きっと、皆さま経験されたことだろう。子どもと一緒に電車やバスに乗るときの緊張感たるや、確実に寿命を縮めていると。近頃は子ども嫌いや、優先席否定派もいるらしい。ベビーカーに怒り出す人もいるらしい。そんなところに冷や汗をかきながらわざわざ乗るのはもはや自殺行為に近い……?

公共の乗り物である電車やバスは、社会の縮図である。年齢も、考え方も、恰好もバラバラの人たちが、ただ同じ方向に向かうだけで乗り合わせる。赤子がお年寄りが学生が、車いすの人でも元気な人も、通勤通学に使う人や旅行者のほか、たまの用事で乗っている人もいる。誰もが等しく電車に乗る権利がある。


さて、公共の場所にはマナーが付き物である。では、マナーってなんだろうか? マナーとは、ご存じのとおり禁止事項ではない。乗車している人々が、お互いになるべく気持ちよく利用するための配慮行動である。ここがミソで、個人によって「気持ちいいレベル」と「気持ちよさを求める強さ」が違うから、時に大論争に発展する。

例えば、しばしば炎上するベビーカー乗車について。東京都がいくらベビーカー乗車を推進しようとも、とある乗客は「邪魔と感じる」→「ベビーカーをたたむべき」or「母親と赤子は家でおとなしくしてろ」or「子どもを生んだのは自己責任」などと意見を出したりする。一万歩譲って、わからんでもなくはない。

で、その手の発言をする人たちの根底にあるのは、「ひと様に迷惑をかけてはいけない(≒自己責任論)」→「ひと様に迷惑をかけるやつは許さなくていい」という主義である。ただコレ、弱いものに向けられると、いじめの構図である。

妊婦、赤子連れ、子連れの親は、今の世の中、悲しいことに社会的弱者である。妊婦さんにいたっては身体的弱者だ。こういう弱者に悪意を浴びせる言動は、繰り返すがいじめでしかない。いじめはひと様に迷惑をかけることだから、「赤子連れは電車に乗るな!」という言動は、皮肉なことにマナー違反になると思うのだが、いかに。

それにこの手の他人への厳しさが自分にも向いてくると、途端に大変生きづらくなるけれど、それで大丈夫なのかな?

■どんな配慮をしたらいいのか?


ここからは私個人の話になる。拙宅には車というものがなく、これまで電動自転車+電車で移動してきた。子連れで乗車1~2時間、乗り換え1~2回はザラ、という生活をしてきたので多少は慣れているつもりだ。

とはいえ、どデカいベビーカーでわざわざ批判を浴びる根性はない。ので、公共交通機関用のコンパクトなベビーカー(セールで5,000円)を買い、通勤時間帯は避け、なるべくドアの戸袋の前のスペースにピットインして存在を消す、という方法をとってきた。もちろん赤子の存在は消し切れるものではない。赤子がぐずったら、抱く→おもちゃ→せんべいかパンを与える→絵本でしのぐ、のである。

今から思えば、スマホを見せたっていいと思うけど、「スマホ育児」と揶揄されるのが気に食わなかった。そして、見知らぬ潜在敵に「ここまでやってんのに、気軽に叩くなよ?」という、むしろアテツケをしたかったのかもしれない。

それでも泣く、そんな時の最終兵器は抱っこ紐+ストールの下でおっぱいをくわえさせるのである(※授乳ストールではなく、まるかぶりポンチョタイプ←普通のストールにスナップをつけた)。安心してください、ポンチョなら気づかれないし、うるさいのよりはマシじゃない?

そして赤子が10ヵ月くらいになってハタと思った。ベビーカーは「卵が先か鶏が先か」論争に似ている。荷物が多いからベビーカーが欲しくなり、ベビーカーを持って行くから荷物が多くなるのだ。私はリュックに必要最低限の荷物をつめ、10kgの赤子をおんぶして駅まで自転車をこぎ、乗車直前に抱っこスタイルにして乗車することにした(リュックは背負うか、床に置く)。重いし腰も痛いが、これが一番スムーズなのである。異様に混む駅のエレベーターをパスしてエスカレーターに乗れることも良い。

そして10ヵ月の赤子が泣く原因は、だいたい「ヒマだから」であった。そうとくれば、赤子に向かって世間話をすればいいのである。ほぼ私の独り言だからイマジネーションはフルスロットル。アブない人と思われても結果オーライだ。

■ワキ汗つゆだくの件


そんなこんなで、だましだまし乗車してきたが、1度、私の精神が崩壊したことがあった。遊び疲れた5歳と2歳を連れてベビーカーなしで乗車、座席に座れたことがアダとなり、2人とも深い眠りに落ちたときだった。乗り換えしたかった駅は過ぎ、最後のチャンスの駅にきた。

起きるあてのない2歳を抱っこし、5歳を揺り起こしたら、「やだーーーー!!!ねむたいーーーーー!!!!」と爆音で騒ぎだしたのである。

声があまりにも大きくて、逆にしいんと静まり返る車内。全身に突き刺さる視線。頼むから静かにしてくれ!!と小声で言えば、火に油。5歳の「いやだああああ!!! ママなんか、大っ嫌いいいいいい!!!!」ボリュームは増し、鼓膜がビンビンゆれるなか、私はタガが外れるのを感じた。

≪みなさん、うるさいですよね!? きっと今頃SNSやらで子どもの声がうるさいのにおさめられない母親を攻撃してますよね? しつけがなってないとか、子連れで乗るんじゃねえとか思ってますか? でもね、みなさん、これが子どもなんですよ。ご覧ください、大人が簡単に制御できないエネルギーの塊、これが、こ、ど、もなんゃーーーーーー!!!!!≫

……もちろん絶叫したのは、心の中である。
私の表情が欠落していたからだろうか、誰からも何も言われなかった。
ご迷惑をおかけしましたが、ご理解、ありがとうございました。

■本当は温かい目で見守っているかも?


上記の爆音騒動、私にとっては一刻も早く逃げ出したい状況だが、実は電車の各所で見られることである。その時私は、まったくうるさいとは思わない。そして制御不能の子どもに対して焦っている母親を見ると、私はエールを送りたくなる。あなたは私だ。

たまに気分はキュア・エール(前作のプリキュア)となり、「眠いのかな?」とか「ウチもよくあります」とか、微笑んで言ってみたりする(なんなら抱っこしたい)。一人の時なら席はソッコウ譲る。

場合によっては子どもはハッとし、もじょもじょ照れて落ち着くし、お母さんはホッとするのが分かる。私も乗り合わせた人々にそうやって助けてもらったことが幾度となくある。まずは話しかけるだけでいい。出でよ、熟女力! ちなみに先週は、見知らぬおじさまが私のバギーを持とうとしてくれたぞ。あざます!

世間には、赤子連れにとっていい人も確実にいる。乗り合わせた子育て中の人や経験者は、きっとお母さんを応援している。

だから熟女力でもってHugっとキュア・エールに変身し、困っている子連れママに積極的に関わっていくことで、「手を差し伸べるマナー」が根付いていくかもしれない。たのむ、根付け。電車に乗るだけで寿命を縮める思いをするというのは、そもそも違うのだから。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。