『パパのトリセツ』。思いきった夫婦育児マニュアルである。

そう、世の中の「パパ」を「高性能全自動育児ロボット」になぞらえ、やる気や自覚という「スイッチ」の入れ方から、オムツ替え等各種実務「アプリ」の「インストール」方法、果ては「故障」への対応方法まで、総合的に解説している。

「機種タイプ」を分類してくれているので、各家庭の「育児ロボット」の機種や性能をチェックシートで判定し、そのタイプにあわせた取扱いの注意点を参照することが可能だ。

ご自宅のパパの「機種」を判定した上で、まずは軽く、「あぁ、よくこうなるんだよ~!」「え?それやっちゃいけなかったんだ~!」とか、独りつぶやきながら楽しむことをお勧めしたい。


夫に「手伝おうか?」と言われたらカチンとくるくる!
→え?その言い方に頭にきて追い詰めちゃいけないの?

オムツ替えて捨て方が悪かったらそりゃぁ文句言うでしょ!
→え?それを指摘するなって?

読み進めると、自分がいかにトリセツが禁じるポイント通りのことをやっているか、身に覚えのあることだらけである。

軽く読み進めて欲しいのは、途中、きっと「なんでそこまで、手をまわして対応しなきゃいけないんだ!」「私はそんなことまで気を遣うほど暇じゃない!」「男性特有のプライドって面倒だなぁ」などと思うから。「取り扱い方法」がデリケートすぎるので、なかなか実行するのは大変だ。

文句を独りごちながらも、最後の章「日ごろのお手入れ」あたりまでたどり着いた頃には、なんだか夫に対しちょっぴり違う視点を持てそうな気になっているから不思議だ。


この本、女性が自分の夫を基準に「こうすればパパはイクメンになるのにみんな何でそうしないのかしら~」と書いたものならば即反感を買いそうであるが、著者おおたとしまさ氏は男性、自身も二児の育児中の「パパ」である。

決して学術的な書籍ではないが、育児・教育ジャーナリストとしての視点で「育児」という夫婦の共同作業において忘れがちなポイントが軽いテイストでまとめられていて、エンターテイメント系育児マニュアルと言えそうだ。

読む人によって何が心にひっかかるかは色々だろうが、「パパ」にイライラっとすることが増えて来たとき、少し気持ちを切り替え違う方向から見られるようになるヒントがどこかに隠れているかもしれない。


私は最終章に出てくる、「ママとパパは共同経営者」という話になるほどなぁ、と思った。育児家事を共に対等にやる以上、ワンマン経営者ではいられない。お互い相手に「自分の思う通りに動いてくれ~」とアプローチするのは違うってことだ。

夫に、自分で主体的に動いて!と願いつつ、動き方が自分と違うと指摘し、自分の動きに意見されればイライラがつのる。これって、主体的であることを求めながら、同時に従属的な動きしか認めていないことになるな、確かに矛盾してる。ごめんなさい。

うん、まぁ、なんだかちょっと大らかな気持ちになれそうだ。

……と思ったその日の夜にもう、食器を洗うタイミングを夫に尋ねてうるさがられた。そして、次の朝、夫から私が洗濯物をたたむ時間帯についてチクリと言われて頭にきた。

現実は、難しい。

せめて「日ごろのお手入れ」の章を参考に、喧嘩は短く切り上げるよう努力するか。

ついでに「ワタシのトリセツ」作って夫の机に上に置いておこうかな。


『パパのトリセツ』 おおたとしまさ著(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。