『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』著者である海猫沢めろんさんインタビュー後編。ゲームやアニメに没頭し続けた日々から子育てへのシフト、家族の形やこれからの子育てに対する価値観のアップデートまで、幅広いトピックについて語ってもらった。

【インタビュー前編】
意識高くなく、でも「お手伝い感覚」ではない子育てを。

■アニメやゲームにハマって早や20年。違うルートに移行したら、そこは引き返せない育児のデスゲームだった



海猫沢めろん氏(photo/森清)

――前編では、どうすれば子どもにも「男性も家事をやるのが当然だよね」と捉えられるか?という話をしましたが、子どもにその価値観が自然にインストールされるってことはないんでしょうか。親の教育が不可欠だと思います?

海猫沢めろん(以下、めろん):僕はかなり難しいんじゃないかなと思いますよ。今って未婚率も上がっているし、男同士でいる方が楽だからって、女性と交わらずに過ごすこともできますからね。女性が介在しない世界に生きていたら、男女平等とか考える必要もないだろうし。

そもそも僕自身が美少女ゲームオタクで常に三次元より二次元が上位にあるようなタイプだったんですよね。中学生くらいからずっと美少女アニメや美少女ゲームを20年くらいやり続けてたから、もうベテランの域ですよ。でも、ある時からループに入っていることに気付いて、自分の行動パターンが読めるようになっちゃったんです。

こういうキャラクターが好きで、こういう風に熱して冷めて、そしてまた次を見つけてお布施して……と思うと飽きてきちゃって、このシナリオはもう20年やったから、違うルートに移行しようかなって。


――発想が完全にゲームですね。

めろん:僕の中ではゲームですよ。違うルートを選べるタイミングはそれまでにもあったはずなんだけど、恐いから保留にしていたのかもしれない。
でもいつかその分岐はなくなるし、僕の場合はここから先もずっと同じシナリオだろうから、違う方を選んだのはよく言えば変化を求めたってことかもしれないですね。違うルートに行ったら、もうそこは引き返せないゲームが始まっていたってことなんですが……。


――育児というデスゲームに突入したわけですね。でも、子育てには小説家ですら想像できない世界が広がっていたんじゃないでしょうか。

めろん:僕がそもそも小説家になろうって決めたのは、すごく飽きっぽい性格で、同じことをずっとやる仕事は向いていないと思ったからなんですね。
小説家であれば、探偵を書いたり、ヤクザを書いたり、毎回違うことに挑戦できるじゃないですか。
文章を書く上でも常に変化は必要だから、そういう意味では仕事にも良い影響はあったと思いますね。

一人でいたときは、先ほど話したどちらを選ぶのかという分岐が見えて、「もしこっちを選んだらこういう結果になるんだろうな」っていうifの世界がシミュレーションできたんですよ。
でも、仮に今「子どもがいない僕」がいるとしたら「子どもがいる僕」のシミュレーションは絶対できていないと思います。全てが想像の埒外にあることで、自分の想像力を越えてくるものだから何もかも分からないことだらけで。

そういう意味ではまったく別の世界が見られるものだし、良い悪いは別として世界は広がりましたよね。自分だって子どもだったはずなのに、どうしてこんなことを覚えていなかったんだろう?って思うことも度々ありますし。

■「家族はずっと一緒にいなきゃいけない」は昭和モデルの最後の牙城。卒婚をポジティブに捉えてもいいんじゃない?


――私も、子どもができたことで見えた世界が今本当に楽しいので、すごく共感します。
その一方で、トレードオフにしているものもあるだろうなとは思いますが。

めろん:子どもができると友だちが誘いづらくなりますからね。そのトレードオフによって孤立させられていくことはあるから、子どもができてもある程度友だちと密にしたほうがいいですよ。

僕もいまも男同士で遊んでるのが楽しいから、あと10年後くらいかな、子どもがある程度大きくなったら卒婚するのもアリだなって本気で思っているし、もうパートナーとも話しています。


――卒婚、最近よく聞くようになりましたね。コロナでつまびらかになった夫婦関係もあるようだし、これからさらに増えるかもしれませんね。

めろん:実際卒婚した人は「もっと早くすればよかった」って言ってますからね。
ずっと家族が一緒にいなきゃいけないっていうのは昭和モデルの最後の牙城だと思うから、この先絶対増えるんじゃないかな。


――とはいえ、まだまだ卒婚をポジティブに捉えていない向きもありますよね。

めろん:経済的に問題を抱えていたら、卒婚することでより苦しくなってしまうリスクもありますしね。でも共同生活をする上で家族にこだわる必要はなくて、友人同士でシェアハウスしてもいいわけですよ。

先日も、晩年の女性が集うシェアハウスを特集した番組を見たんですけど、お互い看取らないとか介護はしないっていうルール決めをした上で、毎晩リビングでおしゃべりを楽しんでましたよ。すごく理想的だし良かったな。

ただ、卒婚以外にも、僕はポジティブと思っているけど、世間ではネガティブに捉えられていることって結構あります。たとえば、僕はコミュニケーションに「理解」は必要ないと思っているんです。

「分かり合えないなんてさみしい!同じ気持ちになってほしい!」じゃなくて、「分かり合えないことを前提において、どこまで分からないのか」というラインを引くこと、断絶を意識することが僕にとってはコミュニケーションなんです。

分かり合うってそれは同化を求めているわけじゃないですか。そんな「エヴァンゲリオン」の人類補完計画みたいなことを強制されても、「いやいや、それは無理」って平行線をたどるだけですから。


――夫婦間で「どうして分かり合えないの?」って思っていると、子どもにも同じ発想を求めてしまいそうですよね。

めろん:それは子どもに対しての支配になりますからね。
僕は思春期とか、何か問題があったときも家族に相談とかしなくて、親に何か聞かれてもちゃんと答えなかったんですよ。家族ってハートウォーミングなもの、とか、育ててくれた親に感謝、みたいな世界観がサムいって思う時期だったから。
思春期になると、親よりも友だちからの影響がその後の人生に影響を及ぼすでしょうし、何かあっても親に言わなくてもいいと思いますね。


――でも、エッセイを読んでいると、めろんさんはすごくお子さんのこと好きなんだなって分かりますよ。

めろん:うん……今はもう友だちですね。ワンオペ育児していた頃を想うと、本当に今は楽になりましたしね。もう振り返りモードに入っているかもしれないです。
これから先、思春期に突入したら、親より友だちの方が人生に影響を及ぼすだろうし、個人にフォーカスして何かをしてあげることなんてできなくて、せいぜい環境を整えることしかできないと思うんですよね。


――子どもが成長する上で、親が手を出さないのは本質かもしれないですね。

めろん:ただ、実はそろそろ問題が発生するのも分かってるんですよ。というのも、パートナーがそろそろ医大を卒業するからなんですけど、医者として働き始めたら、家のことは僕が何とかするしかないんですよね……。多感な時期になってくるから、遊びに連れて歩くしかなくなるかも。でも悪影響かなあ(笑)。

海猫沢めろん氏プロフィール
1975年、大阪府生まれ。兵庫県姫路市育ち。高校卒業後、デザイナーやホストなど職を転々とし、文筆業に。カリスマホストがクラウドファンディングを使った子育てに挑戦する『キッズファイヤー・ドットコム』で第59回熊日文学賞受賞。ほか著書多数。



真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。