子育てをしていると、ちょっと人の手を借りたいシチュエーションにわんさか遭遇する。以下、実際私が体験&見聞きした場面だ。さあ、こんなとき、あなたならどうするだろうか。

【エピソード1】
シンガポールのショッピングモールのフードコートにて。
1歳2ヵ月、10kgの子どもを右手に抱え、左手でトレイに乗せたフォーを持つあなた。重くて、どっちも落っことしそう……。そんなとき、現地の方が「手伝いましょうか?(英語)」と声をかけてくれた。あなたならどうする?

【エピソード2】
日本の小さな公園にて。子どもと同じ園に通うお友だち3~4人が遊んでいて、それぞれのママ3~4人が立ち話をしている。夕食の献立を考えていたあなたは、ドレッシングがきれていることに気づき、至近のスーパー(徒歩20秒)で、それだけ買いたいと思った。あなたならどうする?

【エピソード3】
休日の昼、日本のショッピングモールのフードコートにて。
子どもと同じ園のお友だち10人(未就学児~小学1年生)と大人7人で一緒にランチをすることに。子どもたちのテンションは高く、スキあらば店内を走り回ることが予想される。
子どもたちはファーストフードのハンバーガーが食べたいと言っており、それが一番無難である。だが、あなたはハンバーガーを食べたくない。ファーストフード店から100メートル離れているうどん屋で買いたいと思うが……。さあ、あなたのランチはどうする?

これらの問題は、一見何でもなさそうで、回答する過程にはあなたの「他人に迷惑をかけてはいけない呪縛」や「人に頼る力」、「ママ友(パパ友)との関係性」が複雑にからみあっていて、要は「ちょっとお願いします」が言えるかどうかのリトマス試験紙だ。
大げさに言えば、その積み重ねで、育児が辛い or そうでもないと明暗が分かれるのではないだろうか。

■実際は「自分でやる」が多数


さて、上記のエピソードの実際は以下だった。

【エピソード1】
これは私が体験したこと。現地の男性がせっかく声をかけてくれたのに、「なんか悪いな」と思った私は、とっさに「No, Thank you.」と言ってしまった。日本で流行っていた自己責任論と、とぼしい英語力が悪い方向にいった結果、男性は「え……!?」と拒否されたような悲しい顔をして、その場から立ち去った。

あああ、そうだった、シンガポールの空港では、タクシー乗り場がどんなに長蛇の列であろうと、子ども連れは別レーンから即乗せてくれる。子どもを厄介者みたいな目でみないばかりか、赤ちゃんは人気者なのだ。

男性はきっと、「いらないわ、あっちいって!」と言われたくらいショックだったんだろうなあ……すいません、ほんとはフォーを運んでほしかった……!(ので、以後親切は買いまくる方針に転換した)

【エピソード2】
ドレッシングを買いたい人は、近所のママ友(Aさん)であった。彼女は遊びが終わってグズグズの子どもと一緒にスーパーに行き、ドレッシング1本買うのにものすごく時間がかかったらしい。
Aさんは、とても謙虚でいいひとである。たぶん私が「ドレッシング買いたいんだよな~」などとその場でつぶやいたら、「いいよ、子どもを見ててあげるよ~」とやさしく言ってくれるのだが、自分からは言い出しにくかったのだろう。

【エピソード3】
これは私とママ友(Bさん)の話だ。私はどうしてもハンバーガーが食べたくないので、子どもたちを大人に「ちょっとお願い」してうどんを買いに行った。が、Bさんはしぶしぶハンバーガーを買っていたのである。

私「今さらだけど、大人用うどん班と子ども用ハンバーガー班に分かれて買って来たらよかったよね!?」
Bさん「それだ! ふだんワンオペだから、大人と分担する発想がなかった(笑)」
私「わかる(笑)」
助け合おう、頼り合おう、そう誓い合った瞬間だった。

■頼るのにも慣れが要る


振り返ってみれば、こういうエピソードは日常にゴロゴロあって、ママ友たちと「助け合っていこう!」と誓うこと約100回なのだが、のど元過ぎればワンオペ生活に戻っている。

根底にあるのは、「大人1人で自分の子を2人みるのも大変なのに、ママ友がみる子どもを増やすなんて悪行かよ……」との遠慮だ。でもなあ、それじゃあ進まない……なんてぼんやりしていたら、ママ友たちから手を差し伸べてくれるのである。

娘が入院したとき、息子の預かりを申し出てくれたBさん、ダダをこねまくる息子を夕飯に呼んでくれたCさん、台風で小学校休校のおり、締め切り数時間前の私を気遣って、息子を連れ出してくれたDさん、ほかにもおいしい夕食に誘ってくれたり、日本酒を酌み交わしてくれるママたちの貴重さよ……いま原稿を書きながら、感動の涙を禁じ得ないのである。うう、友よ~!


私は、子育て期間中に仕事のキャリアを積んだという意識が、あまりない。ここ数年、いったい何をやっていたのか記憶がない。だが、気づけばご近所コミュニティが色濃くなり、自前のセーフティネットができあがりつつある……これぞ、人生のQOLを爆上げする、プライスレスの価値じゃないですか。

さらに淡い希望も生まれた。長男を預かってもらって言われるのが、「長男くん、お行儀よくてすごい」とくるから度肝を抜かれる。こじらせボウズは、借りてきた猫になるらしい……。そうだった、母親だけナメられるのだ。とくれば、ママたちを困らせている他家のボウズたち(失礼)も、母親から離れれば、話が通じるようになるのでは……!?

返報性の法則(恩をうけたら恩で返したくなる)も手伝って、私は「預かる番」をちょっとワクワクして待っている。いや、進んでしゃしゃり出ることにして、セーフティネットの網目を細かくしていこうと思う。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。