数ヵ月前、映画『万引き家族』を見て血縁とはなんなのかと考え、先日は樹木希林さんの訃報に接して独特の結婚生活に思いをはせたからだろうか。「生きやすい結婚や家族のかたちとは何ぞや?」「家族って何ぞや?」という壮大な疑問が、くすぶっている。


その動機から、結婚(家族)についての隠れた気持ちを探る「結婚インサイト」という企画を自主的に始めている。現在15人ほどの未婚/既婚/子あり/子なしの方たちにインタビューをさせていただき、結婚観や家族観を浮き彫りにしている最中だ。みな似て非なるインサイトを持っているので、とても興味深い。

人の数だけ夫婦や家族の考え方があるので、皆が望む単一の理想形というものは存在しないのだろう。だが今現在、私と周りのママ友が直面している「夫帰らず、妻ワンオペ」状態が、理想に近いかといえば……どうなのよ?

では、どんな結婚/家族生活のかたちが良いのだろう?
先に断っておくと正解はまだ分からない。ただ妄想半分、私の独断と偏見で上位にランクインした生活のかたちをログしておく。

平安貴族の「集団オペ」
でかい屋敷、広い庭、優美な寝殿造りに住まう両親ときょうだいと私。妙齢となって嫁ぐも当時は通い婚が一般的なため、夫は数日に一度、この実家にやってくる。そのほかの日は外でなにをやっているか分からないから、子なし時代は枕を涙で濡らしたかもわからない。

だが、子どもができればワンオペの真逆、集団オペレーションが待っている。じいじ、ばあば、お手伝いさんがいるので育児は丸投げ、『源氏物語』をむさぼり読み、『枕草子』の真似事をして日々は過ぎていく……。

これは現代でもできる生活スタイルで、実家に住むか、財力があれば可能だ。

戦国武将の「妻友」
時は下って戦国時代となると、武将は一夫多妻制。家柄の良い本妻とアバウトな出自でもOKの側室から成る。複数の妻がいるコミュニティというと、血なまぐさい勢力争いに目が向けられそうだが、果たしてそうか。政略結婚で妻となったもの、間違って侍女から側室になったものなど、外部の力に流されて恋愛ナシで妻になっているものがほとんどであり、時は戦国。嫉妬より共感や同調が勝つ気がするのだけれど……。

ここはボス妻(正妻)にしきってもらい、「私が男児を産んでも跡取りにしようなんて思ってないんで~」を強くにおわせて妻友(元祖ママ友)付き合いをし、気の合う側室&侍女と一緒に子育てしたいところだ。

現代の結婚制度は一夫一妻制だが、「夫よりママ友のほうが顔を合わせている時間が長い」ことを抽出すれば今の私と同じである。ママ友たちとひとつ屋根の下や同じマンションに暮らせば再現に近いかもしれない。

農村の「みんなで子づくり&子育て」
アッパークラスから転じて、大多数を占めた近代の農民・農村に目を向けよう。年に一度の夏祭りは異様な熱気に包まれ、一部には、一心不乱の盆踊りのあとは仮面や傘をつけての乱交に至る風習もあったというから驚愕である。既婚者でもOKというおおらかさは、寒村にいろいろな血を受け継いだ子を残す目的もあるようで、地域によっては昭和に入っても続いていたという。

祭りの後は妊婦が増え、出産後はその家の子、または村全体の子として育てられたという。「みんなで」タネをまいたら「みんなで」刈り取る稲作の基本理念(農機のない時代、そうでないと稲作の仕事が進まなかった)が、生殖と子育てにおいても徹底されている。

さて、そんな風習に参加したかはさておき、私の曾祖母は9人子どもを産んで100年生きた農村の人である(二度目の驚愕)。2人でもひーひー言っているのに、9人育てるなんて神か!と思いがちだが、当時は地域みんなで子を育てていた。稲作で生計を立てるなら、「家と家族」は「会社と社員」の関係に似ているし、村全体がだいたい親戚というグループ会社でもある。仕事も子育てを含む「暮らし」ぜんぶが共同で行われたのだ。

私の父が幼いころは、一家12人だか16人だかで生活していたというから、農村三度目の驚愕である。窯の飯は取り合いで、親戚の家でこっそりおにぎりを食べさせてもらったと聞くが、さもありなん。「子は勝手に育つ」を地で行く環境だが、その意味は「親以外の人たちも、たくさん面倒を見てくれる」から。現代とまるで違うので、そこを履き違えないでおきたい。

こうして見ると、私は身分と時代が違っても、「子育ては複数人で」「母親だけが子育てするのではない」という形態を好ましく思っているようだ。やっぱりな。
……そんな人に朗報、現代でも新しい住まい方が出てきている。

シェアハウスに住む「ネオ家族」
最近知人を通して知ったのが、ひとつ屋根の下に、数家族が一緒に暮らすという生活スタイルだ。その方たちの場合は、「夫婦(フルタイム共働き)+子1人」&「夫婦」で子育てを助け合って暮らしているもよう。

また一時SNSで話題となった、「夫婦+子ども+妻の彼氏」が同居して、彼氏も子の面倒を見るスタイルもあり、平成の一般的な結婚観から巻き戻り、先の農村風味が強くなっていると感じる。

■いいところ、わるいところ


ハイ、むりやり総括です。こう見てくると、「みんなで子育て」は不可能ではないし、母親の負担を減らすには大人数で住むのが一番!と結論づけたくなる。が、そのぶん他人とガチで関わらねばならない。夫一人に対しても「分かり合えねえ」と弱音を吐いている私は、いったい何人と何度、何時間、話し合いを重ねればいいのだろうか。

アラフォーである私の親世代からすると、農村の共同体な生き方はある種ウザく、単身で都市部に暮らす気楽さに憧れがあったらしい。めんどくさい付き合いのない、核家族という小回りの利く単位で暮らすことが、自分の人生を自由に生きると同義であったのかもしれない。

それも分かる。ワンオペで家事育児仕事を回すことに慣れてしまったワンオペ妻は、自分+子どもの最小単位が効率的で、むしろ夫がいない方がスムーズだ。となれば、家族のラクなかたちはワンオペを極め、夫から金をもらうやり方なのか……。

これでOKだと思うワンオペ妻も多いだろうが、私はどこかひっかかる。
それは妻にとっての家族生活の目的が「一日の用件をスムーズにこなして寝ること」となり、子どもの成長にいるであろう余白やアソビを許せなくなりそうだから。

結局、私にとってのよき家族像/生活像は手探り中である。でも確かにあるのは、夫がいるのにワンオペで暮らすことは、けっこうさみしい、この本音だ。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。