入学や進級で心弾む4月。しかし春の陽気に浮かれてはいられまい。子を学校に通わせている親であれば必ずある、年度始めの「保護者会=PTA役員、委員決め」が終わるまでは……。
もちろん、保育園時代にも父母会の役員決めはあった。だが保育園では親はみな労働者という同一の条件のもと、会議その他行事は土日開催が基本。何かあってもお互いさまという空気が漂っていた。
一方の小学校。長女が通うのは公立なので、「学区が同じ、地域の人」ということだけが共通項だ。昨年度は意外なほどすんなり決まり、胸をなでおろしたのだが、果たして今年度は……。

さて、当日。保護者会のメインイベント(?)PTA委員決めの時間がやってきた。うちの小学校では、全員が何らかの役割を担うのが原則で、委員や係りなどの種類も多く、選り取り見取りなのだが、如何せん、クラスのまとめ役「学級委員」(2名)が決まらないことにはその先も決まらない。
前年の学級委員の2人が「考えているよりラクですよ」「決まらないと帰れないよ」「二人で同じ仕事をするのだから助け合えるよ」などと呼びかけても、誰も手を挙げようとしない。むろん、私も。平日に開催される定期的な委員会に参加しなくてはならないと聞いており、それは平日労働している身にはムリだと考えていたからだ。
しかし待てども待てども、みな押し黙ったまま。つい、「平日の委員会はどのくらいの頻度か?」なんて、それによっては引き受けてもいいよ的な質問を発してしまった。まあ、実際、その頻度によってはいいかなとは思っていた。だって、そうしないと終わらない。早く帰宅してメールチェックしたいし、次女の保育園のお迎えもあるし……。
そのうち、飲み仲間である一人が、「平日の委員会には参加できないけど、やってもいい」と果敢に手を挙げた。彼女も働く母、しかも下に二人の保育園児がいる。フリーランスの私は、平日の会議でもなんとか調整できるかも、相方となる彼女もよく知っているし……と、彼女に続いて手を挙げてしまった。
かくしてその先の、さまざまな委員、係りは非常にスムーズに決定していくのであった。
後に他クラスの友人に言われた。「ほかに“できる条件”が揃っている人がいるはずだよ。もう少し我慢していたら、他の人が手を挙げたかもよ。でもさ、委員会に出てみると、結局、ほとんどの人が仕事もっていたり下の子がいたりするんだよね」
そう。委員決めは、まさに忍の一文字。どれだけあの空気に耐えられるか、どれだけ強靭な忍耐力が備わっているかが、分かれ道となるのであった。
その後に開かれた、1年生から6年生まで全クラスの学級委員が結集する第1回の学級委員会。試練はここにもあった。学年ごとに決める学年長が、わが2年生だけ決まらないのだ。仕事で2人が欠席している。「欠席者も含め、平等にアミダクジにしましょう」。
どこからともなくそんな声が出て、焦った私は提案した。「ほぼ毎月ある会議を当番制にしませんか」。私だけでなく、今日、仕事で欠席している人が長になってしまったら、その会議に出るのは難しいことは明らかだ。これで少しは負担が軽くなる。
セーフィティネット(?)が受け入れられ、クジを引く。当選したのは欠席者のうちの一人だった……。しかし、「欠席の場合は代理の人にすべて委ねる」といったルールもなかったため、この決め方には疑問だとの声が出て、いまだすっきりしない状況が続いている。
なぜ多くの保護者は役員、委員になるのをイヤがるのか――。勝手な推測だが、まずは「時間に縛られる」ことが大きいのではないか。私自身の拒絶の理由もコレである。そんな時間があったら、お買い物やランチ、お稽古事を楽しみたいわ、というのと同じように、時間があれば仕事をしたい。
特にフリーランスの場合は稼動が収入に直結する。仮に毎月の会議が仕事がオフの土日に設定されたとしても、その日は空けておかねばならないのだから、ちょっと気が重い。
そのほかの理由としては「面倒くさい」「その器じゃない」などが考えられよう。私だってそう思う。数十人の組織の取りまとめをするのはラクではないだろう。
しかし、一連の委員決めを体験し、あることに気がついた。みな、イメージだけでイヤがっているのではないか。つまり、経験のない委員、係りの本当の活動(仕事)内容をお互い知らないのではないかということだ。
わが子の小学校の場合、事前に活動内容が書かれた資料が配布されるものの、大まか過ぎて実際の稼動状況がよくわからない。例えば前年度の会議の開催状況や各委員会の中のさらなる分担内容などが詳しくわかれば、仕事をしている人でも「これならできるかも」と前向きに捉えられる要素が増えるのではないか。
そもそも今や、働く母も少なくない。厚生労働省の統計(平成19年度)では、子をもつ女性の年齢別就業状況は、30~34歳では44.0%、35~39歳では54.8%、40~44歳では69.7%となっており、約半数が働いているのが現状だ。
したがって、「平日会議」をせめて隔月で土曜に設定するとか、今どきの事情に即した改善があってもいいのではないか。
……と、もしかして、すでにそうした改革をしている学校もあるのかもしれないが。
そして気になるのは、父親の存在だ。PTAのPはいうまでもなく、parent=親である。私の子どもの頃はPTA会長は男性で、地元有力者や商店会長という印象があったが、最近はどうなのだろう。
娘の小学校の会長は近年女性、つまり母が務めている。イクメン流行の今、PTAの父親の参加は増えているのだろうか……。であれば、なおさら、働いている親でも参加しやすい形に改善していくべきだろう。
前回、仕事で出席できなかった私に代わり、保護者会に出た夫は黒一点だったそうで、「もう行きたくない」と。
そこで企業に提案したい。育児・介護休暇だけでなく、PTA休暇というのを設定したらどうか。そう、PTA活動に参加するための特別休暇。はたまたボランティア休暇の範疇になるのだろうか……。
さらに、「拒む理由」を考えていくと、「何のトクにもならない」ことが挙げられよう。
例えば会社で業務以外の係分担を引き受けざるを得なくなった場合、いつかは評価されそれが給与に反映されるというかすかな期待もできる。だが、PTAはまったくのボランティア活動。「一銭にもならないことを進んでやる必要はない」と考える人がいても不思議ではない。
ネットで検索してみると、「いかに断るか」ノウハウを伝授しているサイトもあった。多くがマイナスイメージを抱いているのだろう。
まずはPTA活動の意義を再確認して、活動(仕事)の棚卸をし、現代に合った活動(仕事)の仕方を考える必要があろう。いっそ、コンサルタントを導入して、組織改革、業務改善をしてもいいのでは。また、役員や委員経験者は活動の必要性やメリットを、もっと伝えていくべきだろう。
そうしないと、「拒み続ける親」と「何度も引き受ける親」の二極化が脈々と続くような気がする。大げさかもしれないが、この負の連鎖を断ち切らないと、五月病ならぬ四月病が出ないとも限らない。現に私は、こうしたことが、次女の時にも起こるのかと思うと、憂鬱だ。
ところで、PTAには社団法人日本PTA全国協議会という上層団体がある。そこのサイトを見てみると、会員の定義として、「日本PTAに加入している公立小・中学校のPTAに所属している会員」とある。つまり、私立の小・中学校には関係のない話なのである。さらに検索してみると、私立校では独自にPTA活動をしている学校もあるようだが、ほとんどは、年に1~2回など、親の出番はぐっと少ない印象だ。
確かに、PTA活動が盛んだということは、「地域と学校がきちんと連携している証」と言われることを考えると、PTAとは地域の中心的存在である公立校ならではの活動といえそうだ。地域と学校の関係が深まれば安心なのは言うまでもない。
さらに自らも積極的に関われば、地域のこと、学校のこと、そしてわが子のことなど、さまざまなことがわかるだろう。逆にPTA活動がなくてラクチン、というのは、それだけ学校や子どもの情報が届いてこない可能性もある。
どこまで、どう、関わりたいかはそれぞれの価値観だ。今も昔も「子どもたちのために」活動するのがPTAの目的。この機会に、何を、どうすれば、その目的を達成できるのか、考えてみるとしよう。
そして来年の今頃、「学級委員を経験して本当によかった!」と当コラムで回顧することができれば、言うことない。
もちろん、保育園時代にも父母会の役員決めはあった。だが保育園では親はみな労働者という同一の条件のもと、会議その他行事は土日開催が基本。何かあってもお互いさまという空気が漂っていた。
一方の小学校。長女が通うのは公立なので、「学区が同じ、地域の人」ということだけが共通項だ。昨年度は意外なほどすんなり決まり、胸をなでおろしたのだが、果たして今年度は……。

「学級委員」に誰も手を挙げようとしない
さて、当日。保護者会のメインイベント(?)PTA委員決めの時間がやってきた。うちの小学校では、全員が何らかの役割を担うのが原則で、委員や係りなどの種類も多く、選り取り見取りなのだが、如何せん、クラスのまとめ役「学級委員」(2名)が決まらないことにはその先も決まらない。
前年の学級委員の2人が「考えているよりラクですよ」「決まらないと帰れないよ」「二人で同じ仕事をするのだから助け合えるよ」などと呼びかけても、誰も手を挙げようとしない。むろん、私も。平日に開催される定期的な委員会に参加しなくてはならないと聞いており、それは平日労働している身にはムリだと考えていたからだ。
しかし待てども待てども、みな押し黙ったまま。つい、「平日の委員会はどのくらいの頻度か?」なんて、それによっては引き受けてもいいよ的な質問を発してしまった。まあ、実際、その頻度によってはいいかなとは思っていた。だって、そうしないと終わらない。早く帰宅してメールチェックしたいし、次女の保育園のお迎えもあるし……。
そのうち、飲み仲間である一人が、「平日の委員会には参加できないけど、やってもいい」と果敢に手を挙げた。彼女も働く母、しかも下に二人の保育園児がいる。フリーランスの私は、平日の会議でもなんとか調整できるかも、相方となる彼女もよく知っているし……と、彼女に続いて手を挙げてしまった。
「忍耐力が勝負」だったのだ……
かくしてその先の、さまざまな委員、係りは非常にスムーズに決定していくのであった。
後に他クラスの友人に言われた。「ほかに“できる条件”が揃っている人がいるはずだよ。もう少し我慢していたら、他の人が手を挙げたかもよ。でもさ、委員会に出てみると、結局、ほとんどの人が仕事もっていたり下の子がいたりするんだよね」
そう。委員決めは、まさに忍の一文字。どれだけあの空気に耐えられるか、どれだけ強靭な忍耐力が備わっているかが、分かれ道となるのであった。
その後に開かれた、1年生から6年生まで全クラスの学級委員が結集する第1回の学級委員会。試練はここにもあった。学年ごとに決める学年長が、わが2年生だけ決まらないのだ。仕事で2人が欠席している。「欠席者も含め、平等にアミダクジにしましょう」。
どこからともなくそんな声が出て、焦った私は提案した。「ほぼ毎月ある会議を当番制にしませんか」。私だけでなく、今日、仕事で欠席している人が長になってしまったら、その会議に出るのは難しいことは明らかだ。これで少しは負担が軽くなる。
セーフィティネット(?)が受け入れられ、クジを引く。当選したのは欠席者のうちの一人だった……。しかし、「欠席の場合は代理の人にすべて委ねる」といったルールもなかったため、この決め方には疑問だとの声が出て、いまだすっきりしない状況が続いている。
親はなぜ役員・委員になるのをイヤがるのか
なぜ多くの保護者は役員、委員になるのをイヤがるのか――。勝手な推測だが、まずは「時間に縛られる」ことが大きいのではないか。私自身の拒絶の理由もコレである。そんな時間があったら、お買い物やランチ、お稽古事を楽しみたいわ、というのと同じように、時間があれば仕事をしたい。
特にフリーランスの場合は稼動が収入に直結する。仮に毎月の会議が仕事がオフの土日に設定されたとしても、その日は空けておかねばならないのだから、ちょっと気が重い。
そのほかの理由としては「面倒くさい」「その器じゃない」などが考えられよう。私だってそう思う。数十人の組織の取りまとめをするのはラクではないだろう。
しかし、一連の委員決めを体験し、あることに気がついた。みな、イメージだけでイヤがっているのではないか。つまり、経験のない委員、係りの本当の活動(仕事)内容をお互い知らないのではないかということだ。
わが子の小学校の場合、事前に活動内容が書かれた資料が配布されるものの、大まか過ぎて実際の稼動状況がよくわからない。例えば前年度の会議の開催状況や各委員会の中のさらなる分担内容などが詳しくわかれば、仕事をしている人でも「これならできるかも」と前向きに捉えられる要素が増えるのではないか。
今どきの事情をおもんぱかってくれないの?
そもそも今や、働く母も少なくない。厚生労働省の統計(平成19年度)では、子をもつ女性の年齢別就業状況は、30~34歳では44.0%、35~39歳では54.8%、40~44歳では69.7%となっており、約半数が働いているのが現状だ。
したがって、「平日会議」をせめて隔月で土曜に設定するとか、今どきの事情に即した改善があってもいいのではないか。
……と、もしかして、すでにそうした改革をしている学校もあるのかもしれないが。
そして気になるのは、父親の存在だ。PTAのPはいうまでもなく、parent=親である。私の子どもの頃はPTA会長は男性で、地元有力者や商店会長という印象があったが、最近はどうなのだろう。
娘の小学校の会長は近年女性、つまり母が務めている。イクメン流行の今、PTAの父親の参加は増えているのだろうか……。であれば、なおさら、働いている親でも参加しやすい形に改善していくべきだろう。
前回、仕事で出席できなかった私に代わり、保護者会に出た夫は黒一点だったそうで、「もう行きたくない」と。
「一銭にもならないことを進んでやる必要はない」
そこで企業に提案したい。育児・介護休暇だけでなく、PTA休暇というのを設定したらどうか。そう、PTA活動に参加するための特別休暇。はたまたボランティア休暇の範疇になるのだろうか……。
さらに、「拒む理由」を考えていくと、「何のトクにもならない」ことが挙げられよう。
例えば会社で業務以外の係分担を引き受けざるを得なくなった場合、いつかは評価されそれが給与に反映されるというかすかな期待もできる。だが、PTAはまったくのボランティア活動。「一銭にもならないことを進んでやる必要はない」と考える人がいても不思議ではない。
ネットで検索してみると、「いかに断るか」ノウハウを伝授しているサイトもあった。多くがマイナスイメージを抱いているのだろう。
そもそもPTA活動の意義を再確認すべき
まずはPTA活動の意義を再確認して、活動(仕事)の棚卸をし、現代に合った活動(仕事)の仕方を考える必要があろう。いっそ、コンサルタントを導入して、組織改革、業務改善をしてもいいのでは。また、役員や委員経験者は活動の必要性やメリットを、もっと伝えていくべきだろう。
そうしないと、「拒み続ける親」と「何度も引き受ける親」の二極化が脈々と続くような気がする。大げさかもしれないが、この負の連鎖を断ち切らないと、五月病ならぬ四月病が出ないとも限らない。現に私は、こうしたことが、次女の時にも起こるのかと思うと、憂鬱だ。
ところで、PTAには社団法人日本PTA全国協議会という上層団体がある。そこのサイトを見てみると、会員の定義として、「日本PTAに加入している公立小・中学校のPTAに所属している会員」とある。つまり、私立の小・中学校には関係のない話なのである。さらに検索してみると、私立校では独自にPTA活動をしている学校もあるようだが、ほとんどは、年に1~2回など、親の出番はぐっと少ない印象だ。
積極的に関わることでのメリットを考えよう
確かに、PTA活動が盛んだということは、「地域と学校がきちんと連携している証」と言われることを考えると、PTAとは地域の中心的存在である公立校ならではの活動といえそうだ。地域と学校の関係が深まれば安心なのは言うまでもない。
さらに自らも積極的に関われば、地域のこと、学校のこと、そしてわが子のことなど、さまざまなことがわかるだろう。逆にPTA活動がなくてラクチン、というのは、それだけ学校や子どもの情報が届いてこない可能性もある。
どこまで、どう、関わりたいかはそれぞれの価値観だ。今も昔も「子どもたちのために」活動するのがPTAの目的。この機会に、何を、どうすれば、その目的を達成できるのか、考えてみるとしよう。
そして来年の今頃、「学級委員を経験して本当によかった!」と当コラムで回顧することができれば、言うことない。
![]() | 江頭紀子 調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、6歳1歳の二女の母。 |
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