今月、都内の公立小学校にて、保護者同士のいわゆる「ママ友」関係構築について、警告のお便りが配布されたことが話題となった。
【参考記事】異例! 都内の小学校で「ママ友」会合禁止令(dot.)
http://dot.asahi.com/news/domestic/2012100600002.html

学校は保護者の連絡先を書いた名簿などを発行しないので、保護者同士の連絡先交換は自己責任で行い、トラブルが起きても学校は責任を負わない。実質的なママ友禁止令とも呼ばれており、「東京ってそんなことになってるの? 日本のママ友関係コワー」と遠く海外の日本人母までが恐々とする事態になっている。

どうやら、その学校ではシャレにならないほど保護者同士のトラブルが多く、深刻らしい。中学受験の結果に嫉妬した母親が、相手の子どもの合格校に本人の母親を騙って電話し、棄権する旨を申し出るなど、どこかのドラマの筋書きで聞いたような芝居を打ったケースまであったという。

なにそれ。親である前に人間として壊れてないか。確かにママ友だろうが何だろうが、そんな精神崩壊したサイコ女と関わり合うのは心底カンベンだ。


みんな、「ママ友」というよくわかんない言葉を過剰に怖がっているけれど、要するにそれは子どもを介して知り合ったという由来の相手に過ぎないのだ。

自分の子ども時代のクラス分けや、職場の配属や付き合う男(女)でもそうだったように、人間関係の当たりハズレは仕方ない。人間観察眼がたまたまニブると、さっきの受験の件みたいな、結構なサイコを引き当てることもあるだろう。「私が治してあげる」なんて思ったら穴二つ。さりげなくフェイドアウトからの猛ダッシュを熱烈推奨である。

だいたいママ友なんて、「ママ友」の原義からして子どもを人質に取られた、圧倒的に不利な人間関係である。ママ友の中で生きるには、年齢とか職業とか世帯年収とか、学歴とか子育て年数とか、その他(趣味の)スキルで仔細に枝分かれしたヒエラルキーを瞬時で見極めて、自分の立ち位置とキャラを決定する政治的バランス感覚、策士としてのセンスが肝心だ。


その意味で、柳原可奈子のコント「ホームパーティー」を見たときは、人間観察の鋭さに感動した。ホームパーティーで参加者が懸命に料理やインテリアを褒めるのに対して、主催者の女が「ううん、すごく簡単なの、たいしたことないのよ~。ちょっと漬けておいただけ、うん、2週間前から」とゆるい謙遜の中で強烈な自己顕示をしてみせるのである。

「えっ、そりゃお勤めしてたらお料理なんかムリよぉぉぉぉ。お勤めしてる人って偉いよね、尊敬♪」とかって、コンプレックスと自己顕示を程よく混ぜた結果、大げさに相手を持ち上げるのである。いるわーそういうひと!と私的デジャヴュ連発であったが、そんな上っ面の牽制が子どもの在学年間ずーーーーっと続くのが、お互いたまたまママなだけで出会った、たいして興味もない「ママ友」相手とのお付き合いだ。


でも一方で、こうも考えられるのだ。ママ友なんてのは、ママであることが前提となった、あくまでも子どもを介した一時的な関係。たまたまその地域のその学校のその学年のそのクラスで子どもが隣り合わせた、それだけの縁なのであって、年齢も経歴も趣味もリア充もコミュ障も何もかも完全無視で、同じ箱に入れられたママの群れ。それを「袖振り合うも他生の縁」と、勤勉な自己犠牲精神でいちいちいい顔して泳ぐことばかりが、どうして必要だろうか。

子どもを介したママ友関係なんてのは、子どもが学校を卒業したら見事に雲散霧消する。ある底意地の悪い先輩母が、その場にいない母の悪口(「ママ友」のお約束である)の中で名言を吐いたのを覚えている。「下の子の卒業まであと3年もあるのに、あんなに目立っちゃってどうするのかしらね、あの人」。その場は同席した母親たちの恐怖で一瞬で充満したが、私は感嘆した。なんだそうかー、この人ともあと3年の関係じゃん。

子育てどっぷりになっていると、一生懸命のあまりついそれがすべてだと錯覚してしまうけれど、ママ友なんてのは、どうせここだけの関係で終わる。そこからも続くのが友だち。そしてそれは数人もいない。一人もいないときだってあるだろう。


「そうだ、ママ友を禁止しよう。」

「そうだ 京都、行こう。」みたいに言ったが、日本のママ友という奇妙な人間関係は、日本ならではの自己犠牲を尊ぶ精神と同調圧力と連れション精神の賜物。

しかし同調圧力とは、みんなで出る杭を打つ、下方に向けてしかかからない圧力だ。みんなで下方に留まるための圧力だ。

みんなで下方に留まって楽しく連れションしたいならそれでもいいけれど、そんなのゴメンだわ、トイレくらい独りで行くっす、という向きは、ぜひとも一抜けして、「ママ友」なんか作らずに「友だち」を作って大事にしよう。

あのね、子育てが終わってからの方が、人生は長いよ。


河崎環河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、15歳娘、6歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。