クラウドファンディング、やったことはあるだろうか。
いわゆるネットで集める寄付や投資のことで、一般的に協力者は何かしらリターンとなる見返りをもらうことができる。まあ、ふるさと納税みたいなものか。

私のサイフの紐はけっこうカタめなのだが、「ワンオペ」とか「つわり」などのワードを見ると、共感を通り越して思考停止し、勝手な使命感にかられる。

先日、編集部を通して「新生児の生活リズムの形成過程を知るため」、ゆくゆくは「行動生理学的にみて母親のワンオペ育児は不自然なのでは?」という仮説を証明するため、研究者がクラウドファンディングを募っているということで、千葉大学までお話を伺いに行ってきた。

【関連記事】
「ワンオペ育児はやっぱり無理ゲー!」に関する科学的検証が始動まぢか
http://mamapicks.jp/archives/52246811.html

研究のテーマをざっくり説明すると、人類はワンオペ育児よりアロマザリング(母親以外の大人も共同で子育てすること)が適しているのでは?というもので、本研究はその証明の第一歩となりうるものである。

具体的には新生児の赤ちゃんに母親だけが昼夜つきっきりの場合と、父親などのほかの大人が介入した場合、赤ちゃんの生活リズムの作られ方に差はあるのかを調べるもので、被験者は妊婦、夫、お腹の中の赤ちゃんの3人。出産後も調査を続ける長期戦で、合計約1年ほど生活リズムを測定するという。

詳しい研究内容は別稿にゆずるとして、ひとまず私はこの研究の動機、いわゆる“エモい部分”をお伝えしたい。


研究員の志村さんは以前、医療設備のメーカーに勤務されており、あるとき産婦人科に入り込む機会があったそうだ。3日間、診察の様子を見ていたところ、産婦人科医は昼夜問わずの激務だった。

母親の相談が長引いたり、赤ちゃんが思い通りに育たず泣き崩れる母親がいたり……妊娠出産のご経験がある読者も分かると思う。赤ちゃんの心拍を確認できたとき、できなかったとき、性別が分かった時……ドラマは診察室で起きている。

志村さんもそこでさまざまな母親たちを見た。授乳指導のとき、ひとりで困惑しながらやっている人、旦那さんも同席の人、純粋に赤ちゃんと育児を喜べる人、そうでない人もいた。その喜怒哀楽がうずまく妊婦や母親に対し、病院側はしっかりケアできるリソースがないことも気がかりであったという。

本来、新しい命が誕生することは幸せなことであるはず。妊婦さんやお母さんが明るい育児を楽しめるようになるには、そして出産育児の医療現場が健全に機能するにはどうしたらいいか。志村さんはこれを課題として会社を退職し、アカデミックな環境を選んだ。現在は千葉大学大学院の人間生活工学研究室に在籍している。


さて研究には何が必要か……といえば、研究者の信念と粘り強さと、「カネ」だ。
アカデミック業界にとんとヨワい私は初めて知ったのだが、研究予算は国からの科研費(科学研究費補助金)や学振(日本学術振興会)の助成、共同研究をしている場合は企業からの援助でまかなわれるという。

ただし、国に申請する科研費の通過率はたったの2割ほどだといい、今輝いているAI系やバイオ生化学系に比べ、ニッチな人間工学(→本研究)は通過しにくいという。あいにく研究界において“社会的意義”はあまり問われないようだ。

……いや、でもソレ大切ですよね? 研究って生きてる人のためにあるんじゃないっすか!? 今と未来の母親の心身を助けるには、「ワンオペ育児、子どもにとってもイカンよ」の裏付けが大切なのだと思うんですが。

というわけで、初めて支援をポチってみた。たったの1,000円だが、参加して応援している気になっている。志村さんが選択したクラウドファンディングは40万円以上集まらないとオジャンになる形式なので、もうちょっと、あとちょっと……!

新生児の概日リズム形成過程を解明し、育児支援に生かす!|学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」
https://academist-cf.com/projects/86


面白いのは、5万円を寄付すると専用の解析レポートが付く点だ。つまり支援者は妊婦さんが適していて、自分と夫とお腹の子で実験に参加し、その結果をオーダーメイドで分析してくれるのである。寄付というより、自分の赤ちゃん専用のリズムを知って育児に活かすよい体験を買うという趣である。

現在ネットで「育児」を検索すると、関連ワードとして「ノイローゼ」「疲れた」「イライラ」などが表示される。いつになるか分からないけれど、「アロマザリング」とか「父親」などの言葉が出てくるようになったらいいなと思うのだった。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。