食物連鎖。生きていく上で避けては通れない世の常。我々もその連鎖の中で、肉や魚を食べて生きている。

「食べ物を粗末にしてはいけません。」

子どもにそう伝えた、もしくは成長とともに伝えていきたいと思っている人は少なくないはずだ。そうは言っても、やっとまともに食事が取れるようになってきた幼児を相手に、どうやって伝えていけばいいのだろうか。

そんなことを思っていたある日、食物連鎖が描かれた絵本に出会った。


福音館書店の月刊絵本「かがくのとも」で刊行された『イワシ むれで いきる さかな』(かがくのとも 2013年5月号/大片忠明作)である。

群れで生活するイワシが、他の生き物に食べられながらも生き続けていくようすが描かれている。食べたり食べられたりを、柔らかいタッチで世の必然として描いたこの絵本は、名著だと思った。

これ以上の言葉はいらない。ときどきこの手の絵本を読むことで、子どもなりの解釈をし、大切なことを学んでくれるのではないだろうか。

本人はきっと、まだまだ本質的な部分は理解していないだろう。ただ、それでもいいと思っている。点と点がつながり線を描くように、絵本から得られる想像の世界が、ある日突然一気につながり、事実として心のなかにストンと落ちてくれるかもしれない。

そもそも、食事とは楽しいもののはず。残さず食べさせるため、粗末にしないようにするために、あまりガミガミとは言いたくない。いけないことはいけないと教えつつも、本人が納得するまでは根気よくいくしか道はない。

親から言われるアレコレを、子どもはきっと理解しようと努力する。だけど、絵本の世界はと言うと、子どもはきっとこれを心で感じるだろう。子どもに何か教えたい時、理解させるより感じさせた方が早いと思うことがある。食べ物に関することもまた、その一例ではないだろうか。


ところで、毎日何気なく口にしている「いただきます」の由来には諸説があるが、その中のひとつにこういう話がある。

≪食材となった動植物の命を「いただい」て、自分の命を養わせてもらう、その感謝を意味している≫
・引用:いただきます - Wikipedia

そう、いただきますと言う挨拶は、命をいただくことへの感謝の気持ちだったのだ。
この感謝の気持ちを自然に持てるようになってもらうため、ほかにも食物連鎖をテーマにした絵本を探してみたい。


さて、そんな親の気持ちとは裏腹に、もうすぐ4歳になる娘は、好き嫌いが激しくなってきた。いや、嫌いというよりも気分の問題だ。昨日大好きだと絶賛していたものが、今日は大嫌いに成り下がる。子どもの好き嫌いなんてそんなものだろう。

親としてここでどう振る舞うべきかは、家庭の教育方針で大きく変わってくるところだと思う。この場でその教育方針にまで踏み込むつもりはない。

ただ、筆者の場合をひとつの例として書いておくと、我が家では残すことをあまりうるさく注意はしていない。子どもにだって子どもの気分や事情があると思うからだ。とくに保育園の日は、昼間の食べっぷりを見ているわけでもないので、本当の空腹度合いは本人にしか分からない。それでもこちらはいつも同じ量を提供するのだから、子どもにも拒否権が必要ではないかと思っている。

そんな我が家にもひとつだけルールがある。出されたものはとにかく一口は食べること。苦手な食材も一口は必ず口に入れてもらう。

私だって、それなりに栄養バランスを考えて作ったりもしているわけで、なにもかも適当に扱われてしまうのは悲しい。大人気ないと言われても、そんなところから小さな苛立ちは芽生えてしまうものなのだ。でも、一口ルールがあるだけで、なんだか救われる。

お互い少しずつ譲歩したり我慢したりして、食事時間の心のバランスを保っていきたい。

西方 夏子
電機メーカーにて組み込みソフトウェアの開発に携わったのち、夫の海外赴任に帯同して5年半ほどドイツで暮らす。2012年に同地で長女を出産後、日本に帰国。フリーのiOSアプリ開発者を経て、現在はフィンテック系ベンチャー企業に所属。