アメリカ西海岸・シアトル市の議会で今月9日、公共の場での母親の授乳の権利を保護する条例が、9人の議員の満場一致で可決された。

これにより、公共の場で授乳している母親に、授乳をやめたり、別の場所に移動したり、授乳中の胸をケープなどで隠すようお願いすることは、違法となる。レストランやスーパーなど人の集まる場所や、病院、図書館などの公共施設に適応され、人前でケープなしで授乳することは、基本的人権の一つとして保障されることになる。

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この写真は,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。By various brennemans
シアトルの位置するワシントン州などアメリカのいくつかの州では、公衆の面前で授乳をすること自体は、すでに州法で権利として定められている。今回の新条例のポイントは、「ケープで隠すよう要求することが違法」となる点。

商業施設などに当たり前のように授乳室があり、やむを得ず人前で授乳する際にも必ず授乳ケープを使う日本のママたちには想像しにくいかもしれないが、当サイトでも以前取り上げたように、有名女優ですらケープもせずに堂々と人前で授乳してしまうのがアメリカなのだ。

実際、筆者もショッピングモールのベンチやオープンテラスのカフェで、胸をあらわに授乳するママを何度も見かけた経験があるが、シアトルでは今後、この光景が、市の条例で守られることになる。


ネット上では早速、「おっぱいを飲むことは、赤ちゃんにとってごく自然な食事風景。それを隠す必要はない」という声や、「胸を隠すことをお願いすることすら犯罪になるなんて馬鹿げてる。それなら、成人男女が裸でいる権利も保障されるのか?」という声など賛否両論が沸き起こっている。

シアトルのとあるママは、AP通信の取材に、こうコメントしている。「すべての母親が、公衆の面前で授乳したいわけではないと思う。だけど、母親なら誰でも、赤ちゃんにとってベストなタイミングでベストなことをしてあげたいと思うはず」。

電車の中でぐずられた時、レストランで料理が運ばれてきたまさにそのタイミングで泣かれた時---。
筆者も、母になってみて、「ああ、今ここで人目をはばからず授乳できたらどんなに楽だろう…」と思うこともしばしば。日本人としては、せめてケープを使った方が、ママにとっても周囲にとっても気が楽だろうとは思うものの、シアトルでより多くのママたちが誇らしげに授乳している光景、想像してみるとなかなか楽しいものではある。


恩田 和(Nagomi Onda)恩田 和(Nagomi Onda)
全国紙記者、アメリカ大学院留学、鉄道会社広報を経て、2010年に長女を出産。国内外の出産、育児、教育分野の取材を主に手掛ける。2012年5月、南アフリカのヨハネスブルグに移住予定。アフリカで子育て、取材活動を満喫します!