ちょっと前の話になるが、昨年末の紅白歌合戦で西野カナ氏の『トリセツ』という歌をじつは初めて目にして、そして驚愕した。おそらく新婦から新郎へ宛てたプレゼン的ラブソングで、女子の不条理を「私の取り扱い説明書」という形態にして開き直るアイデアはさすがと思ったのだが、歌詞中の自我の押し売りに腰がひけまくったのである。


そういえばかつて、『部屋とYシャツと私』という同じようなテンションの歌もあったなあ、と記憶をたどってググったら、こっちは「一蓮托生の覚悟」を表明する歌であった……。どちらもエグみが効いているが、私だったら後者を肝のすわったパートナーだと感じ、一生一緒にいてくれや、と言いそうである。

さて、新旧歌合戦の話題はいつか書くとして、今回はアイデアを拝借し、我が身の「トリセツ」を考えてみたい。光陰矢の如しでびゅんびゅん過ぎる毎日、それにともない衰えゆく身体。考えてみれば家だって築40年ともなれば水回りはアブなく、基礎にガタが来て当然である。しかし周りを見渡せば、今にも壊れそうになりながら、家事に育児に仕事に、とオーバーワークを繰り広げている母親たちは多い。

ましてこの季節となれば、やれノロだ、インフルエンザだ、小1/小4の壁だのと、突発&計画的にぶっこまれてくる黒イベントが到来。おちおち冬太りもしてられないぜ……。

というわけで、アラフォーの限りあるエネルギーをエシカルにエコロジーに使うために、端的に言えば、ほどほど楽しく生き延びるために、事前におのれの限界を知り、そのトリセツを夫はじめ家族やまわりに周知させておくのは大事なのではないか? いや、それを通り越してゼッタイ必要なんじゃないかと思ってきた。だって、カーサンは一時的に倒れることはセーフでも、心身が壊れたら家族崩壊の危機になるから。

さて、本稿の言いたいこと、「『トリセツ』作って周知して、心身ともに健やかに子育てしたいね(それを受け入れてもらうかどうかは別の話だけど)」は以上である。

ご参考までに、私のトリセツの一部を公開しておくので、参考になれば幸いだ。
(後編詳細は後日……!?)


【トリセツ1】
「母親/嫁だから〇〇しろ、して当然」と言われると壊れやすくなります。


私は、父は会社員、母は専業主婦で、きょうだいがいる、というNHKがモデル家族にしているような家庭で育った。ゆえに母は家事育児を素直に「自分の仕事だと思って」邁進してきた。そこはなにも悪くない。……が、骨の髄までしみ込んだ「あたりまえ」は、時代が変わって母親たちの環境が変わったと頭でわかったとしても、ゆるぎなくちょいちょい顔をのぞかせる。

のぞかせるのはいいのだが、ソレを強要されると、私が新しく脱皮しようともがいている足を引っ張られる感覚になるのである。たまたま母に矢面に立ってもらったが、悪気なく旧価値観をぶつけてくる愛しき人もいる。こういうのって子育て界隈に関わらず、何にでも言えることで、自戒を込めて書いておくと、自分の価値観は自分のもの。ひとはひとだ。


【トリセツ2】
人付き合いのルールを破られると、壊れます。


子持ちのアラフォーとなれば、それなりに人付き合いはこなれてきて、適度な距離感を取るのもうまくなっているだろう。が、意図に反してよくない人間関係に巻き込まれることもある。

ことあるごとに再確認しているのだが、ブラックすぎるクライアントや価値観がかみ合わないママ友からは、できる限り私という存在を忘れてもらうことが肝要であり、反対に夫からは、できる限り覚えておいてもらうことが肝要だ。

残念ながら前者の記憶は操作できないのでほおっておくとして、後者には働きかけているのだが無視されると大変つらい。かすり傷だと思ったら破傷風になるので注意しておきたい。

こちらも参考程度に私の友人の対応策を紹介しておくと、彼女は一定期間付き合ったあと、まわりの人間の対応をあらかじめ決めてしまうという。リターンがない人には慶事があってもモノを贈らない、ママ友関係には本心を話さない、反対に大切な友人にはできることを全部やる、というような。

最初は自分を打算的だと思ったようだが、価値観が合わない人とやりとりするとそのたびに小さなストレスがたまるので、決めたルールを守ってつきあう、その方がラクだそうだ。たしかに。


【トリセツ3】
月収が〇〇〇円以下になると、自己肯定感が下がって壊れやすくなります。


私はフリーランスなのでお給料というものがなく、月によってはさんざんな売り上げとなることもある。そしてある金額以下になると、貧すれば鈍すとなり、毎日がまったく楽しくなくなると気が付いた。

「本当はカフェラテを飲みたい、けれどブレンドコーヒーより120円も高い……どうしよう?」といった具合となり、金額優先で物事を決めていくのである。あげくの果てに「自分は、値引き品しか買っちゃいけない人間なのではないか……」と暗くなる。今日明日、路頭に迷うわけではないのに、だ。

月収を定額以上にするには私のがんばり次第となるけれど、とりあえず夫に周知しておくことで、「今月はなかなかいい」とか「暗い」などのシグナルをなんとなく感じてもらえる。私は「そうか」と言ってくれれば認められたようでいいのである。

もはやネイルや髪型が変わったことに気付いてもらうなんていうハードミッションはいらない(そもそも頻繁に変えないし)。生身の人間が同じ家の中で、何かを思って生きていることを実感してもらえばいい……目が合えばいいというか。……私のトリセツ・ハードル、低いのだろうか。


というわけで、人にはそれぞれ異なるストレスのポイントがある。だから他人の基準をいったん置いて、自分のものさしではかることがキモだ。

なにせ母親の心身が壊れてしまうと、回復に時間がかかるし、子どもにも影響が出る。となれば、健やかな状態で子どもを育てるためにも、母はなるべく壊れてはいけない。子育てが罰ゲームに思えていたらけっこうアブないと思っていいだろう……私は何度も思ったことがあるけれど。

トリセツはわがままを押し通すためのものではない。
日常生活の縁の下に隠れがちな母親の状態を家族に意識してもらうことで、明るい家庭と明るい子育ての土台になるものである。パートナーに受け入れられるかは別として、まずはどーんと提示してはどうだろうか。


▼トリセツ追記
・月2回以上、子どもと離れて飲みに行かないと壊れます。
・子どもと離れてひとりでゆったりお風呂に入ると、元気が出ます。
・子どものインフルエンザ×3回分を無傷で乗り切ったあとの雑務はゆるめに再開させてください。気力を使い果たしました……。
(※2019年2月現在。随時改定アリ。永久保証はついていません。)

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。