鉄道やクルマ、飛行機、ロボット、ギター、電子機器に時計に武器と、男子は子どもからオトナまで、なぜか金属モノが大好きという傾向がある。機嫌が悪いときは、だいたいちょっと新しい金属(ミニカーとか)でも渡しておくと、途端に静かになるから、金属には彼らの心を落ち着けウットリさせる何やらが宿っているらしい。

金属が好きな男子は、当然金属への思い入れもハンパないので、それらを擬人化して考えることにも抵抗がない。正面にリアルなドでかい顔がついてるわ、喋るわ、妬むわ、スネるわ、の『機関車トーマス』を初めて見たとき、おそらく女子はみんな「何コレ?」と度肝を抜かれたはずだが、男子はすんなりと受け入れる。あの強烈な顔付き機関車を、子どもでありながら泣き出さずに抵抗なしに受け入れられるメンタリティって結構スゴいと思うのだが、どうだろう。

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さて、しかしこの10年来の日本におけるトーマスの普及といったら、どんな田舎の駄菓子屋の隅でも、何かしらトーマス商品を見つけることができるほどだった。日本の男児は、とりあえず一度はみんなトーマスを経由する。

一度積極的に興味を持とうものなら、本やDVDやおもちゃに留まらず、薬やオムツ、洋服から文房具からお弁当箱からバッグから、持ち物がみんなトーマスとなかまたちでフルコーデできるほどの普及っぷり。トータルトーマスライフが送れる行き届きぶりである。

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先日、我が家では何を思ったか日帰り家族旅行をブッキングし、ロンドン郊外ハンプシャーのウォータークレス線という短い観光用路線で行われる「トーマス祭り」に出かけた。実は7歳の息子はとっくにトーマスは卒業しているのだが、原寸大のトーマスやジェームスに乗れるからさ、となだめ連れて行ったものの、周囲の子連れの子どもを見るとみな3歳前後。年齢的にちょっとトウの立った7歳児は目立っていた次第である。

機関車の到着を待つ間、綿飴屋を見つけたのでひとつ買うと、おじさんが「日本人か?」と話しかけて来た。「わかります??」「うん、日本人の観光客はすごく多いんだ。見慣れてるからな。」

そのおじさんによれば、「トーマスは英国よりも日本での人気の方が高いと思うな。日本から小さな子どもが親に連れられて、直接コイツを見に来るんだぞ。信じられないだろう?」

「何がいいんだかねぇ」と言わんばかりのおじさんの口調に苦笑しつつ、「信じらんないですよねぇ、ホント」、と相づちを打っておいた。でも、トーマスをダシに、男児を海外旅行に連れ出して、自分たちもロンドン観光を楽しみたい親の気持ちもわからないでもない。

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英国から遠く離れた日本で国民的スターの座を欲しいままにしたトーマスに代わり、こんどは英国BBC系列の子どもチャンネル、「Cbeebies」の新機軸、喋って飛び跳ねる顔つき電車の『チャギントン』が日本でも放映開始。

じつはうちの息子も小さい頃、スイスで英国「Cbeebies」のケーブル放送を見ていたので、短期間ながらハマっていたこともあり、日本での反響はどうかなーと思って見守っていた。そして、とうとうこの夏にはプラレールも発売されるとのこと。どうやら大々的にメディアミックス商法に打って出るようだ。

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実はトーマスもチャギントンも、出身国の英国では日本ほど日常のあちこちで目にすることはない。そもそもグッズの数が少ない。もともと勤勉であらゆる意味での集中度が高い日本、オトナも子どもも好きになると、トコトンというか、かなりのマニアックさを持ってトーマスをコレクションしたり、身の回りを関連グッズで埋め尽くす癖がある。

英国ではもともとキャラクターグッズに対してそれほどの情熱がないこと、またそれでトータルコーデなんかすると、むやみやたらとお金もかかることなどから、トーマスは「古典」の一種として愛されてはいても、それほど商材としてポピュラーではない。

チャギントンも同様で、1~4歳程度の未就園児を対象とした子どものアニメ以上の意味を持つことはまれだ。

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日英米に一定数存在する大きなお友だち(=大人のマニア)の間では、チャギントンはトーマスに比べて事実考証が甘いとの指摘で議論の俎上にのせることもあるようだが、英国の子ども界隈で、明けても暮れてもチャギントンという子どもにはついぞ会ったことはない。

トーマスが物語として持ち合わせる毒や歪みを追放して、あくまで軽く、政治的に正しく、バランス良く万人に広く受け入れられることを狙って戦略的に作られたチャギントンだが、その分ファン層も軽く、浮遊的なのかもしれない。


擬人化された機関車や鉄道という分野では、日本には阿川弘之先生の『きかんしゃやえもん』があるが、米国資本のキャラクタービジネスを背後につけた新トーマスやチャギントンの前には沈黙するばかりである。

実は世界的なキャラクタービジネスの投資は、結局日本での売り上げで回収される傾向にあると言う。ブランドやキャラクターを「消費」する国として名高い我が日本、チャギントンたちを潤す余力がまだ残っているだろうか。

河崎環河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、15歳娘、6歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。