朝起きて外を見ると雨。そんな日は、心の中も大雨だ。幼児を連れて雨の中通園する苦労は、想像をはるかに超えていた。

きっと、自転車でも車でも、雨の日の通園にはそれぞれ苦労が伴う。自転車の前と後ろに子どもを乗せて、お母さんはスーツに雨合羽、そんな親子を見ると、歩きの方が楽かもしれないと思わずにはいられない。

でも、徒歩には徒歩の苦労があった。

娘が小さいうちは、抱っこ紐を使ったり、ベビーカーにカバーをかけて自分は傘をさしたりしていた。それが2歳半を過ぎ、雨でも徒歩で通園するようになってから、初めてその問題に直面した。

まず長靴。うまく歩けない。ちょっと調子に乗ると今度は転ぶ。疲れたと言われ抱っこをしてあげたら、気づいたときには片方の長靴がはるか遠くに落ちていたなんてこともあった。

そんなことを繰り返し、どうにか長靴はクリアした。レインポンチョを着て、親の傘に入り、ずぶ濡れになりながらも一生懸命歩いてくれた。ただ、体が大きくなってきて、このスタイルにも限界がやってきた。

そして問題のアイテムが登場する。傘だ。

小さい子どもが傘をさして歩いている姿はよく目にしていたので、とくに心配はしていなかった。本人があまりさしたがらなかったこともあり、3歳を過ぎてやっと初めての傘を与えたところ……長靴の比ではない、まったくと言っていいほど前に進まないではないか。

何が彼女をそこまで歩けなくしたのかは、正直よく分かっていない。ただ、事実として、歩くスピードが格段に落ちた。普段ならもう保育園に着いていてもいい時間に、まだ中盤。バランスが取れないのか、風が吹くのが怖いのか。フラフラ歩くその姿を見て、先が思いやられたのは言うまでもない。

これではまずい。頑張りたいという娘を説得し、傘を畳んでもらった。
そして、数日後に筆者がとった行動はと言うと、大雨の中でもハイキングができそうな、本格的なレインコート(上下)の購入だった。

簡単に傘を克服できるとは到底思えず、ひとまずは傘がなくても濡れない装備を用意した。子どものためにこれでいいのかという疑問は残ったが、朝からあのペースで登園していては、こちらの身がもたない。よりによって、梅雨どきに初めての傘を与えてしまったのでなおさらだ。

とりあえず、装備を完璧にしておいて、時間が許すときだけ少しずつ傘をさす。こうして、どうにか人並みには歩けるようになったけれど、ここまでの道のりの長かったこと。

想像力の乏しい私には、どうやったら楽に傘を克服できるのか、想像がつかなかったのだ。


じつは、答えは簡単で、練習すればいいだけのことだったのだけど……。
ただ、練習と言っても、私のようにいきなり実践するのではなく、遊びの中での練習を取り入れるべきだったと今さらながらに思う。

先日、『ちいさいモモちゃん あめこんこん』という絵本に出会った。お話の中でモモちゃんは、晴れの日に庭で「あめふりごっこ」をする。長靴を履き、傘をさして、歌いながら楽しそうに歩き回っているのだ。


ここにヒントがあった。
そう、雨降りごっこで傘を克服すればよかった。

ごっこ遊びに特別なものは必要ない。雨も水たまりも、子どもの目にはきっと見えている。庭でも家の中でもかまわない。しばらくは雨降りごっこを楽しんで、上手に歩けるようになってから実践にうつせばよかった。


結果的に筆者は、娘に傘の持ち方や歩き方をわざわざ教えてはいない。実践しながら本人がコツをつかんでくれた。それならば、何も大雨の中で神経をすり減らしながら覚えさせるのではなく、晴れた日に、親も子もいい気分で楽しめばよかった。今だからこそ言えることだけど。

もっと早くこの本と出会っていたら、もしかしたら私の想像力ももう少し広がっていたかもしれない。本と同じように雨降りごっこができるとなれば、娘もきっと喜んだだろう。

先日、たまたま保育園で似たような話題になったとき、ベテラン保育士も言っていた。とくに車や自転車で通園している子は、急に傘をさしてもうまく歩けないことが多いですよ、と。我が子が特別だったのではないと知り、なんだかほっとした。ちなみに、そこでもまた雨降りごっこを勧められ、ああ、絵本と同じではないかと思ったことをよく覚えている。

絵本の世界は広い。普段はまったく気にも留めないようなストーリーの中にも、じつは想像力を膨らませるヒントがたくさんあったのだと気がつく。

子どもが大きくなってきて、想像力の必要さを思い知らされることが多い。彼女の気持ちを理解してあげるためにも、育児をスムーズに進めるためにも、想像力を膨らませる努力をしなくては。そろそろ雪にも備えておいた方がいいかもしれない……。

西方 夏子
電機メーカーにて組み込みソフトウェアの開発に携わったのち、夫の海外赴任に帯同して5年半ほどドイツで暮らす。2012年に同地で長女を出産後、日本に帰国。現在はフリーでiOSアプリの開発や書籍の執筆を行う。