■保育園飽和時代が近づいている?


ワーキングマザーの増加で保育を必要とする世帯が増え、国をあげて保育園を作っている。
我が家が居住する目黒区でも、この2年間で急激に認可保育園が増えたと感じている。東京都認証保育園の中でも、2歳児クラスまでしかない小規模園では、すでに昨年から最終学年の定員割れが発生。私の息子が通う認証保育園でも、今年度、2歳児クラスは過半数を割っている。都内の認証保育園の中には、新たな園児の受け入れをストップし、現在の在園児が卒業したら園を畳むと決定したところもあるくらいだ。

まぁこれも地域差はあるだろうし、依然として0・1歳児クラスの需要には供給が追いついていないが、たしかに私の周りに保育園は増えている。もしかして、「保育園は利用者がサービス内容で選ぶ!」時代が近づいてきているのかもしれない。(現在は保活で第10希望まで申請するが、結局のところは、まだまだ「入れれば御の字」。)

一方で、保育園が飽和する前であっても、これだけ保育士不足が叫ばれる中、「保育園の数が増えれば質は落ちるのでは?」という保護者としての純粋な疑問もある。ちまたには、「保活コンサルタント」というサービスも生まれていると聞く。保育園は保活テクニックではなく本質的なことで選びたいというのが私の個人的な心情なので、今回私が直接、いくつかの園に取材に行ってきた。

■「保育の質」って何ですか?


まず、「質が落ちる」という議論の前提として、「質って何ですか?」というところを整理したいと考えた。「子どもが安全に過ごせること」というのは大前提として、保護者がイメージする「保育の質」とはどんなものか。

・先生が優しい
→優しいというのは主観的な話。優しさにも色々あるよね?

・教育的な関わりがある
→例えば、英語やリトミックのプログラムがあれば、果たしてその園の「保育の質」が高いと言えるだろうか?

・設備が整っている
→ハード面の設備だけで「保育の質」を担保してくれるだろうか?

・保育士の出入りが少ない
→定着率の高さはどんな企業であっても働きやすさのひとつの指標ではあるが、それと「保育の質」は関連するのだろうか?

うーん……。保護者の価値観も様々なので、保育者の何か特定の関わりが「絶対的に『保育の質』を担保しています!」とは言えないような気がする。

そこで、保育を提供している側は、「保育の質」をどう考えているのか、率直に話を聞いてみた。前編では、業界最大手の2社を取り上げる。

●業界大手(1):株式会社日本保育サービス

全国13の都道府県で保育園、学童クラブ、児童館を運営し、施設数は合計で276(2018年4月1日現在)、連結従業員数は5,307人(2018年3月末時点)。数字だけ見ても業界最大手のうちの1社であると分かる。

運営するアスク保育園には、私の友人も何人も通わせていて、どのママからも保育士の悪い話は聞かない。これだけの規模で、悪い噂があまり出ないというのは、一体どういう体制で運営されているのか気になるところ。

「保育の質を向上させるために、子どもや保護者の状況や思いをどこまで想像できるか、という保育士の想像力によるところが大きい」
スーパーバイザーとして運営施設全体の統括や人材育成なども担当されている園長先生の言葉だ。

同社は年間180回にも及ぶ豊富な研修制度があり、世界の保育を学ぶために5年間で約200名を、フィンランド・スウェーデン・ニュージーランド・ドイツなどの海外研修へ派遣していて、研修制度の充実度も業界トップクラスである。

しかしながら、保育の質は、研修を受けることだけでは作られない。パターン化やマニュアル化できない一人ひとり異なる子どもの個性・各ご家庭の状況を、日々対峙する職員たちがどこまで想像することができるか?にかかっているという。

この想像力を持ってコミュニケーションを取ることが、保護者との間に信頼関係を築くためにもとても重要になる。例えば日中のお散歩の際に、子どもが転んで足を擦りむいてしまったようなケースで、保育士と保護者の間に信頼関係がなければ、どんな丁寧な説明をしたとて、それは「言い訳」のようになってしまうかもしれない。

一方で、子どもは予期せぬ動きをするものであるし、しっかりとした信頼関係が構築できていたら、保育士の説明を聞いて保護者の不安や不信が高まることはないと思う。

なるほど。このように、「丁寧なコミュニケーションを心がけよう」という姿勢が、アスク保育園の保育士を悪く言う保護者がいないということに繋がっているのだろう。

株式会社日本保育サービス
http://www.nihonhoiku.co.jp/

●業界大手(2):ライクアカデミー株式会社

認可・認証保育園の「にじいろ保育園」を始めとし、事業所内保育施設や、学童クラブ・児童館など全国330施設以上を運営する業界大手。子育て分野では29年以上の実績があるリーディングカンパニーでもある。ここ数年の新規開設園の数も多く、保育士は年間で新卒採用150人以上/中途採用1,000人以上という桁外れな採用力を持つ企業である。

≪一人一人の保育士のやりがいが「保育の質」を作る≫

同社へ取材を通じて感じたのは、各保育士の成長をサポートする仕組み作りに、とても熱を入れているところである。保育士や幼稚園教諭の仕事は、ポストが少ない分、昇給の機会も少ないし、評価指標も園長先生の属人的な判断に頼ったり、保育士自身の目標設定も難しいと聞く。これは一般的にも、保育士の定着率に影響していると言われるポイント。

そんな中、同社は「保育士のやりがい」を最大化するための施策をたくさん作っている。例えば、同社の人事考課制度は「成長支援制度」と名付けられていて、どんなことができるようになるとどの等級に昇進できて待遇はどれくらい、ということが明文化されているのだ。

目指している等級に昇進するために、どんな能力を身につければ良いかが明確になって入れば、そこへ向かうために今日すべきことが分かるだろう。どんな努力をすれば良いかが分かるというのは、どんな仕事であってもモチベーションにつながるような気がする。

子どもに接する保育士という仕事は、時には神格化されて報酬の話を持ち出すのはタブーのような空気があるかもしれないが、保育士も仕事である。成長目標と対価がクリアになっていた方が働きやすいのだろうというのはよく分かる。

また、ひとつの保育園という閉鎖的な環境の中で、職員たちが属人的な悩みを抱えることが無いように、いくつかの園の運営を包括的にサポートする「スーパーバイザー」という役職を置いているのも特徴的。園の外に悩みを打ち明けられる先があるということも、保育士の働きやすさに繋がっているそうだ。

子どもを預ける保護者としても、保育士たちが目標を持って日々の仕事に当たっている、そのための制度設計がしっかりされているということは、かなりの安心感がある。

ライクアカデミー株式会社
https://www.like-kn.co.jp/academy/


……ちなみに、業界大手であっても、今回の私の突撃取材を断った企業もある(しかも複数社)。お断り文句は様々であったが、「保育の質って何ですか?」という質問に答えてくれない企業は、いかがなものであろうかと感じた。例外なく、それらの園では保育士の対応や園の運営に関して、保護者からの苦情を漏れ聞くことがある。

少なくとも、子どもを預ける保護者として、保育園のパンフレットやウェブサイトで謳われている「暖かい保育」「子どもの個性を伸ばす保育」などのふわっとしたキャッチフレーズだけでその保育園の保育の質を判断することはできないと思う。

もし検討している保育園があれば、ぜひ見学の際に園長先生や保育士の方へ聞いて見て欲しい。「保育の質ってなんですか?」と。そこで、その方々がどれだけ保育の質について、深く考え行動しているのかを感じることができる気がする。

【関連アーカイブ】
保活ママに届けたい、「保育の質」はどう作られる?【後編】


森田 亜矢子
コンサルティング会社、リクルートを経て、第一子出産を機にフリーランスに。現在は、Baby&Kids食育講師・マザーズコーチング講師・ライターとして活動中。3才長女と0歳長男の二児のママ。