世の中の母親たちはぎりぎりのところで頑張っている。そして常に思っている。

「ワンオペ育児なんて無理ゲーだ」

いやほんと、そのとおりである。
出産で大ケガをしているような状態の体で、体内から母乳を分泌し、それを徹夜しながら与えるだなんて、命を削る行為以外の何物でもない。母親はアンパンマンかっつうの! ……いや、ワンオペ育児の母親はアンパンマン以下かもしれない。力が出なくても誰も新しい顔をよこしてくれないんだから。


そして、赤ちゃんは歩くこともできなければしがみつく力すらない。
抱っこしないとろくに移動できないくせに、抱っこの主要な担い手とされている母親はホルモンの影響で腱鞘炎になりやすくなるって、仕様として矛盾しまくっているだろう!

実際、人類学の観点からもワンオペ育児では無理があるといわれている。
そもそも人類は、狩猟採集の歴史が長かった。猿人として登場したのが約700万年前で、そこから農耕が始まる約1万年前まで、男性は狩りに出て家から離れ、女性は家の近くで採集を行いながら“共同育児”をしていたのだ。

農耕生活が始まったのだって、人類の長い歴史からすればつい最近のこと。核家族で、しかも共働き世帯が主流という現代の家族形態なんて、そこから考えるとどれだけ特殊なのか、という話である。体の仕様が追いついていないのも当然だ。

しかし、そこで「つらい」と当の母親がいくら訴えても、オッサン政治家などは、「いや~母親は強し、ですな! 子どものためにこんなに頑張れる。素晴らしいねっ!」とズレたリスペクトをするので、「求めているのはコレじゃない感」を味わうことのなんと多いことか。

ここはぜひ、「ワンオペ育児ってどうみても無理ゲーでしょ!」ということの明確なエビデンスを突き付けて、世の中にワンオペ育児解消を訴えかけていきたいところ。
そう思っていたところに、そんな研究を始めようとしているという話を聞きつけた。

研究をするのは、千葉大学の工学研究院で研究員をしている志村恵さん。
さっそく詳しい話を聞きに伺った。

■新生児が母親の生活リズムに同調するとき、しないとき



今回始めようとしている研究では、ワンオペ育児と母子の生活リズムの関係に注目しているのだという。

母親は出産までは昼に活動し、夜に睡眠をとるというリズムで過ごしているが、出産後は夜間も空腹を訴える赤ちゃんに授乳するため、赤ちゃんの生活リズムに引っ張られて、この昼と夜の区別がなくなってしまう。

一方で、生まれたばかりの赤ちゃんは、昼夜関係なく空腹を訴え、その都度寝るという生活リズムだが、生後7~11週目にはすべての新生児で昼夜の区別がつくようになっていく。

ここで、出産後に母子同室で過ごすと、母と子の生活リズムは同調しやすくなる。しかし、母子同室であっても生活リズムが同調しない場合もある。

しかし、生活リズムが同調しないことは、赤ちゃんよりも母親にとってよい影響を及ぼすらしい。もしかすると、母親の産後うつやホルモンバランスの崩れを抑える作用があるかもしれない。……あくまでこれは仮説なのだが。

しかし、なぜ母子同室でも母と子の生活リズムが同調しないのだろうか。これは、今までの研究では明らかになっていないのだが、志村さんは、こう考えた。

「もしかして、母親以外に育児に介入している人がいるからではないか」と。

その、育児に介入している人物とは、父親かもしれない。今までは、生活リズムは母親と赤ちゃんしか測定していなかったが、同居している父親の生活リズムも調べれば、ワンオペ育児かどうかで母親や赤ちゃんの体にどのような変化が現れるのかがわかるかもしれない。

というわけで、今回の研究では、次のような手法で調査を行う予定だ。
まずは、妊娠中から父親と母親に測定器を着用してもらう。この測定器は腕時計のような形をしており、睡眠のリズム、光を浴びた時間、心拍、脈拍が測定できる。また、胎動のサイクルから、胎児の睡眠サイクルも測定できる。

そして、出産後は両親だけでなく赤ちゃんにも測定器をつけてもらい、引き続き同じ項目を計測する。
さらに、スマートフォンアプリを使って、家族の就寝時間や起床時間、食事や家事などの生活の時間を記録することも検討している。父親がどの程度赤ちゃんと過ごしているのか、そして両親のどちらが育児を担当したのかも記録してもらうのだ。

そして、出産前の3ヵ月から出産後約1年後までの期間、両親の生活リズムを比較し、どのように変化するのかをみていき、どの要因が赤ちゃんのリズム形成にかかわっていったかを明らかにするのである。

「協力してもらう家族は、10組は確保したいところですが、測定ミスを想定して、15組ほどの家族に協力していただくのが理想です。でも、妊娠中から協力してもらえる家族を探すのは難しいです。また、測定器などの設備にも費用がかかります。これらの研究費をまかなうために、クラウドファウンディングを使おうと思います」(志村さん)

新生児の概日リズム形成過程を解明し、育児支援に生かす!|学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」
https://academist-cf.com/projects/86


では、志村さんがこの研究を始めようと思ったきっかけは何か。
なぜクラウドファウンディングという方法を使おうと思ったのか?
そのあたりの話は別稿にて紹介する。

【関連記事】
「ワンオペ育児は不自然」となりそうな研究のクラウドファンディングをしてみた
http://mamapicks.jp/archives/52246812.html

今井 明子
編集者&ライター、気象予報士。京都大学農学部卒。得意分野は、気象(地球科学)、生物、医療、教育、母親を取り巻く社会問題。気象予報士の資格を生かし、母親向けお天気教室の講師や地域向け防災講師も務める。