震災後の原発事故による放射能汚染問題で、とくに子を持つ親たちは気持ちが晴れない日々が続いている。「ただちに健康被害はない」のだろうが、今後の農作物・海産物汚染の拡大が確実な状況では、福島周辺の子どもたちはもちろん、国内の広い範囲の子どもたちが内部被曝による健康リスクが高まることになった。

最近やたらがん保険の広告が目につくのは、自分たちの健康は自己責任で、というのを暗に伝えているのかと勘繰るほどだ。少なくとも子どもたちには、それこそ広島・長崎の「被爆者健康手帳」のような、国による将来に渡る健康保障が必要だと訴えたい。
「被爆者健康手帳」とは、被爆者が所有し、医療機関で提示することで治療費の全額を国費負担、あるいは自己負担分なしで診察や治療を受けることができるものだ。

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このたび、広島の平和公園でボランティアガイドをされている団体「FIG」の代表、三登 浩成さんに許可をいただき、ご本人のブログで紹介されていた「被爆者健康手帳」とその内容を転載させていただく。



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この「被爆者健康手帳」の実物を見たことがありますか?

本人と家族、医療関係者以外の人が見る機会はほとんどありません。広島と長崎を離れると、医者でさえ見る機会はあまりありません。私の知人がたまたま東京で病気になって、医者でこの手帳を提示したところ、医者は看護婦やスタッフ全員を集めて、「これが被爆者健康手帳だ。」と説明。知人は珍しそうに顔をじろじろと見られたので、まるで見せ物になったようで、いやな気持ちになったそうです。

老人の医療費の負担が増えたころから、病院の待合室で次のようなことが起きています。被爆者健康手帳を持っている老人に「あなたはいいね。原爆で。」と言う人がいるのです。つまり、この手帳を持っていると、個人負担分の医療費が無料になるので、妬んでこのようなことを言うのです。このピンクの手帳にカバーをかけて分からないようにしている人もいます。

ところで、この手帳を持っている人のことを「被爆者」と呼びます。手帳を持っている人は全国で219,410人,平均年齢は77.4歳です(2011年3月末現在)。この1年間で8,155人が死亡しています。

写真の右側の番号のように、被爆者は4つの区分のいずれかに該当します。

・第1号被爆者(直接被爆者):
 決められた地域(爆心地から約4km以内)で被爆した者(135,159人)
・第2号被爆者(入市被爆者):
 爆心地から2週間以内に2km以内に入市した者(53,750人)
・第3号被爆者(救護被爆者):
 死体の処理または救護にあたった者(23,134人)
・第4号被爆者(胎内被爆者):
 上記各項に該当する者の胎児(7,367人)

申請手続きには、被爆の事実を証明する書類か、第三者2人以上の証明書が必要です。従って、被爆した人が全員この手帳を取得できるわけではありません。ということは、それ以外の「被爆者」が大勢いるということです。その中には、差別されるのを恐れて、手帳を取得しない人もいます。

写真の右側は私と母の手帳の一部です。私を妊娠した母が、原爆投下3日後に爆心地から1kmの小町に入市して被爆し、私は4号、母は2号であることがわかります。当日は田舎の母の実家にいて、直接被爆者ではないので、「被爆の場所」は空欄になっています。10年前に死亡した父は当日3kmのところにいたので、1号被爆者でした。

「被爆者」という言葉は誰でも知っています。しかし、残念ながらその定義を知っている人は限られています。

課題はさまざまあるかもしれないが、子を持つ親の不安をいくらか解消できるのかもしれない、新たな「被“曝”者健康手帳」の整備。

2011年8月6日は66回目の原爆忌だ。原爆慰霊碑に刻まれた碑文「過ちは 繰返しませぬから」の一節がせつなく心に響く。
ireihi



深田洋介深田洋介
学研の編集者、AllAboutのWebエディターを経て、サイバーエージェントの新規事業コンテストでは子育て支援のネットサービスでグランプリを獲得、その後独立。現在は子育て・教育業界×出版・ネット媒体における深い知識と経験・人脈を駆使して活動中。2001年生まれの娘の父。