また息子が体調を崩した。頭の中でスケジュールをチェックする。
あれは大丈夫、これはどうする、そっちは……。家で仕事をしているから、会社を休む手続きは不要とはいえ、確実にペースは落ちる。納期は待ってくれない。

あぁ、本当に、子どもってしょっちゅう体調を崩すのだ。たいした法則もなく、予防も効果なく……。

■看病初日:結構がんばれる


小学生になって、普通の風邪では驚かないくらいにはなっても、やっぱり症状がピークの時は、心配なものだ。

急な発熱、嘔吐、そういう派手な症状でたいてい子どもの風邪は始まるから、初日は親も結構「全面看病モード」になる。症状への直接のケアが必要だし、とにかく各種連絡と調整でいつものペースは完全に狂う。

でも、目の前にしんどそうな子どもがいると、仮に自分がヘトヘトでも気力が出る。


■2日目から:「正当なダラダラ」を許可する気楽さ


翌日は、まだ体調は悪いし看病モードは継続しているけれど、多少「昨日よりはまし」になってくる。年齢が上がってからはもう、このあたりで早速、テレビ&DVD見放題解禁スタート!

普段は一日に見る時間を制限をしているものの、この時ばかりはスペシャル待遇。テレビの前に布団を敷いて、リモコンを並べる。

本人は幸せ満点……というところまで元気はないけれど、好きなDVDを選んでセットする気力は絞り出せるらしい。

さて、これがなんとも、親の私にとって、思いがけない「いい効果」を発揮するのだ。

子どもにテレビを制限するのは、じつのところ「テレビを見せる親である自分」を規制しているところがある。「自由にしていいような……」という思いと「見せっ放しはあまりよくないよなぁ」という思いの狭間で、自分に不安やイライラを感じているだけ。

これが、「具合が悪いからまぁ仕方ないか」という大義名分があると、なんとも、驚くほど気楽になるのだ。

「正当な理由」がついて、気持ちがすべて丸く治まる。しかもたまの「思う存分見てOKの贅沢」をさせてあげられるのも、本当はちょっとうれしい。

通常「子どもの相手をせずにテレビをあてがって仕事をする」のは、結構な罪悪感を伴うのに、正当な理由(?)でそれができる気楽さといったら!

■4日目以降:看病に「あきる」


だいたいこの辺で症状は治まり快復待ちモードになることが多い。それを境に親の「看病モード」も包容力のバッテリーが切れてくる。仕事は気になるし、当初の優しさはどこへやら。

インフルエンザなど出席停止期間のある病気だと、もう、最後の方は「元気で外に出られない子」でしかない。テレビフリーの神様は去り、再規制がかかり「ほら宿題やるよっ」となる。

さすがに1週間も経つと、もう「早く学校に行ってよ!」「仕事できないじゃん!」……そんな気持ちが満ちてきて、まずいと自覚しつつもうっかりそんな言葉も出てしまうのだ。

■いいこともある ―― 「あきらめる」ことを知る


まずいタイミングで子どもに風邪をひかれて、本当に仕事が修羅場のようになったこともあるけれど、一方で、なんだかむしろ自分が救われたこともある。

●休む判断
実際、「あなたが熱を出さなくても、この外出予定をこなしていたら私が倒れていたかも」……と思ったことがある。自分がそもそも無茶なスケジュールで、ひどい疲労のまっただなかだったから、正直、予定がつぶれて助かった。

子どものケアは必要でも、外出も仕事もできない日が自動的に発生したことで、間違いなく体を休められた。

●消去法で課題整理
自分の中で、あれもこれもそれもやらなきゃ!と気持ちが盛大に焦っているときにも、意外にいい効果を発揮してくれた。

体調が悪いと、小さい子はそばにいないと泣き止まなかったり、まったく眠れなかったりする状態が続く。その敏感さは授乳中の乳児レベル。私ができることは極端に限られる。

消去法でやれることだけやるしかない。添い寝しているフリをして本を読む、子どもの布団の横に小さなテーブルを持ち込んで絵を描く、布団に足だけつっこんで手書きかタブレット端末でできることだけやる……。

「もう他はしょうがない!」と、捨てて、仕方なくひとつの山だけを集中的に崩すことになるのだけれど、このおかげでむしろ焦りから抜け出せたことが何度もある。

■積極的な「いい加減」


子どもが体調不良になると、通常の食事モードでなくなることが多い。とりあえず栄養より水分がとれていれば十分。おかゆくらいは作るにしてもプリンやらゼリーやら、喉越しのいいものを揃えておく方向に転換する。

子どもの前で親だけ普通の食事をするとうらやましがるし、大人だけならまぁいいか、と全面的に適当モードに切替えてしまう。

子どもが寝てる間に親だけこっそりジャンクフードを楽しんだり、親ふたり別々に極めて適当なもので済ませたり、「大人辛い」カレーを夜遅くにテイクアウトしたり。

ここぞとばかりに、「いい加減」を謳歌するので、びっくりするほど冷蔵庫の生鮮食品が減らない。こんな時は、まぁ、それでいいのだ。

■普段できないことができる満足感


今回の体調不良は大いに長引き、最後の方は、もうOKかまだ駄目か微妙な日々。私も焦りを通り越して、さらにその先は「完全あきらめゆったりフェーズ」へ。

宿題にだらだら取り組む息子をじつに雄大な心で見守りながら皿洗いをしたり、一緒にのんびりおやつにホットケーキを作ったり……通常の忙しさでは「まずありえない」理想的な態度で過ごすに至った。

なんだかこれは、絵に描いたような“素敵な母子”的シーンじゃないか! あぁ、こんなことしたかったんだ!!

普段たいしてできない反省はこの際横に置いておくとして、「なんかいい感じの時間」が過ごせたことで、妙な母親的充実感に満たされた。


子どもの体調不良は、基本的に振り回されることばかりだけれど、こんな風に「あきらめ」に学んだり、「いい加減」に心を解放したり、「素敵」を味わってみたり……。意外といいことも見つかる。

これからの風邪シーズン、ひく子は予防したってきっと風邪をひく。うちの息子もまたきっと風邪をひく。どうにか、いいこと探しをして乗り切れたら!!

狩野さやか狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。