先月、祖母の初盆の法要で父方の田舎である四国に行ってきた。
乳児連れで真夏に法事、しかも飛行機の旅、というハードルの高さではあったが、祖母が亡くなったのが私の出産の2週間前で、通夜にも葬儀にも出られなかったので、せめて手を合わせたいという私の希望を汲んでもらい、家族3人で行ってきた。

長らく会っていなかった叔母や従姉妹、その子どもたちは私の娘を見て大喜び、特に従姉妹とは子育ての話題で盛り上がった。

法要の後の会食の席で、叔母や従姉妹に「地元を離れて子育てしてて偉いね」「しかも母乳で育ててるなんて偉いね」としきりに言われた。

母乳育児のことは置いておこう。
母乳派ミルク派どっちがどっちという話は野暮でしかない。

地元を離れて子育てしてて偉いねと言われ、偉いねと言っているのだから褒めてくれているのだろうなあと思いつつ、それが偉いのかどうかはピンとこないので若干困惑する。「そんなことないよ」と否定するのも何だか変な気がするし、その場をおかしくするほど空気が読めないわけでもないので、ちょっと笑って「そうかなあ?」と濁してみた。


大変でしょ、偉いね、という労いの言葉。

私はまだ「子育てが大変」かどうか、自分が今「大変」のどこらへんにいるのか分からない。もっとも自分がどのレベル、どのステージにいるかを静観し、把握している親などいないだろう。

もちろん、日々楽勝ではない。
低月齢時は夜ぐっすり寝てくれていた娘が、6ヵ月を過ぎた頃から夜中頻繁に起きるようになり、うとうとしながら授乳をしている日々。朝の7時ごろにはハイテンションで起きる娘に、「もう少し寝かせて~」と毎日のようにお願いしている。

午前中に洗濯して、掃除機をかけて、娘に離乳食を食べさせて、ベタベタになった顔や手をシャワーで洗い流して、着替えさせたら授乳、その後は私もシャワーを浴びて、午後から出かける場合は化粧して、この一連の流れですでに私のHPが目減りしている。

幸い休日は、洗濯や娘のお風呂は夫に担当してもらっているので、平日は「早く週末来い……」と虚ろな目をしている。


私は実家が遠方にある。
ただこれに関してはお互いの意志で東京に住んでいるわけだし、別段珍しいことでもない。
むしろ実家の近くに住み、すぐに孫の顔を見せてあげられるような人たちを私は親孝行で偉いな、と感じている。ただし実家(もしくは義実家)が近いため、必要以上に干渉されるとか、煩わしいという話も聞くので、これも一長一短か。


でも今、「子育ては大変」と苦痛に思っているかというと、そういうわけでもない。
疲れたなー、しんどいなー、と思うことは日々あるが、「この程度で大変って言ってるようじゃまだまだだ」と自分に言い聞かせている部分がある。

……いや、そもそも、何と比べて「まだ大変じゃない」のだろう?

2人以上の子どもを育てているお母さん?
会社勤めをしながら子育てをしている、いわゆるワーキングマザー?
里が遠いどころか海外で子育てをしている人々?

おそらく、未来の自分との比較を思い描いているのだろう。

来るべき「イヤイヤ期」や「魔の2歳児」、そこを大きく飛び越えて反抗期を想定して、「今はまだ大変じゃない、今後はこんなもんじゃない、だから自分はまだ大丈夫」と首を横に振っているのか。

こういう時はいつも、映画『ヴァージン・スーサイズ』を思い出す。
自殺未遂を犯した少女に精神科の先生が、「人生の苦しみも知らないのに、どうして?」と訊ねるシーンがある。
それに対して少女は、「だって、先生は13歳の女の子じゃないもの」と返す。

-----

悩みというのはその時々で変わっていく、その時期その時期、旬の悩みや心配事がある。
それはまだ経験していない人間にはもちろん分からないし、その時期を通り過ぎた人も当事者ではなくなっていく。

だから、今現在の悩みを謳歌しないのはナンセンスなはず。

だけど私はまだ母親1年生なのに、上級生になったらもっと大変なんだから、と要らぬ心配、そしてちょっとの痩せ我慢をしている。

もっともっと、「今」のしんどさを最大値として受け入れられたらいいのに。
上級生になって、しんどさや悩みがアップデートされた時に、「1年生の時のしんどさなんて大したことなかったよねー、チョロいチョロい」と振り返ればいいだけ。

頭では分かっているのに、なぜ「今」のしんどさを認めたくないのか。

それは「子育ての楽しさ」も感じているからだろう。
「子育てが楽しい」と「子育てが大変」、このふたつが決して排他ではないことをなかなか認められない。この2つが矛盾しているようで、まったく矛盾じゃない、その事実をまだ飲み込めずにいる。

大体日々疲れているはずなのに、押し問答を繰り広げて無限ループに陥っているなんて、頭でっかち過ぎる! その余力があるんだったら、明日以降に温存しておきなよ、自分!!

早く、上級生になって、「1年生のときはこんなこと考えてたよね~。あの頃の私は青かったなハハハ」と笑い飛ばしたいなあ。

あっ、でもそうしたら娘が0歳児じゃなくなっちゃう……もっと長く赤ちゃんでいてほしい!葛藤は続く……。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。