私はママ友と井戸端会議で談笑するより、「子あり人生、どう生きていく?」を(酒を片手に)語らうことが多い。フツーの人のフツーじゃない家族価値観をさぐる「結婚インサイト」で、ママ友たちにインタビューしているせいもある。

その席で必ず飛び出てくるのが、夫と妻のアンフェアネスだ。端的にいえば、「就労妻に家事育児がのしかかり、精神的にも体力的にもヤバい、夫の理解がなくてツラい」というもの。

私はこれを「昭和夫と平成妻の悲劇」と呼ぶことにした。


■昭和夫のいいぶん、平成妻のいいぶん。


昭和夫の言い分はだいたいこうである。「オレの方が稼ぎがいい。オレが働いていた方が効率がいいのだから、妻は疲れない程度に仕事をやって、家事と育児をやっておいてほしい」。妻が専業主婦だったりするとこの傾向はさらに強まり、「稼いでから言ってよね」となってくる。

平成妻の言い分はだいたいこうである。「結婚/出産前と同じようにバリバリ働けないのは分かるけど、キャリアを完全にあきらめたくはない。仕事を辞めて総収入が減ることは避けたい。夫は家事と育児にもっと参加してほしい」。

ふむふむ。
昭和夫も平成妻も、家庭運営のために「お金」が大切だと思っている。が、「夫の稼ぐ力」と「家事育児の労力」とを天秤にかけたとき、昭和夫は釣り合うか「オレの稼ぐ力」の方が重いと思っている。

そして平成妻は「家事育児」の方が重い、または家事育児の負担があるせいで夫と同じように働けないというフラストレーションを抱えている。

昭和夫は不思議に思う。お金部門を引き受けると言っているのに、なぜか妻がカリカリしているから。

平成妻はイライラする。専業主婦志望ではないので、やりたくないことを押し付けられるように感じられるから。

ここで双方とも共通しているのは、「家事育児を自ら好んではやりたくない」という本音ではないか。子どものことは好きだ。子どもが生まれてきてくれてありがたく、とびきり素敵な存在だと思っている。が、毎日24時間顔をつきあわせて育てることが好きかといえば……そうでもない。

これを大きな声で言うと「産んだ責任!自己責任!」とかあらぬ方向から(とくに母親が)叩かれるご時世である。後ろめたさもあるため、とくに表明はせず子離れまでの時期をやり過ごしておくかってなもんである(脱線するが、自己責任を理由にするならば、なぜ自ら就職した会社に対しての悪口は許されるのに、子育ての愚痴はこんなに叩かれるのだろう?)。

■昭和夫の理想はサブスクリプション(定額使い放題)か?


さてこんな本音の前提で次、である。
昭和夫には、月々生活費を納めるから家庭運営は丸投げしたいというインサイトが見える。何かに似ている……あ、今流行りのサブスクリプション契約だと思った。

サブスクリプション(通称:サブスク)とは「月額○○○円でサービスを使いたい放題」のビジネスモデルだ。昔ながらのところだとトレーニングジムがあり、最近だと音楽・動画配信サービスのほか、アパレル業界の洋服借り放題、ネイル業界の塗り放題、ホテル業界の泊まり放題、飲食業界の飲み放題など、まさに今が旬!のサービス形態だ。

昭和夫は月々の生活費を払い、家族を養っている反面、「家族し放題」ともいえるサービスを受けているのではないか。

「家族し放題」の内容は、「一家の大黒柱認定」と「衣食住+人とのふれあい」だ。これは昭和夫の職場で幅を利かせているであろう価値観「結婚するのが当たり前/家族をもって一人前」を満たすし、自尊心も保てる。

昭和夫の相方が、このサブスク的家庭運営にOKを出せる昭和妻であれば丸く収まる。内政を自らのプライスレスの仕事と思えれば昭和妻の不満は少ない。

ただ、経済観念のある平成妻は不満炸裂である。そもそも、家族ってビジネスのサービスじゃねえし、無理やり当てはめたとしたら月額料金をもっと高くしないと(私の)人件費的に合わない、しかも私も生活費を入れている「客側」なのに、恩恵がないのはおかしくね!?と叫びたくなるのは当然だ。

というわけで、「サブスク家族」の形態は、昭和夫+平成妻の組み合わせにはフィットしない考え方なので、夫さま方におかれましては、それを認めるところから入っていただくと、妻さま方の日常のイラつきがマシになるかもわかりませんよ、と言っておこう。

またお分かりのように、流行りのビジネスモデルも事業体によってはフィットしないものである。とあるスーツカンパニーは、ローンチから半年でサブスクリプションモデルを終了するというから、いわんや夫婦をや。

夫と妻の家庭運営モデルは、時流に合わせるのではなく、他からぶっとんで見えたとしても、ふたりの価値観を優先させたオーダーメイドでいいはずだ。

最適な案をひねり出し、実行するのは、本当にカロリーが要ってなかなか見つからないものだけど……(何を隠そう私は、のばしのばしにして10年経ち、ようやく本腰を入れだした)。

さて、昭和は過ぎ、まもなく平成最後の冬である。次の時代はどんな価値観が生まれるのだろう。時代に取り残された「平成妻」にならないよう柔軟に生きたいなと思いつつ、時代は変わっても、人が変わることって意外と難しいよなあ、なんて思っている。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。