どこかで渡された幼稚園年長児向けの冊子をぱらぱらと見ていたら、後半全部、ランドセルの宣伝で埋まっているではないか。「え?もう買うの?どういうことだ?」と思って、小学生の子どもがいる友人に聞いてみると、どうやら、夏のうちに購入する「早割り」なるものがあるらしい。

七五三も成人式も早割り制度により、混まない夏のうちに写真を撮っちゃおうなんて企画があるご時世。そういえば、去年の七五三、のん気にしていたら、シーズンど真ん中で、予約を取るのも大変だし値段も高かったんだった……。

子どもの率直な要望


そろそろ考えておいた方がいいかなぁ。今どきのランドセル、色もデザインも豊富だ。
とりあえず、来年入学を控える息子に聞いてみる。小学生になると、ランドセルっていうカバンを使うということ。いろいろな色があるんだけれど何色がいいか?


「ぼくは赤!」


あぁ、そうきたか……。

確かに今どき赤や暖色が女子の色だなんて固定観念は薄く、男子だってみんな赤でもピンクでも、色とりどりの服を着ている。息子のTシャツを並べてみても、赤や黄、オレンジなど暖色系が多い。

そして、この年頃の男子の心を捉えて離さないものをおさらいしてみよう。ゴレンジャーで一番偉いのは誰だったか。そう、アカレンジャー。いまだにその戦隊シリーズのリーダー格は「なんとかレッド」だ。

ウルトラマンは何色? ウルトラマンレオなんて特別に赤率が高い。憧れの消防車は真っ赤だし、かっこいい特急の成田エクスプレスだって赤がキーカラー。

クマのプーさんの服は赤くて、ミッキーマウスのズボンも赤い、映画「カーズ」の主人公だって真っ赤なスポーツカーだ。

誰だ、女子のランドセルを赤にしたのは! 誰だ、男子の憧れカラーを赤にしたのは!

親の微妙な気持ち


選択肢が増えたとはいえ、ランドセル選びで男子の黒と女子の赤は圧倒的に多いようだ。違う色を選ぶとしても、茶や紺のベーシックな色や、男子でブルー系、女子はピンク、水色等のパステル系が多そうだ。

せっかく子どもが「赤がいい」と思ったのに、つまらぬ世間の常識とやらに押し込めていいのか、そんな度量の小さい子育てをしていいのか、そもそも赤じゃない女の子や黒じゃない男の子を「変」と判断するような排他的な価値基準を持った人間になって欲しくないんじゃなかったのか……なんて、理屈っぽい理想論が頭を駆け巡る一方で、まぁ、さすがに赤だけは思いとどまらせておいた方がいいんだろうなぁ、と無難路線に引き込もうとする心もある。


「赤」と言い出す男子は意外に多いようだ。それがきっかけなのか、メインが黒でステッチが赤、というデザインのランドセルが売られるようになった。これは悪くない。色の配分も趣味良くまとまっているし、確かに赤が入っているので赤好き男児の満足度を上げてくれるに違いない。

子どもの赤要求を察知して先手を打った友だちのお母さん、早々に本人同伴でそのランドセルを見に行き予約したそうだ。

今どきのランドセル


ランドセルがカラフルになったとはいえ、よくみると大人好みする色やデザインが多い。無理もない、平気で3万円台、5~6万円も当たり前、という高価な代物だ。「6年生まで使うから……」と宣伝のコピーでは表現していても、実のところ「お母さん、こういうの、素敵でしょっ」という声に聞こえてくる。大人目線の素敵に趣味のいいラインナップでないと、勝負できないのだろう。

メインの色だけでなく、色の組み合わせも工夫されている。例えばユニセックスなカラーの主流になりつつあるこげ茶。女の子用にはステッチや背中側の色をピンクにしてチョコっぽいテイストにしたり、男の子向けにはベージュと組み合わせて渋く仕上げてあったりする。

親が「浮かないように」と無難な色を選ばせる傾向があるのを売る方はよく知っているからか、メインは赤や黒だけれど、裏とステッチだけ派手な色、など抑えめに自己主張したものも多い。

オーダーメイドで皮、ステッチ、背中側などパーツの色を細かく指定できるサービスまである。なんとも選択肢の多いこと多いこと。

親子の対話……失敗?


よし、ここは、友人の作戦を採用だ。息子に「黒に赤ステッチ」デザインの魅力をアピールしてみよう。ネットで色の組み合わせを試せるランドセルシミュレーター。メインは黒で、ステッチ、縁取り等に赤を多めに選んで完成ボタンをクリック!

「こんなかっこいいの見つけたけどどう? ほら、赤い線すごいいっぱいはいってるよ。」
「こんなのはだめ、ぼくはここの黒いところが全部赤いのがいいの、そして、この赤い線のところはピンクじゃなきゃ!」

は? だめだ、悪化している。なぜピンクまで出てくる! それ、ヒーローじゃなくてガーリーな方に向かっているよ。……母のプレゼン大失敗。


これ以上の会話及び説得は「メインが赤」への執着心を強めかねず、一旦話をさらりと流して終了。しばらくランドセルの話題はしないでおく作戦でいこう。

あぁ、来年の4月、玄関から送り出す息子の背中には果たして何色のランドセルが輝いているのだろうか。


狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。