一学期が終わった。小1の息子の荷物もなんだかいろいろ一緒に帰って来た。道具箱、作品、鍵盤ハーモニカ、朝顔の鉢、防災頭巾(※)……。そうそう、この防災頭巾カバー、作るの大変だったなぁ。

布だけ買って、ずっとまとまった時間が取れずにいたら結局入学式前日! 慣れない形状に手間取り1日がかりで作り終えた。あぁ、あんなに追い込まれるまで出来ないなら、始めから作ろうとせず買ってしまえば良かったんだ。

なのについ「作ってあげたく」なってしまうのが、布ものグッズの不思議。

■入園、入学の通過儀礼? 布ものの現状


息子の幼稚園入園と小学校入学、2回の「布もの期」にさらされ何かと作ってきた。手提げ、上履き入れ、巾着袋各種、お弁当&給食関連グッズ、そしてハードル高めの防災頭巾カバー。

いやはや結構な数だ。

幼少共に普通の公立。説明プリントを見ると、実は「作ってください」とはどこにも書かれていない。無理して作ることはなく、購入すればよいのだ。

販売されている布ものグッズは、既製品然としたものもあれば、いかにもお母さんが作った風のハンドメイド品もある。好みの布を購入して指定したサイズと形状に縫い上げてくれるサービスもある。

「身内に外注」する人も多い。3月に生地屋で子ども向けの布コーナーに行けば、たいていメモを手にしたおばあちゃん世代がいる。娘に頼まれてねー、と時にため息をつきながら。

■買うのもだいぶ一般的なのに……


実際買う人も多い。指定がない限り、買ったらまずいかな、なんて心配する必要はない。

私の周りでは、「最初から作る気ないよー、買う!」という人もいれば、プロ級に完璧に縫い上げる裁縫好きの人もいて様々。買ったものでも作ったものでも、いちいちお互い気にしていない。

私はもの作りは好きでも裁縫が得意なわけじゃないし、仕事で時間もあまり無い。冷静に考えたら、無理せず買うのが無難だ。

しかし、つい作ろうとしてしまうのには、何かある。

自分では作れないのに、買わずに自分の母親に作ってもらう人にも、何かある。

買う時に、意識的に「お母さんの手作り風」を選んでしまう人にも、きっと、何かある。

■呪縛(1)自分の母は作ってくれたという記憶


私が子どもの頃、確かに母は何でも作ってくれた。母が特に裁縫好きというのもあるけれど、時代も違う。

母が育った時代は既製品は一般的でなく、「縫うこと」は家事の一部。だから、私の祖母世代は裁縫が上手だ。私の母世代で若干その色は薄まり、もう私たち世代に至ると、裁縫はもはや家事ではなく趣味や特技の領域だ。苦手で嫌いで出来ない人も多い。

安価な既製品が大量に出回り家事の範囲が変わった。ただそれだけなのに、子どもの頃の記憶で「自分は作ってもらったのに自分が子どもに作ってあげないのは手を抜いているかも」と思いがちだ。

■呪縛(2)「手作り=愛情」というイメージ


手作りはあたたかくて愛情がこもっている、というイメージは根強い。「手編みのマフラー」、「手作り弁当」、「ママの手作り園グッズ!」……。

同じ「手作り」でも、裁縫は料理とは違う。毎日の食事を総菜とインスタント食品で済ませたらさすがに体に悪いけれど、買った巾着袋を使った子どもが健康を害するわけではない。

仕事で忙しい中、週末一日子どもを夫に託し、焦ってイライラしながら朝から深夜までミシンをダダダと動かすことが、果たして「愛情」なのかどうか。

素敵な布ものグッズを縫い上げる母親の方が、より子どもに愛情を注いでいると考えるのは短絡的すぎる。作るのが好きでこだわりのある人は、そもそも、既製品では「自分が満足できない」感覚の持ち主だ。その人の裁縫の能力に感心すればよく、それを子への愛情だと評価して、自分と比べる必要は無い。

愛情はミシンで表現しなくても大丈夫。

■メリット(1)作る方が安い……こともある


この春、息子の入学準備で購入した布の代金は全部で4,000円ちょっと。
この布から作ったものは、手提げ1・上履き入れ1・防災頭巾カバー1・巾着袋小2・ランチョンマット3・エプロン1。

これらのグッズを全部既製品で買い揃えたら、100円ショップでない限りざっと6,000円以上にはなる。材料費は作った方が安そうだ。

でも、時間も貴重。仕事で時間が無い生活をしている人は、シビアに自分が作る時間もコスト換算して考えた方がいい。

■メリット(2)発達に合わせた機能性


背が低い子には持ち手を短くして引きずらないようにする、手作業が未熟な子にはボタンでなくマジックテープにする……こういう工夫ができるのは手作りのいいところだ。

子どもの発達にあった機能的な工夫がその子の成長に役立つなら、そういう時こそちょっと無理してでも手とミシンを動かしたらいい。

それは機能として「必要なこと」で「発達段階に応じたサポート」でもある。「愛情」という漠然としたイメージとは別次元の話だ。

■作っても買っても、自分のスタンスで


特徴ある私立幼稚園などでは、「母親が愛情を込めて作る」ことが求められるかもしれない。それはその園独自の教育理念だから、通っているなら、その思想どおり愛情を込めて作ればいい。

でも、指定も無いのに、すごく無理して作ったり、無理を言って身内に頼んだりしているなら、購入も選択肢のひとつにした方がいい。

自分の中に横たわる呪縛から自由になり、時間、得手不得手、費用、機能性、それらのバランスを判断し、自分なりのスタンスで「布もの」に対処するのが健全だ。

私は、自分のこだわりを満足させるために作るものと、時間節約で割り切って買うものに分ければよかったなぁ、と、今は思う。

まだこれから「布もの期」を迎える方、直面する前に、自分はどうするか、ちょっと考えておいてもいいかもしれない。

(※)関東圏(だけらしい)では、マイ防災頭巾が必須。小学校では、ちょっと独特の形状のカバーに入れて自分の椅子の背当てに常につけておく。私が子どもの頃は座布団式だった。


狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。