当サイトでも既報のとおり、妊娠7ヵ月で米ヤフーCEOに就任し、9月末に第一子を出産したマリッサ・メイヤー氏が、先月末に開かれたイベントに登場し、産後初めて、育児と仕事について語った。


出産後2週間で仕事復帰を宣言し、経営難が続く同社の再建に力を注ぐ彼女に注目が集まっていたが、あまりにお気楽な発言が集中砲火を浴びている。

以下、年間10億円以上の報酬を受け取り、おそらくは優秀なシッターを複数雇い、家事の大半をアウトソースしているであろう彼女の発言要旨。覚悟して読んでもらいたい。
「CEO就任時には、仕事は大変で、子育ては楽しいものになるんだろうなって思ってたの。でも、驚くべきことに、ヤフーでの仕事はとても楽しいの! そして、赤ちゃんって、人が言うよりずっと楽(easier)なのね。何の問題もなく健康な妊娠だったことは本当にラッキーだったと思うけど、息子は手がかからないの(easy)。子育ては簡単(easier)で、仕事は楽しい。この2つの事実は、うれしい驚きだったわ」

easyが3回である。あたかも、子育てなんてチョロいと言わんばかりの発言で、母親たちから大ブーイングが沸き起こったのも無理もない気がする。

アメリカでは産後3ヵ月で職場復帰するのが一般的で、産後2ヵ月といえば、多くの働く母親は、赤ちゃんと過ごす時間の幸せをかみしめながらも、間近に迫った職場復帰に向けて焦りやストレスを感じている頃だろう。
復帰したら復帰したで、職場では上司や同僚たちからプレッシャーを受け、仕事帰りに買い物を済ませ、子どもの世話をしながら夕食の支度、食事、お風呂。心身ともに疲れ果ててようやくベッドに潜り込んだと思ったら、夜中の授乳や夜泣きで起こされ、月末には高額なベビーシッター代の請求書に頭を抱える――。
こんな日々の繰り返しである。アメリカに限らず、一体どれだけの母親が、「仕事は楽しくて、子育ては簡単」なんてのたまえるだろう。

マリッサ・メイヤー氏ほどの優秀な人材であれば、仕事は常に楽しくやりがいのあるもので、子育ても(金にあかせて)楽にこなせるのかもしれない。
上記の発言は、彼女の本音かもしれないし、働く母親たちを勇気づける意味もこめて、ちょっと強がっただけなのかもしれないが、子育てに、仕事に疲弊する世の母親たちの逆鱗に触れてしまったのは間違いない。


……かといって、彼女が育児や仕事についてネガティブな発言をしたとしたら、きっとそれも批判の対象になるのだろうとも思う。子育ては人それぞれ、正解がないのと同じで、子育てや、仕事との両立についての考え方、発言についても、これが正しいという答えはないのだから。

それでも、彼女のような社会の注目を集める女性には、自身の仕事や子育て体験について、批判を恐れずどんどん発言してもらいたいと思う。良くも悪くも声を上げることで、女性と子育てを取り巻く環境が少しずつでも変わっていくことを願って。


恩田 和(Nagomi Onda)恩田 和(Nagomi Onda)
全国紙記者、アメリカ大学院留学、鉄道会社広報を経て、2010年に長女を出産。国内外の出産、育児、教育分野の取材を主に手掛ける。2012年5月より南アフリカのヨハネスブルグに在住。アフリカで子育て、取材活動を満喫します!