原発事故にともなう乳幼児や妊婦の被曝リスクについては、さまざまな情報が入り乱れている。今回、原子力の専門家でもジャーナリストでもなく、医療、しかも専門医の立場からの見解を求めて、日本医療学会のご協力のもと、愛育病院院長の中林正雄先生と、東京慈恵会医科大学准教授で小児科医の浦島充佳先生による「乳幼児・妊婦の方の放射能問題を考える」Q&Aに回答いただいた内容を転載させていただくことができた。

乳幼児への影響は?

「乳幼児が問題視されているのは、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)の報告(2008年)によると、大人のがんは増えなかったのに、当時乳幼児だった子供達が数年後甲状腺がんになったという事実があるからです。

2001年に長崎大学の柴田先生が現地で調査した結果、当時10歳未満の子供の被曝したグループ、妊娠中だった女性達・その子供達のグループ、事故後に妊娠して出産した子供達のグループ、という3つのグループの比較をしました。
koujousengan
10歳未満のグループでは女の子は4910人の内24人が数年後に甲状腺がんになりました。一方男の子は女の子のおよそ1/3の発症頻度でした。もともと甲状腺の病気は女性の方が多いので、男女によって発症頻度の差があると思われます。

妊娠中だった女性達・その子供達のグループでは、女の子は1151人、男の子は1258人が出産されていますが、女の子の中からわずか1人、甲状腺がんに数年後になっています。この子は、食べたものの中に放射能を含むものがあって、それで発がんの原因になったかもしれません。

事故後に妊娠して出産した子供達は女の子が4646人、男の子が4826人ですが、甲状腺がんになった子は1人もいませんでした。」

日本では今後、子供の甲状腺がんが増えるのか?

「日本の暫定基準内の食品を与えていれば、リスクは0ではないが、甲状腺がんに将来なる可能性は、チェルノブイリと比較してかなり低いと考えられます。

チェルノブイリでは、10日でおさまりましたが、日本ではその目処がたっていません。また旧ソビエトでは子供達が口にする飲食物の放射能レベルを測られていませんでした。日本では水道、食品に関して暫定基準を設けており、それを超えているものに関しては出荷停止、食べないように勧告を出しています。この点が大きな違いです。

旧ソビエトで、将来甲状腺がんになってしまった人達は、当時の乳幼児が、牛乳や汚染されたミルクを知らず知らずの内に多く摂取してしまったことが、甲状腺がんになるきっかけになったとされています。」

甲状腺がんになるのはどうして?

「内部被曝という形で放射性物質を含む水や食品、空気を取り込むと、吸収され、喉の下あたりにある甲状腺に強く取り込まれ、周りに放射線を出し、その近くにある細胞の核に放射線をあて、遺伝子に傷が付き、がんになります。

遺伝子はおよそ3万と言われますが、細胞の運命を司る遺伝子(傷を修復する・遺伝子を自爆させる遺伝子、細胞分裂を止める遺伝子等があります)にたまたま放射能があたってしまうと、修復できない・自爆できない細胞が異常に増えて、結果として、がんになります。

放射能が甲状腺に取り込まれただけではがんになりませんが、運悪く、そのような細胞にあたると発症してしまいます。」

日本医療学会
日本医療学会 動画Q&A
社会福祉法人 恩賜財団母子愛育会 愛育病院
Dr.浦島充佳公式サイト

深田洋介深田洋介
学研の編集者、AllAboutのWebエディターを経て、サイバーエージェントの新規事業コンテストでは子育て支援のネットサービスでグランプリを獲得、その後独立。現在は子育て・教育業界×出版・ネット媒体における深い知識と経験・人脈を駆使して活動中。2001年生まれの娘の父。