先日、1歳半の息子と電車に乗りました。
案の定、子どもがグズっておおわらわ! ほかの乗客の迷惑にならないように、必死でなだめること30分。目的地に着いた時には、もうクタクタでした。

このとき同じ車両には、車いすの男性とその介助者も乗っていました。男性には障がいがあるようで、「う~」「あ~」と終始大きな声を上げていましたが、介助者はとくに気に留める様子もなく、スマホをいじっていました。

もしこれが、騒ぐ子どもを放置する母親だったら、大ブーイング間違いなしでしょう。「うるさい」「静かにさせろ」と。


公共の場で他人をうるさいと思うのは、自分の意思とは無関係に声や音を聞かされるから。でも、その発生源によって対応が違うのは明らか。

ためしに、大手検索サイトで「障がい者 電車 迷惑」で検索すると、約131,000件がヒット。一方「子ども 電車 迷惑」では約935,000件。7倍以上です。

子どものほうが目にする機会が多いことを差し引いても、その差は歴然。また、著名人や芸能人が、子どもはうるさくて迷惑という趣旨の発言をすることも珍しくありません。もしこれが障がい者に対する発言であれば、炎上では済まないでしょう。人権問題に発展する可能性すらあります。

日本の社会には、次のような風潮があると思います。

「障がい者は何かしらのハンディがあるのだから、健常者と同じようにできないのは仕方がない」

日本人は基本的に優しいから、弱者に寛容です。では、なぜ子どもには厳しいのでしょうか? それは、子どもを“小さな大人”としか見ていないからだと考えます。

「とくにハンティがないのなら、あくまで健常者。言い聞かせれば理解できるでしょ。うるさいのは、親のしつけがなってないから」

恥ずかしながら私も、子どもがここまでコントロール不能だとは思っていませんでした。覚悟はしていましたが、想像をはるかに超えるレベル。もう、小さな大人どころじゃない。―― そう、宇宙人。

そういえば過日、ツイッターでこんなつぶやきが話題になっていました。

今日の保育園で、ギャル系ママさんが「お医者さんが~、わけわかんないのが2歳児だって言ってたんだけど~、確かにうちの2歳児の意味不明さヤバイし、っつーことは、かなり順調っぽい。サイコー」って言ってるの聞こえてきてとても良かった。なんか元気出た
https://twitter.com/yahiro7200/status/559738286252367872



そう、わけがわからないことが正常なんです!
電車で30分も40分も黙って絵本を読んでいるほうがレアケースなんです!
もちろん、だからといって子どもが公共の場で騒ぐことを放置していいとはまったくく思いません。根気よく社会のルールを伝えていくことが、親の役目だから。でもどんなに手を尽くしても効果がなく、周囲の冷たい目線に耐えるか、その場から逃げだすかしかないこともしょっちゅうです。

子どもとは、言うことを聞かない生き物である。
もしこの現実が常識として共有されたら、子育て世代の肩身の狭さはかなり軽減されるはず。

核家族がスタンダードになり、子どもが身近にいる環境を経験しないまま大人になる人が増えています。さらに、未婚率やDINKs(夫婦共働き子なしの世帯)も増加中。子どもの実態を知る人が減れば、子どもや親への眼差しがさらに冷たくなるでしょう。


こんな現状を変えるために、いっそ中学・高校の家庭科で保育教育(子ども・子育て)を充実させて、保育園や幼稚園での実習を取り入れることがいいと思うのです。昔のように、小さい子どもと自然に触れ合う環境はとても少ないですし、だったら、意図的にそういう機会をつくればいい。

振り返ってみると、学校で子どもの作り方は教わりましたが、育て方は一切教わりませんでした。エプロンの制作実習よりも、子ども・子育てについての学習のほうがよっぽど有意義だったと思います。

たまたま地元の中学生が、息子の通う保育園で職場体験を実施していました。そして彼ら彼女らの声を聞いて、義務教育に組み込む価値があるほどの貴重な体験だと実感しました。その声の一部です。

「着替えさせようとしたら園児が走って逃げてしまい、時間がかかった」
「食事介助が難しかったです。こぼしたり、口を開けてくれなかったり……」

着替えや食事という超ベーシックな日常生活の一部でさえ、じつは大仕事。「子どもは言うことを聞いてくれないんだよ!」と100回聞くより、よっぽど身に染みてわかったはずでしょう。

もちろん大変さだけでなく、子どものかわいさ、お世話の楽しさにも気づいたようです。
「プラレールで複雑な線路を作ったら、すごく喜んでくれた」
「おままごとのとき、ご飯やジュースをくれるのがカワイイ!」
など、微笑ましいエピソードもたくさんありました。

10代のうちに子どもについて学び触れ合う機会があれば、子育てへの理解が進むと思います。外国語教育もけっこうですけれど、日本社会をよりよく生きやすくする教育はまだあるように思うのです。

ヒラタ ケイコヒラタ ケイコ
大学を卒業後、サラ金、貿易事務、IT、外資系銀行など、あらゆる業種・職種を経験するも適職には出会えず。35歳で出産後、夫が出張族のため家事育児の負担がのしかかり、36歳で退職。現在は子育てや女性の働き方などをテーマに執筆活動をしている。