新年早々、ある芸能ニュースに驚いた。

≪谷原章介、夫人が第6子妊娠≫

この少子化のご時世、なんと明るいニュースなのだろう。
谷原章介の実子としては5人目ということになるが、それでもかなり多いほうではないか。


現在著名人の中で一番子だくさんなのは、女性ではタレントの堀ちえみ。男性では、政治家の橋下徹がともに7人。実子の人数でいえば橋下氏が最多だろうか。

調べてみると、芸能界では子どもの数が5人~6人という方がぞろぞろ出てきて、4人はまだ序の口という気がしてしまう。一方世間では少子化が叫ばれ、政府もその対策に右往左往しては毎度的外れな政策を打ち出し、ことごとくしくじっている印象を受ける。

筆者の職場レベルで見てみれば、子どもはひとりだけ、という人が圧倒的に多いのだが、友人や保育園つながりの知人たちを見るに、最近きょうだいの数が増えているように思う。そんな筆者も、現在第2子の出産を間近に控えている状況だ。

なんとなく感じるこのアンバランスさの正体はなんなのだろうか。もやもやしたので少し考えてみることにした。

■都市部では子どもが増えている


現在「日本の子どもの数」は減っているというが、とくに都内各地では保育園の待機児童数がとんでもないことになっている。東京で暮らしていると街に子どもは大変多い。「どこらへんが少子化なのだろう」という疑問は日々あるのだ。

筆者の住む東京都の平成25年の資料(※)では都内の人口、出生数、合計特殊出生率ともに前年度より上昇しており、区部では港区、中央区といった比較的土地の値段が高いエリアでの出生率が高いことがわかる。
(※)平成25年人口動態統計(確定数)|東京都福祉保健局 [PDF]
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/eisei/jinkou.files/a25-1.pdf

この統計から単純に考えてみるに、やはり「お金がある人が強い」という構図なのだろうか……。

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たしかに待機児童の問題も、出産費用も、教育費も、ちょっとくらい子どもがどたばたしたって誰からも文句言われない広さの家も、お金さえあれば解決するだろう。

小学校に上がって以降は子ども本人にまつわる問題も出てくるからわからないが、未就学年齢までならある程度はお金で何とかできるだろう。

「ベビーカーで電車に乗るな」「飛行機に赤ちゃんを乗せるな」といったクレームだって、お金さえあれば、陸路は車で、空路はチャーターでもすれば解決するだろう……。

ここまでは極端な例を挙げたが、もし子どもを産み育てることにストレスが伴わないなら、「じゃあ産んじゃおうかな」と私なら思うかもしれない。条件が整ってお金さえあれば無痛分娩だって選べるのだし、素敵な設備のそろった産院でホテルライクな産後を過ごすことだって可能だ。

■お金なのか?お金だけではないのか?


さて、政府は一度廃止にするとした「子育て世帯臨時特例給付金」をやっぱり今年も支給する方針としたようで、平成27年度厚生労働省予算案にその記述が盛り込まれた。気になる内容は、

平成27年6月分の児童手当(特例給付を除く。)の受給者及び要件を満たす者に係る児童手当の対象児童一人につき3千円

この額だったらいっそやめておいたほうがいいのではないか、と心配してしまう。

言ってしまおう、正直お金は欲しい。お金はモチベーションにもなる。これは間違いない。
ただ、年間で3,000円もらってどうするのだろう。オムツ2パック買ったら終わってしまうし、ミルク缶は2個買えない。「Amazonファミリー」の初年度特典のほうがまだ額が大きいではないか。

それにまた、めんどくさい書類があれこれ必要になることだろう。そのコストはどこから?子どもひとりに3,000円あげるのにいくら費やすつもりなのだろう。

「お金は欲しいよ、でも私がしてほしいのはそれじゃない」。

このもやもやはどういうルートで申請すれば的確に届くのだろうか。

■ボトルネックはいったいなんだ


子育てをめぐる近年の状況を俯瞰で見れば見るほど、ひどい堂々巡りをしている気がして、軽いばかばかしさを覚える。

不景気 → 未婚化 → 少子化 → 子どもという存在に慣れている大人の減少 → 不景気により働きたいお母さんの増加 → 待機児童問題 → 産科医がその間に減っていた → 地方を中心にしたお産難民 → 都市部の人口増加と全国的な人口減 → 将来的に子どもの数が減ることが見えているからハコ物は建てられないという行政 → 保育を民間に委託することの是非 → 待機児童問題解消を狙っての小規模保育施設の認可 → それすら近隣住民の反対にあって施設を建てられない → 預け先がなくて子どもを連れて歩く夫婦たち → 公共機関に子どもを乗せるなと責める人々 → その報道を見て「子どもなんていらないよねー」と思う下の世代たち → 少子化は進む → 労働者数の減少 → (以下ループ)

書き出しているうちにイライラしてしまったが、いったい何がボトルネックなのだろうか。
筆者から見えていないだけで、もっと複雑に絡み合った厄介な問題が潜んでいるのかもしれないし、正直、どうしたらいいのか現段階では答えを見出せていない。

状況が許せば、子どもはたくさん欲しいと願う人も少なくないと思われる。
年齢や体調などで物理的に厳しい場合を除き、お金が心配で2人め以降を躊躇する、ということなら、ある程度までは何とかなるだろう。

認可保育園などでは「きょうだい割引」のような制度があり、児童手当も3人目からはちょっとだけ優遇される。(3歳~小学校卒業までの年齢では第1子と第2子が10,000円、第3子以降は15,000円)
せめてこれが、第2子以降段階的に額が増えるならばもっとモチベーションは上がるのかもしれないが。

助産師のための月刊誌『助産雑誌』のアンケートでは、「少子化対策として有効と感じる育児手当金額は2万円以上が9割以上」という調査結果が発表されている。
たしかにこのくらいもらえたら「助かる!」と実感もするだろう。

このアンケート結果にもうひとつ興味深い内容が載っていたのでご紹介したい。
現在の子どもの人数別に「欲しい少子化対策」について質問した結果である。

子どもが0人~2人までの回答者では【保育所】や【長時間労働抑制】といった、働き方や預け先についてがトップに上がっているが、子どもの数が3人以上になるとそれらを押さえて【税制優遇】がトップに来る。2位以降の回答も経済的支援に関するものが多かった。

筆者自身がひとりっ子であるし、我が家もまだ子どもはひとりしかいないので想像がつかないが、子どもの人数が3人、4人……となってくると、共働きが物理的に厳しくなるのか、それとも働いたところでお金が足りないと感じるのだろうか。

それでも、我々が2人目、3人目を考えようとするのはなぜだろう。

自分のことで言えば、「こんな生活水準で無事に子どもを迎えられるのだろうか」と生まれる前にあれこれ悩んだものだが、実際のところは飛び込んでしまえばどうにかできる(もしくは「どうにかする」)、ということを経験として知っているからではないか。
“0から1にする”のと“1から2にする”のでは、後者のほうが心理的ハードルは低い。

■芸能人がもたらす、少子化を救う(かもしれない)かすかな光


筆者と同時期に第1子を出産したお笑いコンビ「クワバタオハラ」のくわばたりえが現在第3子を妊娠中とのニュースを見た。

年齢もほぼ変わらない、しかも先方は3人目ということで、ジャンルとしては「高齢出産」にくくられる我々であるが、勝手に勇気付けられている。

“誰かと私が同じ”である必然性はないけれど、ある種のロールモデルが存在することで安心するということはあるだろう。

長男を妊娠中だったときも「最近やたら芸能人も妊娠のニュース多いな、そういえば街にも妊婦さん多いなあ」と感じていたが、東京都の2010年の出生数は確かに増えており、気のせいではなかったことが裏付けられた。

自分が当事者というせいもあるが、今年もまた、街に妊婦が多かったり、芸能界のおめでたいニュースが多いなと感じている。

保育園の見学会に行っても、「次年度は大変かもしれませんよ」といわれることが多いので、実際、人数は増えているのだろう。


なんとなくな空気感、「乗るしかない、このビッグウェーブに!」とばかりに子どもが増える、ということは、案外あるかもしれないと思うのだ。もちろん、たったそれだけで子どもが増えるとは思わないが、イメージ戦略というのも時には必要ではないだろうか。

子育ては楽しいことばかりではないけど、子持ちがこぞって日常を「つらい、つらい」とばかり言っていたって生産的ではないだろう。かといって「キラキラママ」みたいな映像はおなかいっぱいだし、一般の大家族が出てくる番組はどこか非日常で他人事に映ってしまう節がある。

ここはひとつ、芸能界の子だくさんなみなさまには、リアルな日常をどんどん公開していただいて、子どもが複数いる日常をお茶の間にとって親しみやすいものにしていただくことで、生物学的な適齢期にあたる男女の心理的ハードルを下げる役割をしてほしいなあと願う。

ビジュアルで未来の生活が想像つくか、つかないか。これはもしかしたら大きな判断基準になるかもしれない。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。