1月も終わりに近づき、今クールのドラマもひととおり出揃ったところ。
子育て世代が気になるドラマといえば、フジテレビ系『残念な夫。』ではないだろうか。玉木宏さん演じる夫・陽一、倉科カナさん演じる妻・知里、生後6ヵ月の女の子・華ちゃんの3人家族を中心に繰り広げられるホームコメディだ。
http://www.fujitv.co.jp/zannen/index.html

筆者、結構なドラマ好きではあるが、ここまで子育てを前面に押し出したドラマって今まであまりなかったよなあ、と新鮮に感じている。「ママ友」とか「お受験」とか、もっと大きいくくりで「親子の絆」とか、家族をテーマにしたドラマは今までたくさん作られてきた。

そのほか、生まれたばかりの子どもに翻弄されて産後うつになってしまう母親の姿なんかも、あくまで連続ドラマのエピソードのひとつでは見たことがあるのだが、子どもが生まれたことにより変化する夫婦関係にフォーカスしたドラマというのは記憶にない。

「産後クライシス」という言葉がこの数年、ネット界隈で話題になり、報道番組でも度々取り上げられるようになったのが大きく関係していそうだ。

「残念な」とタイトルにつくぐらいだから、女性目線のかなり手厳しい描写もあったりするのかしら、フェミニズム全開だとちょっとキツいかもな、と思ったが、第2話まで見たところ、全然笑えるレベル。

このドラマ、なかなか細部までリアルに表現されていて、知里が家の中で抱っこ紐で抱っこしたまま寝かしつけている様子や、お散歩に行くときにマスクをしているのもいかにも「乳児を抱えた母」っぽい。

逆に、子育てを始める前だとこういうことって分からなかったよな……赤ちゃんがどうやって寝るかなんて考えたこともなかったから、家の中にいるのに抱っこ紐使うなんて思わなかったよなあ、と感慨に耽る。

また、華ちゃんがウンチしたときのオムツ替えを陽一が露骨に嫌がるリアクションなんて、全・子育て中の母が「うちもうちも!!!」と頷いたのではないかと思う。なぜ父親はあんなにウンチの処理をしたがらないのでしょうね……。

知里は陽一に「もっと華ちゃんと向き合ってほしい」と伝える。優しいけれどぼんやりしていて、子育てに関して完全受身の夫に対して、「もっと積極的に育児に参加して」と要求するのも、結構な「あるある」ではないだろうか。

それをぼやくと、先輩ママが知里に「あなたが里帰り出産したのもあって、きっと彼はまだ親になった実感がないのね」と優しく諭す。


筆者は里帰り出産をしていないので、産後すぐからずっと夫は娘と過ごしてきたけれど、果たして最初から「父親としての実感」を持っていたのかというと怪しい。

さらに言うと、私自身も実感なんてあったかな……?
実感に浸る余裕もなく、日がなお世話にあけくれ、生活のリズムがついてきた時期に「少し落ち着いたね」と顔を見合わせた時、ステップが一段上がったような気がした。

とはいえ、娘と過ごす時間は私の方が圧倒的に長いわけで、私の方が子育てに慣れるのは当然だ。夫もそれを引け目に感じるほど繊細ではないし、できる限りのことをしてくれているので、あまり高望みするのもなあとは分かっているけど、「もっとこうしてくれたらいいのに」と要求が高くなっているのも事実。


第2話では、知里が産後ひさしぶりの外出のために陽一がひとりで子守りをするのだが、案の定、ハプニングが続出。事前に知里に作成してもらった、「困ったときはこう対処する」マニュアルもてんで役に立たず、病院に駆け込むことに。

疲れ果てて華ちゃんを玄関にうつ伏せで放置したままソファで寝転がっているところに、知里が帰宅して激怒、という結末だった。

「さすがにうつ伏せはアカン……」と説教したくなったが、留守番してもらったのにありがとうも言わず激怒もアカン、と制したくなった。

ただ筆者も、夫に留守番をしてもらったのに帰宅したときにガッカリ、ということがじつはある。服が汚れているのに着替えをさせていないとか、変な時間に昼寝をさせていたとか、そういう些細なことだ。

ちょっとくらい服が汚れていたって困りはしないし、1日くらい就寝の時間が遅くなったくらいで致命的な結果になるわけではない、ご機嫌に過ごしてくれていたのだからそれで御の字と思いたい。

だけど、「いつも私はこういうリズム、こういう習慣で生活をさせている」という手馴れで決めごとを作っているものだから、それに沿わないことが1日でもあるとペースを乱されたように思えて気に入らないのだ。融通がきかないなという自覚はあるので、もっといい意味で「適当」になりたいのだが……。


ドラマの陽一もただまだ実感がないだけ、その実感を得るまでの経験を積んでいないだけで、強調するほど「残念」ではない。

むしろ結婚記念日には花を買って早く帰ろうとするなんて結構レベル高いぞ! 知里もまだ肩に力が入っているだけで、陽一が嘆くほど産後変わってしまったわけではない。どちらも想定の範囲内だし、どこもきっと同じようなもんだよー!と言いたいところだけど、私が偉そうに言えた話ではないか。

でも本当にドラマだと、「あー、そこそこ! ああすればいいだけなのに!」と客観的に見られるんだよなあ。自分も似たようなことをしているのに。

ただこのドラマ、唯一胸がチクっと痛むシーンがある。陽一がひとりで、また上司とともに通うサウナだ。

汗を流したあとビールを飲んだり、夫婦喧嘩をしていたたまれず出かけていくオアシス的な存在だ。母親だったらちょっとイヤなことがあったからといって子どもを置いてひとりでふらっと出ていくことはできないけど、父親なら可能なんだよな……と思うと、知里同様「男はいいよなー」と言いたくなってしまった。そして、このモヤモヤに対するアンサーをドラマの中で提示して欲しい、そんな希望を抱いてしまった。

コメディなので、実際の産後クライシスの深刻さや切実さは伝えきれないし、現実はこんなに甘くない!という声もあるだろう。だけど、口に出せないだけで溜まっている女性の不満や鬱屈した思いを、子育て中の、いやこれから父親になる可能性を持つ男性たちにも知ってもらうきっかけになればと期待している。

ただ、水曜の22時という放送時間。働き盛りの男性はまだ帰宅していないだろうか。飲み会に出ているだろうか。我が家も例外でなく夫はまだ帰ってこない時間帯だ。

届いてほしいところに届かないというのは残念。そんな皆さんのために、放送後から次回の放送時まで無料配信してくれる「プラスセブン」(http://fod.fujitv.co.jp/s/plus7/)というサービスもあるらしいので、ぜひ視聴されたし!

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。