行きたいライブが平日に開催されることになった。
毎度のことだが、「その時間、娘の面倒は誰が見る?」という問題に直面する。あと数ヵ月あるからぼちぼち考えよう、まあ何とかなるでしょう!と勢いでチケットを取ったのは今年の初めのことだった。

しかし、公演の日が近づくにつれ不安が押し寄せてきた。

結局まだ誰にも託児をお願いしていない……。

夫はここのところ輪をかけたように仕事が忙しくて終電ギリギリの帰宅、近所に仲良くしているママ友もいない。何度か利用した夜間の一時預かりも、最終のお迎えは20時までだ。



ちょっと厳しいな……、だけどせっかく取ったチケットを無駄にもしたくないし、もう奥の手を使うしかない、と実家の母に連絡することにした。

私用のために関西から来てもらうのは……という躊躇も若干あったが、保活で非常にしんどい思いをしたこともあって、母が「何かあったらもっと頼ってきていいんだよ、遠慮は要らないから」と言ってくれたことに今回ばかりは甘えてみてもいいかな、と考えた。

ダメ元で母にメールをすると「いいよ、何日の何時に行けばいいの?」とふたつ返事でOKが出た。

ライブ当日の昼に我が家にやってきて、「ゆっくりしてきていいよ」と送り出してくれた母に感謝したものの、何となく娘のことが気がかり。ライブの終演後はさっさと帰ろうかなと思っていた。

だが、ライブは超大盛り上がり、私も興奮と熱狂で完全にメーターが振り切れてしまい、一緒に見ていた友人に「ねえ……ビール1杯、いや2杯くらい飲んで帰らない?」と持ちかけると、「当たり前じゃーん」とにっこり。

さあ乾杯しにいこうかと外に出ると、母から数件メールが届いていた。
もしや大泣きしてるとか発熱したとか?!と恐る恐る確認してみると、

「大はしゃぎしてなかなか寝ないよ。起こしておいてもいいのかな?」
「まあ眠かったら明日保育園でお昼寝するだろうから大丈夫だよね?」
「やっと寝そうになったから、起こさないようゆっくり帰ってきてね」

と、いつもより就寝時間は遅くなったものの、無事寝ついたことが分かり、胸を撫で下ろした。寝てしまえばもう安心かも、と友人との時間を心ゆくまで満喫して、帰路についた。


大きな解放感と少しの罪悪感。
娘を置いて出かけるとき、いつも母親という着ぐるみとかお面みたいなものを脱いで、本来の私に戻ったような気持ちになる。

だけど背中にはペタっと貼り紙がしてあって、気にかかってついつい後ろを見てしまう。
でも、背中だからよく見えなくて、ずっとそわそわしている……そんな心もとなさを感じるのだ。

授乳期であれば子どもがお腹を空かせていないかと心配になるだろうし、母親側も胸が張るから苦しさに耐えかねてすぐ帰宅、ということは往々にしてあるだろう。

じゃあ卒乳さえしてしまえば平気なのか、というとそうでもなくて、夫への遠慮だったり、子どもが人見知りを始めて、母親以外だと嫌がったりすることもある。

そんな時に周囲が子どもの母親への敬意を示して(?)発せられる、「本当にママが大好きなんだね~、ママじゃないとダメなんだよね~」という言葉。

ママじゃないとダメ。私じゃなきゃダメなのか?

それはプライドをくすぐる言葉だ。子どもが一番好きなのはママなんだ。
一番面倒を見ているのは自分、だから一番好かれるのも自分だという矜持。

同時に、その言葉には母親を拘束する力もある。足に重い鎖を繋がれたような感覚。嬉しいような、ちょっと重たいようなない交ぜの感情に邪魔をされて、外出しても最低限の用事を済ませたら早く子どもの元に帰らなきゃ、という気にさせられる。

最寄駅に到着すると家まで駆け足で、なんてこともしょっちゅうあった。


しかし帰宅すると、泣いていたりしたのは生後数ヵ月の頃までで、ここのところはそんな様子はほとんどない。

息を切らせて帰ってきたら夫とまだ一緒に昼寝をしていたり、散歩に出かけていたり、とご機嫌よろしく過ごしている。

逆に、「こんなに急いで帰ってくる必要なかったかもな」と拍子抜けすることもあった。
母に留守番をお願いした夜も、えらく興奮はしていたみたいだが、遊び疲れて寝たあとは朝までぐっすり寝ていたし、翌朝も機嫌よく起床していた。


もっと小さかったときの「ママじゃなきゃダメ」をいつまでも気にしているのは自分だけだったのかもしれない。

あの時よりも子どもは大きく成長して、世界が広がっていっているし、夫や周りの家族も子どもを見る存在としてどんどんレベルアップしているのだ。

たまたま子どもが母親を恋しがって泣くことがあっても、タイミングが悪かっただけかもしれない。だとしたらそれは一時の気分なんであって、いつまでも「ママじゃなきゃダメ」だとは限らない。

たまに外出したくらいで、親子の信頼関係が崩れるほどじゃないだろう。

まだまだ手はかかるし、どうしても子育ては母親の負担が大きくなってしまうものだけど、自分が楽になるためには、もっと子どものことも、子どもを見てくれる周囲の人たちも信用したほうがいい。

「孤育て」にしないようにも、まず自分から声を上げたいな、そう考えている。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。