生後4ヵ月になる娘を連れて外に出ると、女性、とくに年配の方からよく声をかけられるようになった。出産してから一番の驚きと言ってもいいくらい頻繁に、駅で、スーパーで、コーヒー店で、道端で。

「何ヵ月?」「今日はお散歩日和だね」「私にも孫がいてね」
と、みな楽しそうに声をかけてくれる。

電車を待っているときに声をかけてくれたおばあさんは、娘をあやそうと歌まで歌ってくれたのだが、ニコニコする娘に、「僕、いいお顔だね~!」と話しかけた。

おばあさんは、娘を男の子だと思ったらしい。

たしかにその日の娘は、赤や緑、黄色などのカラフルなボーダー柄の洋服を着ていて、男の子っぽくも見える服装だったのだ。何せまだ髪の毛も多くないし、性差がハッキリしないのは当然のことだと思ったので、こんなこともあるよね、と受け止めていた。

しかし、赤ちゃんに向かって「男の子ですか?」と聞くのはどうやらタブーらしい。
さっそくスマホで検索するも、「赤ちゃん 性別 見分け方」と入力すると、出てくるのは「お腹にいる赤ちゃんの性別が分かるのはいつ頃?」とか、「エコー写真での性別の見分け方」というページばかりだった。……いや、違う違う、そうじゃない。

たしかにその話題も気になるけど、今はそれを知りたいわけじゃない!と、「見た目」や「顔」なども追加入力して……たどり着いたのは「発言小町」。

「女の子に対して『男の子ですか?』と質問したら赤ちゃんのママにムっとされてしまった、これは言ってはいけなかったの?」
という質問者に対して、「男の子に見えても女の子かと聞くほうが無難」「大人だって自分が男性と間違われたら嫌なはず」
といった回答が寄せられていた。

とくに「男の子に対して『女の子ですか?』と聞いて、それが間違っていたとしても、『女の子に見えるほど可愛らしい』とフォローすることが可能だが、その逆は難しい」という意見が多く見られた。

つい先日も、区の検診に行ってきたのだが、保健師の女性が男の子に、「女の子?」と話しかけ、「あら、男の子だったのね!女の子みたいに優しい顔をしてるから間違えちゃった」と付け加えていた。


娘が生まれて間もない頃、私の母は娘の顔を見ては何度も、「やっぱり女の子らしい顔をしてる」と言っていた。

私自身が出生時3,700グラムあり、兄にいたっては4,000グラムを超えていたので、それと比べて小柄な私の娘が「女の子らしく」見えたのかもしれないが、顔や仕草や泣き声も男の子とは違う、やはり女の子らしい、と繰り返していた。

そもそも、女の子らしい顔というのはどういうことだろう?


じつは前述の発言小町の問いに近い経験がある。
美容院で隣に赤ちゃんをベビーカーに乗せて髪を切ってもらっている女性がいた。私は妊娠中だったので、赤ちゃんに興味津々でベビーカーを覗き込んで笑いかけた。

美容師の男性とも、「すごく可愛いですよね」と盛り上がっていたのだが、「可愛いですよね、女の子ですって」と言われて、ハっと我に返った。
男の子だと思っていた……!!!

言い訳をするわけではないのだが、私はずっと赤ちゃんは女の子より男の子の方が可愛いと感じていた。街中で赤ちゃんを見ては、「可愛い→あの子は男の子だ」という図式が勝手にでき上がっていた。

何の根拠もない上に大きな勘違いだったのだが、女の子まで男の子扱いして、「赤ちゃんは男の子の方が可愛い」と思い込んでいたのである。

人口の男女比はほぼ1:1なのだから、男の子と同じくらい女の子がいて当然なのだが、私にとって目に映る赤ちゃんはすべて男の子という認識だったため、美容院で見かけた赤ちゃんのことも勝手に男の子だと思っていた。

飛んだ赤っ恥だが、せめてもの救いは「男の子ですか?」と口に出さなかったことである。いらぬ一言であわや気まずい雰囲気になっていたかも知れない。


しかし気になるのは、「男の子の赤ちゃんを『女の子ですか?』と間違えるのはまだフォローできるからアリ」という仮説。

女の子に見えるくらい可愛いから、と言われても、性別を間違われるのはどうなの?と思い、男の子を育てている友人たちにたずねてみた。

友人A
「赤ちゃんのときから何度も女の子に間違われたことがあり、3歳になった今も時々言われるが、あまり自分自身は気にしていない。本人が男女の差を意識するようになって、女の子に間違われることを嫌だと言うようになったら、洋服や髪型を気をつけてあげようかとは思う」

友人B
「女の子に間違われたことはないが、洋服はピンクや紫なんかも着せている。でも、男の子か女の子かしつこく知りたがるのはちょっと失礼だと思うし、もし間違われたらいい気はしない」

友人C
「女の子っぽく見える容姿なので、あえて男の子と分からないような洋服を着せて周囲の反応を楽しむこともある」


と、見解はそれぞれ。
三者三様の答えだったので、先の仮説が正しいのかは検証できなかったが、3人に共通しているのは、「男の子だからといって洋服の色や柄を限定することはない」ということ。

男の子だから青、女の子だからピンク、というような時代でもないし、名前を聞いても男の子か女の子か分からないこともある。

以前と比べて男の子か女の子かパっと分からないことが増えているのは事実だろう。
しかし、「男の子か女の子か分からなかったら『女の子ですか?』と聞くのが無難」というのもちょっと安直な気がして……。

角が立たず、気持ちいいコミュニケーション方法、何かないだろうか?


真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。