4月1日の午前11時過ぎ、PCの前に向かいながらも、もうすぐかなと時計をチラチラ。
11時半ぴったりにテレビをつけて待つこと数分、内閣総理大臣記者会見で発表された新元号は「令和」だった。

えっ、カッコいいじゃん!!かなりイケてるんじゃない!?

何となく、「新しい元号、全然しっくりこない~」と言っている自分を想像していたから、「令和」の響き、意外性、と同時に耳になじむ感じに思わずサムズアップしそうになった。


3年前、天皇陛下が「生前退位」の意向を公表されてから、ことあるごとに「もうすぐ平成も終わるんだねえ」と言いまくってきた。
この1年くらいはそこに輪をかけたように「平成最後の〇〇」と叫ばれ、見飽きた、聞き飽きた部分もあるが、年が明けてからはいよいよというムードも高まり、「もうすぐ新元号発表だね」「あと1ヵ月で改元じゃん」と割とワクワクもしていた。

そもそも普段の生活は西暦を使うほうが圧倒的に多いし、世間のお祭りムードには賛否あるものの、そう滅多にないことだし、何より「令和」の響きが気に入ってしまったので、個人的にはかなり本件を好意的に捉えてきた。

ちなみにこの春、平成最後の卒園児・新一年生となった我が子は、当たり前といえば当たり前だけど改元についてはあまりよくわかっていないようす。ただ、「平成最後のクリスマス」と何度も言われていたことがかなり耳に残っていたみたいで、「今年からはクリスマスがなくなってしまうの?」と心配そうな表情で尋ねてきた。

たしかに平成も令和も意味が分からないのに、「最後の」を連呼されたら不安を煽られるかもしれないなあ。良い機会だし、改元についていっちょ教えてみるか、と思いついたものの、そもそも何から説明すればいいのかという時点でつまずいてしまった。

まず、天皇陛下がどのような存在かを6歳児に解説するのがなかなかハードルが高かった。
「外国でいうと王様みたいな感じなんだけど、王様ではないんだよね……。『象徴』って言われてるんだけど『象徴』じゃわかんないよね……。代表、ともまた違うんだけどね……。」と、我ながら何を言っているのかよく分からなかった。

ただ、5月1日から新しい「令和」になること、「令和」になってもクリスマスはあるし、今年は「令和最初のクリスマス」ってきっといろんなところで言われるはずだよ、とだけ伝えると、フーンみたいな顔をして、もういいやという様相だったので、計画は見事に頓挫した。また折を見て、もう少し分かりやすい解説に挑んでみようと思う。


思い返せば、私自身が親から天皇制について教えてもらった記憶はないが、小学校低学年くらいには何となく理解していたから、学校で話を聞く機会はあったのかもしれない。そういえば式典などで君が代を歌う機会が生じるのって小学校からだなあ、と先日、娘の入学式に出席したときに思い出した。

改元といえば昭和から平成に移行したタイミングのことはかなり鮮明に覚えている。

昭和64年(1989年)が明けてすぐのこと、当時小学3年生の私はまだ冬休み中で、居間でコタツに入ってテレビを見ていると、天皇陛下の容体を報じるニュース速報が何度も流れていた。

体温が何度であった、脈拍がいくつになった、血圧は……と詳細なデータを目で追っていたけど、体温はまだしも脈拍や血圧についてはまったくピンとこない。ほんの少し前も同じようなニュースが流れていたけど、さっきと比べてよくなっているのかな、それとも悪くなっているのかな、全然分かっていないのは私だけなのかな……と数値の動きについていけない不安を感じたことは強く印象に残っている。

家庭内まで厳粛な雰囲気に包まれていたわけではないのだが、なぜか家族に「これどういう意味?」とは聞くことはできずに、ぼんやりとニュース速報を眺めている数日間だった。

天皇陛下が崩御して、新しい元号は「平成」と発表された瞬間もリアルタイムで覚えているが、どのチャンネルに変えても特別番組を放送しているものだから、何も見たいものがない、退屈……と打ちひしがれてしまっていた。

小学3年生のクラスでは、学校で起きたことや日々のやり取りを綴った学級通信を毎日担任が手書きで配ってくれていたのだが、「昭和から平成へ」というテーマで構成されたある日のおたよりには、その前日に日記帳で先生に伝えていた「テレビでその特番しかやってないから驚いた、ビデオ屋さんすごく儲かっただろうね」という私のコメントが掲載されていて、猛烈なテレビっこぶりが露呈されてしまった。

また、別のクラスメイトが発言した「昭和のインパクトが強かったから、まだまだなじめない。昭和70%、平成30%っていう感じ」というコメントも載っていたのだが、すごく難しいこと考えるんだな……と感心しつつ、70%30%という表現は独特で非常に面白かった。

その後はまたありきたりな日常を過ごしていたので、平成に変わったばかりの社会の様子までは詳しくないのだが、個人的に平成始まってすぐの出来事といえば、消費税のスタートだった。

100円のものを買うときにはプラス3円払わなければいけないらしい、値札の通りにお金を払うだけじゃダメらしい……程度の知識だったが、なにぶん意味が分からないので、抵抗したい気持ちでいっぱいだった。

4年生に進級したばかりで、そんなにお金を支払う場面なんてない、毎月『なかよし』を買うくらいしかお金を使う楽しみなんてない生活だったけど、それまで360円だったのが370円に値上がりしたのは地味に打撃で、私の貴重なお小遣いが……と歯ぎしりしていた。

その消費税も今年には10%になるとか言われているし、『なかよし』は現在580円らしい。今の小学生たちはうまくお小遣いをやりくりできているだろうか。

そのほかも、昭和から平成にかけては、TVに飽きたらレンタルビデオ屋に行くしかなかったが、今はオンデマンドサービスが充実しているから、家から出なくても退屈しないな、と要所要所でこの30年余りにおける変遷を感じていたところだ。


このところ頻繁に平成を振り返る番組や、ネットでの特集記事を見かけるが、昭和から平成に変わるときの緊迫した空気を比べると、平成から令和はかなり明るいですよね、などと有識者が語っていて、あのとき感じていたただならぬ空気は、やはり皆に共通していたものだったようだ。

いつの時代もそうだけど、変化の直後ではなくて、10年とか20年とか経過したのちに、「あの時はこうだったね」と振り返るものなのだろう。

最近の娘を見ていると、日々ニュースや情報番組を熱心に見入っていることが増えたから、今は意味が分からなくても、数年後にふとしたきっかけで、「平成から令和」について考えることもあるかもしれない。

とりあえず親としては、平和で穏やかな時代であってほしいな、良い時代になってほしいな、と月並みなことを願うばかりだ。オールドファッションな価値観を「昭和的」というように、時代にそぐわないものを「それって平成の考え」みたいに呼ばれるように前向きな変化があってほしいなとも思う。

そして、平成最後の駆け込みセールもいいけど、令和最初の大売り出しにも期待している。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。