2010年の話になるが、「日本周産期・新生児医学会」において、東京ディズニーリゾートからの妊婦救急搬送について、同地から最寄りの救急医療施設である、順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科から発表があったという。演題は、「東京近郊の巨大テーマパークからの産科緊急症例についての検討」。

その内容によると、2007年1月1日から2009年12月31日までの期間、同施設およびその周辺施設から同病院に緊急受診した患者数は、2007年:41人、2008年:23人、2009年:22人だったそうである。診断は切迫流産が一番多く40人(46.5%)、流産が18人(20.9%)、切迫早産およびその疑いが11人(12.8%)と続いた。過去3年間に総数86人もの方々が受診していたという。
sos


この情報は、ブログ「天漢日乗」の執筆者、移山盧主人氏が書かれていた内容。同氏の許諾を得て、この実態に対する警鐘を抜粋・転載させていただく。
-----
最近、妊婦に旅行を勧める「マタ旅」(=マタニティ旅行の略:編集部註)などという言葉を耳にするようになった。妊婦が高齢化してるのに何を勧めてるんだと思うんだが、当然ながら旅行先で緊急搬送される妊婦さんがいるわけだ。

旅行先からの緊急搬送の危険性ってわかってて、マタ旅などという愚にも付かない、母子の安全を損ないかねない「旅行需要喚起のためのキャンペーン」を行っているのか?

流産・死産を招く危険性が低くない上に、ヘタすると母体死亡の危険もあるんだけど。
その母体死亡が、例えば母親が、「赤ちゃんがお腹にいる今の内にディズニーランドで遊びたかったから」なんて軽率な行動が引き金になっていたとしたら、子どもにとっては、その旅行先は、一生行きたくないだけでなく、名前を耳にすることすら忌まわしい場所となるだろう。

「マタ旅」というので頭が痛いのは、10年以上前から旅行関連サイトでひっきりなしに繰り返される、子育て中は自由に行動できないから、お腹に赤ちゃんがいる間にハワイに行きたい!という妊婦さんと、妊娠は病気じゃないから、旅行の保険では出産費用が下りず、アメリカの医療費は高額なので、もし、異常分娩だとトンでもない額を請求されるという話である。

大体ハワイで入院して1000万円かかりましたなんて当事者が掲示板に出てきて、自分の恥ずかしい経験を語るわけもない。ヘタすると、その高額請求のせいで、家庭が崩壊しちゃってるかも知れないし。

ま、大体お前がハワイに行きたいなんていうからだ!!!から始まって、家庭内がうまくいかなくなっている危険はかなりあると思う。つか、安価なツアーでハワイ行きした庶民的な家庭だったら、請求額がまず想像を絶しているだろう。だから、この手の相談では、成功例を誇らしげに語る人しか出てこないのである。

そういう人の「わたしは大丈夫でした」(普通、この手のメッセージの最後はハートマークとかその手の飾り文字が満載だったり、助詞の「は」を「わ」と書いたり、小文字のひらがなてんこ盛りだったり)なんてのは、あくまでも個人の体験である。

ある一例について経験を語っているに過ぎないのだ。そのたった一例の「無事」が「自分にも当てはまる」と信じて、誰かが大丈夫だったから、自分も絶対に大丈夫ということは残念ながらあり得ないわけで、将来の子どもと自分の幸せを願うのであれば、マタ旅は勧めない。

-----
さらに同氏のこのエントリーに端を発して、沖縄の新生児医療現場の先生からも同様の問題提起があったもよう。沖縄の新生児医療はただでさえパンク寸前の状態にあり、地域住民への医療資源が枯渇している状況であるにもかかわらず、沖縄リゾートへの「マタ旅」妊婦が緊急搬送されることで、わずか96床のNICU(新生児集中治療室)の運営を圧迫するような事態も発生しているそうだ。

▼転載元
東京ディズニーリゾートからの妊婦救急搬送 「マタ旅」は妊婦とその家族を不幸にする第一歩→2007-2009年の3年間で順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科で飛び込み出産1例、命に関わる常位胎盤早期剥離1例、子宮外妊娠1例、流産が18例、入院加療が必要な切迫流産が1例・切迫早産1例
沖縄ではたった96床のNICUを内地から来た「マタ旅」妊婦の早産児が奪う「マタ旅」は妊婦と家族を不幸にする第一歩(その2)日本屈指のリゾート地にして周産期医療資源が乏しい沖縄でも「マタ旅」妊婦が少なからず緊急搬送