先日、「オンナの稼ぎ力×オトコの家事力養成セミナー~今こそ働き方革命!」と名付けたセミナーを企画し、大阪で開催した。


(画像:稼ぎ頭歴11年の筆者と、専業主夫歴14年の山田亮さんとのトークセッションの場面)

「母親は家にいるべき」「家族を養ってこその男の甲斐性」みたいな理想論は、きっと生活が安定している人間の言いぶんだ。実のところ、待ったなしの状況に来ている家庭もある。役割だの理想の子育てなど言ってられない。

 どちらも稼げる、どちらも家事育児ができる。
 自在に役割を交代しながら、家庭を維持する。

「既成概念を外して、自分たちの楽なスタイルを見つけよう」という主旨で企画し、「男の家事力」の講師を専業主夫で家事ジャーナリストの山田亮さんにお願いした。妻はハードワークをこなし、出世街道を突っ走っている。その間、彼は家を守り、現在5年生になる娘さんを育ててきた。

セミナーのトークセッションでは、「男の育児ノイローゼ」と「男のプライド」について本音で話してもらった。メールでの質疑応答を加えて再編集したものを、お届けしたい。

「理想のお母さん」という高いハードル


――山田さんは育児ノイローゼになったことがあるそうですね。原因は何でしょう?

「娘が生まれてすぐに和子はん(奥さんの愛称)は仕事に復帰し、僕は育児担当になりました。今思うと、あの頃の僕は『理想のお父さん』どころか『理想のお母さん』を目指してたんで、そりゃ無理が来ますよね……。たとえば、こっちは寝かしつけに散々苦労してるのに、母親がふらっと帰ってきてオッパイで添い寝した途端にコテっと娘が寝る。なんかもう、がくっと来ます。思わず、ミルクメーカーに『父の乳』を作ってくれとメールしたことも(笑)」


(娘さんは思春期に入り、父親と読書や映画の趣味を共有しているそうだ)

――確かに、母乳のあるナシって父親メインの子育てにおいて不利ですよね。

「それに加えて最初はママ友もいませんでしたし、近所には妻の両親しかいない。頼ればいいと和子はんは言うけれど、やっぱりそれは遠慮がある。祖父母は、所詮おいしいとこ取りで助けにならないですね」

――どうやってその育児ノイローゼを乗り切りました?

「妻が回復に協力してくれました。とにかくコミュニケーション不足だったので、それを補う相手が必要でしたから。1週間有給休暇を取ってくれて、産休以来はじめて親子三人でゆっくり過ごしました。一日子どもと一緒に過ごすことの、良さとシンドさを共有でき、僕の孤独感はかなりぬぐえました。……ただ、これは必ずしも夫婦でなくてもイイですよね。ホンネで話せる子育て仲間がいれば大丈夫かもしれません」

――大学教授として研究や指導でハードワークな奥さんですが、最近はどうですか?

「今、和子はんは再び家庭不在になっていますので、たまに大人の会話に飢える時があります。有給休暇という高いハードルではなく、毎日、30分でいいから家族そろってゆっくりする時間が欲しい。こんなにすれ違い生活をしながらも、食事中に新聞を読んだりする和子はんにイラッときてます(笑)」

親がゴキゲンなら子もゴキゲン、そのための稼ぎ力と家事力


――イラっとついでにききますが(笑)夫婦ゲンカはしますか?するならどんな理由がありますか?

「夫婦げんかは3段階あるという説を、僕はもっています。

1.ケンカにならないほど身分差がある。
2.対等になりケンカができる。ただし、ぶつけ合うのがメイン。
3.理性的になり、ケンカよりも解決に主眼が置かれるようになる。

ウチは、2人とも研究者だったのも理由ですが、結婚当初は3の「解決主眼型」でした。解決法での論争はありましたが「とりあえず、A案をやってみるか」で落ち着く。最近は、2「対等のケンカ」をスルーして1「ケンカにならない」に成り下がっています。それも身分差ではなく時間差が原因です。夫婦が揃う時間もごくわずかで、すでにケンカする時間すらないという状況です。

前も今もケンカはしてないです。ぶつかる要因は、冷蔵庫の詰め方やボトルの閉め忘れ、衣類が家に散乱など、ささいな日常のことです。内容が内容なので、たいてい僕がガミガミ言ってます(笑)」


(家事力セミナーの中でも、家事や育児の「共同作業」で生まれる共感の重要性について語ってくれました)

――せっかくの短い時間にケンカするのって、やっぱり不毛ですよね。私は子どもといられる時間が貴重なので、怒りたくない、ニコニコでいたいのに、「早くはやく」ばっかり言ってて、自己嫌悪に陥ることもしばしばです。

「そのための楽家事、なんちゃうかなと思いますね。家事も育児も毎日まいにち続くねんから、その家のやり方で手抜きでええやん、と。失敗は写真に撮ってネタにすれば、笑えるやん!ぐらいに思っておくと気楽になるし。料理も、ヨソ様にお出しできるようなものではないけど、『キャベツとちくわの煮物』みたいなすぐできる定番が山田家にはあります」

――ウチも真似して「とりあえず定番」を作るようになりました(笑)。手の空いている方がやれば、互いにもっと楽になりますよね。でも、「男のプライドが邪魔して今さら役割交代なんてできない」という男性は多いのですが、山田さんはどうでしたか?

「プライドの基準が『世間的な男のプライド』にある人はしんどいでしょうね。僕は妻が建てた家に住み、彼女の稼いだお金で家事育児をしていますが、『プライドを捨てた』と思ったことはありません。自分の中に基準があるので、今の生活には満足しています」

――最近、娘さんに「お父さんみたいになりたい」と言われたそうですね。

「そうそう、いつもゴキゲンで楽しそうに見えるようです。ただ、僕も今は専業主夫ではなくこうして講演や執筆の仕事をして社会と関わっているので、そのメリハリがあるから、また続けていける部分がありますね。仕事だけ、家事だけ、じゃなくてどちらもある程度スキルとして持っておいた方がいい時代なのは確かですね」

――最後に「ゴキゲン」のコツをお願いします!

「『察して』は通じないと思うこと、ちゃんとコミュニケーションの時間を取る、そのために家事育児仕事をもっとうまくやる、時には手を抜くのもええやん、って伝えたいですね」

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このセミナーの夜、疲れ果てた我が家では家族全員でお風呂をパス。
翌日の日曜日、のんびりと朝風呂に入った。

親がゴキゲンなら子もゴキゲン。
世間が代わりに子育てしてくれるワケでも、お金をくれるワケでもない。
プライドは、自分の中にあればいい。

……今日も(できるだけ)ゴキゲンで行こう!

◆山田亮さん主催の「楽家事ゼミ」(http://www.facebook.com/raku2kaji)


山口照美山口照美
広報代行会社(資)企画屋プレス代表。ライター。塾講師のキャリアを活かしたビジネスセミナーや教育講演も行う。妻が家計の9割を担い、夫が家事育児をメインで担う逆転夫婦。いずれ「よくある夫婦の形」になることを願っている。著書に『企画のネタ帳』『コピー力養成講座』など。長女4歳・長男0歳(2012年現在)