3月から開始した長い長い休校期間がついに終了し、6月1日、娘が久々の登校にと朝から出かけて行った。

休校開始のタイミングでは、まだ娘を学童に通わせていた我が家。
学童サイドからは、「ご両親が在宅している場合はできるだけご家庭での保育をお願いしたい」と要請は受けていたものの、夫婦ともに仕事をしている状態で子どもを見ることはとてもできなかった。


毎日弁当作りにヒーヒー言いながら朝から夕方まで通わせる一方で、職員さんをはじめとする現場の負担や感染リスクが頭をよぎらないわけではない。これでいいのかな、としばらく煩悶し続けた後、4月7日の緊急事態宣言を受け、ひとまず学童の登室は控えることを決意した。

当初はゴールデンウィーク明けまでという予定だったので、数週間頑張ってみようと覚悟を決めたが、あれよあれよという間に自粛期間は延長され、2ヵ月弱が経過。緊急事態宣言が解除された今も、分散登校で授業はすぐに終わってしまうし、感染拡大の状況次第で改めて自粛期間に舞い戻りという可能性も考えられるが、とりあえず「我が家のWork from home with kids 第1章 ~完~」という感じである。

出産を機にフリーランスに転向した筆者、リモートワークには慣れている、というか、在宅で仕事することがデフォルトの働き方だ。

会社勤めする友人には、「家で仕事するのって集中するのが難しそうだね」と言われたこともあったけど、7年あまりやってこられたのだから、メリットもデメリットも込みで、私には非常に合ったワークスタイルなんだろうなとも思う。

夫のシステムエンジニアという仕事も、PCとWi-Fi環境が整っていたら、どこでもできる(と一般的には言われている)、リモートワークと親和性が高い働き方だ。

そんな我が家でも、このたびの「Work from home with kids」はとてもじゃないが成功と呼べるものではなかった。半分程度なんてものじゃない、10分の1以下なんじゃないかというくらい、仕事のパフォーマンスはがた落ちした。


このSTAY HOME期間中、子どもを見ながら在宅勤務を乗り切るためのライフハックやハウツーに関する記事をどれだけ目にしたか分からない。

作るのも片付けも楽な昼ご飯のレシピ、オンライン会議を子どもに邪魔されない方法、夫婦でいかに子どもの世話を分担するか……など、どれもが当事者ならではの実感がこもったアイデアや工夫の賜物で、そのニーズもむべなるかな、という感じだ。

日中は基本的にテレビを見ないのだけど、たまたま娘がつけたタイミングで放送していた夕方の情報番組でも、「子どもを見ながらのテレワークは大変」という特集をやっていたので、多くの子育て家庭にとって身近なトピックなのだと実感した。


筆者に限って言えば、昼に何を食べるか考えているだけでワクワクしてしまう、要するに在宅勤務の楽しみを昼ご飯に見出しているタチなので、昼ご飯作りはそこまで苦痛ではない。

仕事の合間にさくっと食べるものだから基本的に手の込んだことはしないけれど、娘も食べやすいものを作ってみようかとちょっとだけ趣向をこらしてみたり、一緒に簡単なお弁当を作ってベランダで食べることは結構楽しかった。

もちろん学校で給食を食べてきてくれる方がよっぽどありがたいのだが、娘は私の手作りかどうかにはこだわらず、レトルトのスパゲティや冷凍うどんも好んで食べるので、ネタを考えたくないときはそのどちらかで十分だ。食事に関してはこちらが気張りさえしなければ、ストレスを抱えずに済んだ。


しかし、問題はそれ以外だ。
学校から配布された山のような課題と学習計画を見比べ、進捗確認、丸つけ、間違いがあれば戻して再度チェックする。繰り上がりの足し算、引き算がつまづけば、こちらも片手間では対応できないので、仕事する手を止めて隣で解き方を説明した。

そもそも、学習計画を一瞥しただけでは課題の内容がよく分からないこともあって、一緒にプリントを読み込んだ。元気いっぱいの小学生が一日中家で退屈せず過ごせるわけもないので、定期的に散歩に連れ出し、縄跳びの練習にも付き合った。

ゲームは昼ご飯の後に1時間、その他の遊びがテレビや動画に偏らないように、塗り絵や工作のアイデアを検索して、印刷しまくっていたら、ものすごい勢いでプリンター用紙が減っていくので急いで買いに走った。

進捗確認や丸つけは、ただ手と目を動かすだけの単純作業のように思えていたが、×が多いと、あからさまにテンションが下がって、「もうやりたくない」とゴネ出してしまうので、声かけのタイミングや伝え方にも見極めが必要になる。

保護者の負担も半端じゃなかったけど、友だちにも会えない、お出かけの予定もなし、と行動が制限され、家族3人が常に顔を突き合わせる状況に一番気づまりだったのは、私でも夫でもなく、娘だったのかもしれない。

現状に不満を募らせては泣き出してしまうことも度々あり、話を聞いてなだめて……とケアしていたら午前中が終わってしまったこともあった。そんな日々のなか、私が仕事に集中できるのはよくて30分だ。普段なら2~3時間で終わらせられるはずの仕事も、何度も中断されてしまうと丸一日かかってしまう。

我が家だけが特別な状況ではなく、どの家庭も必死だったのだと思う。
直接の知り合いではないが、オンライン会議に子どもの邪魔が入ったら欠勤扱いと見なされる職場があると聞いたときは、声が出なかった。

そりゃ、子どもに邪魔されずに滞りなく会議が進むのは親としても理想だけど、家庭というハコの中で子どもの存在を一切見せずに仕事するのは現実的なのだろうか。

大体、今この時点である程度「お互い様だよね」と思えない働き方はハードすぎやしないか。既存のシステムに取り繕うように押し込めるだけ押し込めて、すでにあふれ出してしまっているのに、何も起こっていないような顔をすることは自然なのかという疑問があった。

休校になったのも、学童を自粛するのも大人の都合で決まったことであって、子どもたちからしたら知ったこっちゃない話だ。子どもの気持ちを置き去りにしたまま、働き方を変えずにいると、どこかでほころぶのは目に見えている。

昨今、色んなところで話題にのぼる「サステナビリティ」ってやつを考えるんだったら、できないことをできない、これ以上は無理です、というラインで手を上げるなり、タオルを投げてもらうなりした方がいいなと思うようになった。

そこから起こしたアクションはどれも大したことではない。
今までは、クライアントからがメールが来たら1秒でも早く対応しようと心がけていたが、「今から娘の縄跳びに付き合うので、戻ってから返します」と一言言えば、「思いっきり跳んできてください!」と返してくれた。

娘が隣の部屋で仕事している夫に構ってもらおうとするのも止めなくなった。
夫もペースを乱されて困るかもしれないが、子どもを見ながら仕事するっていうのはこういうものだよ、と関係者も含め理解してもらう機会と思ってもらえばいいのだ。

これまで、保育園の入園申し込みや学童の申請時に在宅勤務は外勤と比べてポイントが低く設定されていたが、これを機に制度が見直されることにも期待しよう。今ある枠組みにおさまらない分は適宜申告していかないと、保育園や学童の場がどれほど重要かも伝わらない気がする。


……と言ったものの、何もかもスパっと割り切ることができたわけではない。
「今から縄跳びに付き合ってきますので」が通用するのは、付き合いが長い、信頼関係を築けている相手限定なので、こちらの事情を汲んでもらえず、めちゃくちゃタイトな納期に苦しめられることもあった。

娘に寄り添うために、今は仕事をペースダウンしてもいいんだ、と自分を納得させたつもりでも、作業に集中したいときに声をかけられると「ママはいま仕事中なの」と言ってしまう。

散々議論が交わされたオンライン授業の導入についても、我が自治体では一向に進む気配もなかったし、休校が開けた今、すっかり忘れ去られている様子にも納得はしていない。
何のインタラクションもコミュニケーションもない、一方通行な課題をすべて親が管理なんて、今回は耐えたけど、次回以降同じ対応にされたらこっちも黙ってないぞという気持ちだ。


それでも今は日中にはかどらなかった分を娘の就寝後に持ち越して何とかやりくりしようという発想はなくなった。もちろん、そこで減収するとか、先細りしていく可能性もあるけれど、どうせ長く働くことになるののだから、今の自分をすり減らさないように過ごしたいのだ。

久しぶりにトライしたお菓子作りはとても楽しかったし、スタジオに通わないと絶対に続けられないと思い込んでいたヨガも動画を見ながら家でやる習慣がついた。近所のテイクアウト情報を収集していると地域との密着感が生まれたし、時間がないと手が出せないと思っていたメニューが意外と簡単に作れることが分かったりと、家庭や暮らしに向き合うことで気づいたこともたくさんある。

発見したことは大事にしつつ、でも精神論や根性論で喉元を過ぎるのを待つでもなく、困ったことや苦しかった気持ちには蓋をせず、ニューノーマルについて時間をかけて考えてみたい。ほかの家庭はどんな様子だったのか、友人たちにもヒアリングしてみるつもりだ。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。