この部屋に何をしに入ったかを忘れる。
芸能人からご近所の人まで名前が出てこない。
メモをとったのに、とったことを忘れる。
ゴミ出しルールが変わろうものなら、なかなかアップデートできない。
……などなど、子どもを生んでから、脳の機能が低下したのでは?と自覚している方はいるだろうか。


加齢のせいか、睡眠不足のせいか、頭の中に消しゴムが発生したからなのか。私は健康診断の際、医師に相談しても、「育児中はよくあることですから」で一蹴され、もやもやしたまま7年が過ぎようとしていた。

そんなおり、「スマホ脳」という言葉を知った。
NHK『クローズアップ現代+』の特集によると、いつ何時もスマホを見ていると、物忘れが激しくなり、判断力や意欲も低下するというものだ。

スマホに依存すると30~50代の働き盛りでも、もの忘れが激しくなり判断力や意欲も低下するというのだ。患者の脳では前頭葉の血流が減少。スマホから文字や映像などの膨大な情報が絶えず流入し続け、情報処理が追いつかなくなると見られている。「スマホによる脳過労」「オーバーフロー脳」などと呼ぶ脳神経外科医も現れ、脳の異常は一時的なのか、認知症の初期症状なのか、議論が始まっている。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4249/index.html
NHK『クローズアップ現代+』2019年2月19日(火)放映分より


これ、わかりみが深すぎる。このページで紹介している「脳チェック」の項目はほぼ当てはまり、「心身健康チェック」も5つ。スマホだけに罪をなすりつけるつもりはないが、確実に影響は受けているだろう。


それもそのはず、MAMApicks読者の方にも、出産時期とスマホ台頭の時期が重なった方、多いんじゃないだろうか? 初めての子育てに直面し、分からないことはかたっぱしからスマホで検索。子どもの看病をママ友とLINEで励ましあい、SNSで外界とつながった気になる。我が子の決定的瞬間を写真にビデオにおさめ、動画を子どもに見せる。そういえば授乳しながら原稿を書いたこともあった。

こうなるとスマホは、育児ママたちの命綱ともいえる存在だ。
スマホのない育児のメリットを想像してみるに、間違った/余計な情報に振り回されることなく、時間をとられないことがあるだろう。……が、それなりに覚悟がないと命綱は手放せない。

名実ともにスマホ脳だったとして、私たちは子どもたちの要請をある程度こなしながら、タイムリミットのあるタスクをこなすことはできるのだろうか。


以下は我が家の、とある朝の場面だ。

長男(6)「ママ~、しょうゆせんべいは何枚でしょう?」
私「えー唐突、3枚? その前に着替えてからね」
長女(3)「ママ―、このまえね、〇〇ちゃんとプリキュアやったんだよ」
私「そう、良かったね、靴下はいてくれる?」
長男「違うよ! これなぞなぞだから! なーんだ?」
私「分からないなー。着替えてからやろう」
長女「もう、ママ全然聞いてくれない! プリキュアは今のじゃなくて昔のだったんだよ」
私「プリキュアごっこをしたってこと?」
長女「違うよ!」
私「何について言ってるのか分からないんだもん、あ、パズルのことを言ってるの?」
長女「そうだよー!!さっきから言ってんじゃん!」
私「(初耳だわ!)」
長男「ママ~迷路やって。オレ書いたやつ」
私「今はムリだよ、学校行こうよ。」
長男「昨日、明日やるって言ったじゃん!」
私「そうだっけ? ねえ、靴下はいてってば!」
長男「靴下は履いてるよ!」
私「あ、間違えた、じゃあ着替えろ! なんで下着のままで靴下なんだよ!? あと5分で下に集合でしょ!」
長女「ママ、怒らないでよ!」
私「怒りたくもなる」
長女「笑って! ママ、笑ってよ!!」
私「着替えたら、笑うって!! 早く支度しなーーー!(爆音)」

→結論:タスク遂行は非常に困難。

みなさまのご家庭でもよくあることだろう。
こういうことを毎日やっていると脳の情報処理が追い付かない。というか脳だけでなく、身も心も何もかも追いつかない。いやもう、私のことは置いていってくれてかまわないです、さようなら……!

そう思っていた平成最後の春。時代は令和となってから5日間、熱が出た。
37度後半~38度後半を行き来する煮え切らないタイプである。病院も空いていないので、私は寝た(料理はした)。

いつものようにスマホをいじろうとしたが、その気力もなく、結果的に5日間、スマホと子どもたちから距離を置くことになったのだ。

するとどうでしょう!
カフェインを摂らなくても頭のうすもやが晴れ、やるべきタスクが絵で見えた。隣の部屋へ行ったらきちんとハサミを持って帰ってこれたし、図書館のリサイクル箱にインクカートリッジを入れてもらうこともできた(これは快挙)。メモをとったことも覚えている。これは……脳が新時代仕様にアップデートしたのだろうか?

……いや、休んだからである。


スマホの場合は、好んで情報を取りに行き脳がオーバーフローになるとしたら、育児は受け身なのにオーバーフローとなる。子どもが投げてくる要請や短期/長期的なタスクをかたっぱしからさばく力が必要で、情報処理能力と体力と気持ちのどれかが不足すると、簡単に限界が来る。

この際、仮病でもいい。無理やり1日、スマホと家事と育児からおもいっきり距離を置いてみてほしい。そして一人で寝てみてほしい。それで頭がスッキリしたならば、脳は身体はオーバーフローだったのかもしれない。

逆説的だが、私たちが健やかな育児を続けていくには、時にスマホと育児から自衛することも必要なのではないか。

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さて、くだんの「しょうゆせんべいは何枚」だったか?
答えは「うまい」。

ヒマになったとき2分くらい考えたら分かったのだが、それを放棄したくなる時は、脳か育児がオーバーフローしているのかもしれない……。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。