイレ間隔は15~30分。出かける前にトイレを済ませたのに、ドアの外に出るとまた尿意が襲ってくるという体たらくなのだ。こんな状態では、ワンオペでは近所の小さな公園にも行けやしない。公園に行ったら最後、娘は1時間以上は遊び続けるのだから……。

保育園のお迎えもつらかった。お腹が大きくなると歩いて送迎することにしたが、娘が寄り道したり、友だちと一緒に遊びながら帰りたがったりするので、非妊婦時に片道3分だった道のりが30分になる。そもそも、迎えに行ってから帰路につくまでもダラダラして時間がかかるので、結局自宅を出てから帰宅までは1時間コース。脳の中は常に「トイレトイレトイレ……」とトイレの3文字で埋め尽くされている状態だった。

さらに、産休に入ると保育園の預かり時間が短くなる。娘とじっくり向き合う機会なのだろうが、「向き合う」というのはすなわち「サンドバッグになる」ということでもある。これを臨月の体でやるのは相当きつい。

臨月になると、娘は心細さの裏返しなのか、あまり構ってくれない苛立ちがあったからか、毎日のように無理難題を吹っかけた。それこそ「あの月を私のために取ってきて」レベルの無理をいうのである。そして、私が「できない」というと暴言を吐いたり暴力をふるってきたりした。そうされても、こちらは弱っているので怒る気力なんかない。結局、大日如来のような半眼でただじっとやり過ごすしかなかった。


満月や新月の夜、断続的に痛むお腹をさすりながら娘とふたりきりで過ごしていると、言いようのない恐怖に襲われた。今ここで体調が急変したらどうすればいいのか。病院に電話して、入院準備をして、タクシーを呼んで子どもの外出準備をして、夫に連絡を入れて。それで娘と病院についたら私は分娩台? そうなると、連れてきた娘は夫が到着するまでどうすればいいんだろう。

それでようやく思い出したのだ。入院予約時に「このタイプの個室なら子どもと一緒に泊まれますよ」とすすめられたことを。あのときは、「出産で瀕死なのに上の子の世話までするなんて何の悪い冗談なのか」と鼻で笑って一蹴したが、そうすすめられるということは、世の中に確実にニーズがあるということなのだ。

幸い、産気づいたのは娘が保育園に通っている昼間だったが、もし夜のワンオペ時だったらと思うと、今でも背筋が凍るような思いがする。

つくづく思ったが、2人目以降の産休中は、とにかく人手がいる。
だから仕事をしていなくても認可保育園に預けることが認められているのだが、保育園だけでは不十分だ。シッターを頼むにしても、毎日夜中までスタンバイしてもらって、夜に産気づいたときに「子どもは私に任せて、どうか安心して産んできてください」と送り出してもらうようなお願いの仕方はあまりにもハードルが高い。

しかし夫には仕事があるから、職場が自宅や近所でない限り、定時で会社を出てもワンオペの時間は発生する。いつ出産かわからない状態で1ヵ月近く有休をとるなんて現実的ではないだろう。結局親を頼るのが一番なのだ。

でも、我が家を含め親に頼れない人はたくさんいる。そんなとき、上の子と泊まれる病室しか選択肢がないなんて悲しすぎやしないか。最近になって男性の育休の必要性が認知され、取得率がじわじわと上がってきているが、人手がいるのは産後だけではなくて産前もなのだ。

男性も出産後の「育休」だけでなくて、出産前から「産休」を取れるようにすればいいのに。そう思うのは甘えすぎだろうか。

■2人目妊娠・出産のラクなところとしんどいところ


さて、そうこうしているうちに出産である。2人目のほうが1人目よりもお産は軽いといわれているのだが、私自身は2人目のほうが出産までの時間こそ短かったものの、出血多量で貧血になるなど、スムーズとは言いがたかった。やはり、4年の歳月は確実に母体をポンコツにする。

……と、ここまで書くと二人目妊娠というのはしんどいことだらけのように思えるが、悪いことばかりではなかった。

何よりも精神的に楽なのだ。それは、未来の見通しがつくからである。まず、体がこれからどうなるのか、産後はどんな生活になるのかがわかる。妊娠中に味覚が変わったり、どんどん体がしんどくなっていったりしたとき、1人目の妊娠中は「私はこれからおいしく食事ができるのだろうか」「もう一度自転車に乗れる日は来るのだろうか」と暗澹たる気分になったものだが、2人目のときは「産めばある程度元通りになる」というのがわかる。これはものすごく大きい。

育児中というのはえてしてQOLが下がるものだが、これも皮肉なことに2人目妊娠時にはプラスに働いた。というのも、妊娠中に行動が制限されても、非妊娠時とのQOLの落差がさほどひどくないので、1人目のときほどつらく感じないのだ。

たとえば、子どもが小さいとどうしても飲酒が控えめになる。授乳中は飲めないし、卒乳後も酔っぱらうほど飲んでしまうと子どもの世話がまともにできない。だから、2人目の妊娠中に「酒……酒……酒が飲みたい……」とはならなかった。せいぜい「またローストビーフが食べたいな」と思う程度である。だから、1人目のときほどの「禁固刑」感はなかった。

また、保育園や幼稚園に上の子どもが通っていると、2人目の妊娠中は孤独ではなくなる。私自身は上の子の保育園のお迎えに行くと、同じクラスのママ友に「だいぶ大きくなったね」「もうすぐ?」「頑張って!」などと声をかけてもらったり、2人目育児のリアルについて話を聞いたりすることが増えた。たった一言二言でも、そんなやりとりをするだけで「ひとりじゃないんだな」と思えて心強かったものだ。

肉体面でもメリットはあった。乳管がすでに開通しているので、1人目の時よりも母乳育児が楽になったし、1人目育児で太くなった二の腕で新生児の2人目を抱くと「軽っ!」と思えたからだ。

2人産んでつくづく思った。女性の体って「革靴」みたいなんだな。出産してスタイルはダサくなったけれど、確実に育児をするのにこなれた体に変化している。

つらつらととめどなく書いてしまったが、2人目妊娠レポートは以上である。
妊娠や出産は1人1人にさまざまなドラマがある。私など、特に大きなトラブルはなかったのだからラッキーな部類に入るし、ドラマとはいえない凡庸な経験だったと思う。でも、これから2人目の妊娠を考えている人には、ひとつの例として参考になれば何よりである。

今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。