前稿のつづき、今回はまずこの本『家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇』(岩村 暢子 著/新潮社)を紐解いていってみよう。アマゾンによるとハードカバーの初版が2010年2月で、今年2012年9月に文庫版が出ている。文庫で買えば新刊でも882円とややお得だ。まあ拙稿はこの本のおススメレビューでは全然ないのだけど、「買うならば」という話は後の方でしたい。ちなみに私の手元にあるのは図書館で借りた初版本である。



タイトルに「写真274枚で見る食卓の喜劇」とあるように、カラー・白黒合わせて274枚という豊富な写真がこの書物の肝である。そしてその画像を補てんするコメントと、著者による諸々の考察によって本書は成り立っている。

写真274枚で見る食卓の「喜劇」とあるように、人によっては初っ端から「信じらんない!」「ナニコレ?!」と笑えるに違いない。それなりのヴィジュアル的インパクトがある。とりあえず、あらゆる食卓の写真が皆マズそう過ぎて驚ける。

その理由のひとつに、掲載されている写真がすべて今日日めずらしい「インスタントカメラ使用+フラッシュ撮影」によるため、というのが挙げられるだろう。iPhoneカメラで撮ってInstagramでフィルタかけて載せれば、ドッグフードだってもっと旨そうに写るだろうに……そもそもそういうエフェクトのズルができないようになっているシステムで撮られた、ある意味「フェアな」写真たちなわけだ。

そう、掲載されている写真に無闇にウケたりビックリしたりする以前に、どういう状況で撮られた写真、記録された食事なのかという前提について理解しておく必要があるだろう。


本書に掲載されている食卓写真は、【食DRIVE】という調査に基づいて採られたデータから抽出されている。【食DRIVE】は、広告会社アサツーディ・ケイ http://www.adk.jp/ が1998年から開始した、「1960年以降に生まれ、首都圏に在住する子供を持つ主婦を対象とした、家庭の食卓調査」であり、原則年1回、各年約20世帯(主婦20人)の食生活の実態を綿密に調べ上げたもので、現在も継続調査されている。

本書では2003年から2008年までの6年分のデータを使用、総計主婦120人、120家庭の3食2520食卓(実際にはバラバラ・勝手食いのケースも含めて4098食卓)の記録からの抜粋になる。「4098枚分の274枚」だという点は一応留意しておいた方が良いだろう。

そもそも、普通の主婦が自宅の食事を写真に収め人様に見せようなどという時、わざわざみっともない写真を撮るわけがない、と普通の主婦なら思わないだろうか。多くの主婦ブログを見れば分かるように、皆「我が家の食卓」を写真に収めてアップするならそれなりに素敵っぽく調理して皿にのせ並べ撮る。まあその食材にウィンナーが多用され過ぎていることなどたまさかあるにしてもだ。

それくらい、この本に掲載されている食卓写真はひどい。取り繕ったり、よく見せようという演出のかけらも見当たらない。その点に関して、本書にはこう説明されている。正確を期すためにここは引用しよう。

「(前略)私たちは1週間データをとるが、前半3日目くらいまでは、眉に唾しながら見る。なぜなら、長年調査してきて、1週間の前半と後半では大きな差があることを知っているからだ。同じ主婦の作る食卓とは思えないこともある。」

「後半にいくに従って様変わりしていくのは、食べているものだけではない。初日にはピカピカのテーブルクロスやランチョンマットが敷かれていたものが、後半にはシミだらけに汚れて取り去られ、テーブルが剥き出しになってしまう。花瓶に生けられていた美しい花が日に日に萎え枯れて、代わりに雑多な日用品が食卓に積み重なって荒れていく家庭もある。」

「つまり、調査期間の前半は、それぞれの主婦が「こうありたい」と思っている理想を具現化している場合が多いのだ。だから、もし調査を3日目までで切り上げたら、それは「日常」の食卓実態ではなく、「頑張ったらここまでできる」という今の主婦の精一杯をみる調査になるだろう。」

(※P8~9 序章 お父さんが知らない家庭の食卓 1 調査初日VS最終日 より)


私は冒頭のこの記述を読んで、正直「なにこれこわい」と唸ってしまった。調査に参加した主婦は化けの皮をはがされるのを待っている化け猫のようなものだと最初から目されているのか。かくあれかしと演出「できた」調査当初の3日間は切り捨てられ、本性を現した後半3日の「ひどい」現実・実態を抽出されてしまうシステムのキビシさに戦慄する。あるいは6日間通して「演じ続けられた」家庭のケースもあるはずだが、もろもろ織り込み済みでの調査なのだ。恐ろしい。

調査概要の話に戻ると、調査方法は3つのステップからなっている。<第1ステップ>では、食事作りや食生活、食卓に関する意識や実態などについて細かく質問紙法で尋ねる。<第2ステップ>で、決められた1週間3食の食卓にのったすべてを、食材の入手経路、メニュー決定理由、作り方、食べ方、食べた人、食べた時間等々日記と写真で細かく記録。写真は指定のレンズ付きフィルムによる撮影に限り、被調査者が提出前に確認したり加工できないようになっている。

そして<第3ステップ>で、当初のアンケートの回答と実態の大きなギャップや、その背景や真相について明らかにする。【食DRIVE】は、特にこの<第3ステップ>での聞き取り調査に大きな力を入れているようである。アンケートと写真との矛盾を突かれた主婦が、むっとしたり怒ったりしながら返答している様子が本書にも時折散見される。なんとなく同情したくなった。


……と、本書の概要説明だけでなんだか長々してしまった。かたじけない。とはいえ、掲載写真の転載やコメント転載も禁じられているので、これ以上の説明は主観をだらだら述べるのみになりかねない。よって目次のうち、こちらの琴線に引っかかった(というか、ドキリとした)コピーを幾つかご紹介していったんお茶を濁すことにする。

「お菓子化する食事とその理由」
「焦げ付く揚げ物、水没する煮物」
「消える味噌汁」
「食器化する調理器具たち」
「幼稚園弁当の奇妙な指導」
「子供の習い事で崩れる食」
「「疲れる」主婦たち」
「ご褒美酒を飲む主婦たち」
「ダイニングテーブルの行方」

以上、ちょっとでも気になる方は、この本は読んでおいた方が良いだろう。だいたいの図書館には入っているはずだし、文庫もあるし、ある種の主婦にとっては炊事に対する意識向上、物凄い反面教師的「カンフル剤」効果を発揮するだろうからだ。

全部を真に受ける必要はない。なにせ「これだから現代の主婦、母は!」などと大上段からけなすネタとして最適過ぎるので、そのまとめとしていささかの恣意性はやはり禁じ得ない(社会正義のための啓蒙書ではないし、そもそも調査主体は広告会社だ)。

しかし、多くの主婦にとってはここで指摘されている「勝手でしょ!」な内容の幾つかに心当たりを覚えるはずである。「そこが責められてしまうのか!」と驚きを持って受け止めざるを得ないポイント、それぞれの違いこそがある種の「個性」であろうし、己のその部分をこそ「隣りの主婦」は覗き見たいと欲しているに違いないのである。


次稿、今回紹介したこの本の存在を踏まえたうえで、「隣りの育児と晩ごはん」問題にもう少し入り込んでみたい。


……つづく。

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藤原千秋藤原千秋
大手住宅メーカー営業職を経て2001年よりAllAboutガイド。おもに住宅、家事まわりを専門とするライター・アドバイザー。著・監修書に『「ゆる家事」のすすめ いつもの家事がどんどんラクになる!』(高橋書店)『二世帯住宅の考え方・作り方・暮らし方』(学研)等。10歳6歳2歳三女の母。