「母になるなら、流山市。」そんなキャッチコピーで、首都圏交通広告を展開して以来、子育て世代の注目を集めてきた千葉県流山市。人口は10年前より約2万5千人増え、現在18万人ほど。しかも30~40歳代の子育て世代が増え続けているという。

「子育てするなら」ではなく「母になるなら」とした真意とその後の成果について伺った前編に続き、実際に母たちと作り上げてきた実績と今後の抱負について、流山市総合政策部マーケティング課のメディアプロモーション広報官、河尻和佳子さんに伺った。

前編:「母になるなら、流山市。」その真意と成果について市役所にきいてきた


■「女性のための超実践型創業スクール」で起業する母も!


―― 流山市で注目されるのは、子育て支援だけでなく、子育て女性の雇用創出も積極的に推進していることです。具体的にどのようなことが行われているのでしょうか。

流山市 河尻さん(以下、敬称略):今年、ママのためのサテライトオフィスとコ・ワーキングスペース、イベントなどができるオープンスペースと、3つの機能を揃えた「Trist(トリスト)」という施設が南流山にできました。ただ、市が補助金を出しているものの、こういう場が必要と感じたママさん自身が立ち上げました。


リーダーは一人ですが、共感したママさんグループでプロジェクトを立ち上げて、自分たちのスペースをつくったというわけです。現在、この施設に魅力を感じた都内企業がサテライトオフィス第一号として入っており、地元ママさんの雇用も生まれました。第2第3の企業誘致をしていきたいと、精力的に営業されています。この事例は先にお伝えした「自分で何かしたい」という市民が出てきていることの象徴だと思います。

市が行っているものとしては、商工振興課による「女性のための超実践型創業スクール」があります。女性が持っているスキルを引き出し、創業につなげようという狙いで始めました。1年のうち春と秋で2回開校し、1回3ヵ月間で隔週行っています。講師は「Trist(トリスト)」をつくり起業したママさんにお願いしています。

現在4回目が進行中で、3回卒業生を出していますが、起業のほか、受講生同士3人のママさんたちでママのためのカフェをつくったり、市内モデルハウスと交渉してワークショップを開催したりと、市内でさまざまな動きが出てきています。

■住みやすい街づくりのため住環境にも配慮


―― 住環境についてはどのような整備が進められていますか。

河尻:良質な街並みを保持するため、おもに2つのことをしています。1つは森の緑と住宅の緑化をチェーンでつなぐ「グリーンチェーン戦略」です。つくばエクスプレス開業により失われた緑を取り戻そうと、建物を建てるとき、事業者には接道面の緑化や、2m以上の高木を植えていただくお願いをしています。条例や義務ではありませんが、累計200件以上の認定件数となりました。緑化によるヒートアイランド抑制も見込んでいます。

もう1つは、開発事業の許可基準に関する条例で一区画あたり135平方メートル以下にしないと定めました。条例施行前は140平方メートル未満が多かったのですが、施行後はそれ以上の広さとなり、時を経ても資産価値が下がりにくい街並みを目指しています。

「流山市子育て応援マンション認定制度」もあります。市内の既設・新設マンションにおいて、住戸内や共用部のハード・ソフト面に子育て世帯に配慮していれば、市が認定する制度です。

認定されるには、ベビーカーのスペース確保や、防災用品に乳幼児に必要なものが備わっているなど24要件のうち、18要件に該当することが必要です。新築マンションでは販売促進に、既設マンションでは資産価値が下がりづらいということにつながればと思っています。この7月からスタートした新しい制度ですが、市民からの提案がきっかけでした。

―― 市民からの提案は実現されやすいのでしょうか。

河尻:「市長への手紙」のほか、市長や部長など経営層が参加するタウンミーティングを定期的に開催して声を聞き、実現できる提案は実現できるよう務めています。タウンミーティングには子育て層も増えてきています。この層は、そもそも「この街で」と、共感して転入してきているので、意識が高く積極的です。

面白いのは、課題を市民としてどう解決できるかという意識があることです。たとえばこの街のこの駅前にはどんな施設がふさわしいか、市民発でアンケートをとり、それも後押しして条例化に至ったこともありましたし、この夏には複数の市民団体による小学生を対象に預かり保育が実現しました。

「自分たちでできることはやる」という市民の方々の意識の高さは流山市の宝です。

■「シビックプライド」を醸成し、流山ファンを増やしていきたい


―― 今後、自治体として目指す姿をお話ください。

河尻:市民の方には、「ずっと住み続けたい」「流山が好き」と思ってもらいたいですね。「シビックプライド」と呼んでいますが、この街を誇りに思ってもらえる気持ちを醸成していきたいと思います。

つくばエクスプレスが開通から10年経ち、駅前のマンション開発がそろそろ一段落しそうですが、開発が終わって「あの街は終わった」ではなく、いつも動いている街、イベントや市民発の取り組みが盛り上がっていて、市民でなくても参加したくなり、市外の方が「あの街楽しそう」「流山のああいうところが好きだから」「手伝いたいな」となればいいなと思っています。市民の数ではなくて、参画量というか愛を持ってかかわれる量を増やしていきたいですね。

実際、開催しているイベントは約半数が市外から来られています。そうやっていろいろな人がきて混じり合い「楽しそうだな」ということが広がり、ブランドになっていけばと思います。

流山は子育ての街というイメージがつきつつあります。それはありがたいですが、だから子育て日本一の街とか、公園や森がある街とか定義付けるのではなく、いろいろな市民がいて、いろいろな魅力があって、いろいろなものが生まれてくる。のびしろと余白の多い可能性のある街という顔を見せられたらいいなと思っています。

―― そうなるために行政が果たすべきことは何でしょうか。

河尻:やはり人がキーとなります。人を発掘したり、その人の魅力を外に出していくための場やきっかけをつくっていくことが行政の役割だと思っています。

たとえば、首都圏駅PR広告のモデルのママさんたちは市民ですが、モデルになることで市の顔になり、いい加減に流山を語れない、もっと流山を知り、流山の課題があれば自分で何かやらないといけない、という意識が芽生えたりしています。このモデルについても、最初は探すのに苦労しましたが、最近は自らやってみたいという声もあり、市民の熱も上がってきたと感じます。

ただ、今の盛り上がりはまだ一部なので、今後はその裾野を広げ、全体を熱くしていくのが行政がやるべきことだと考えています。そうは言っても堅いんじゃないかとか、いろんな思いがある人はいっぱいいるとは思いますが、何かのきっかけで地域にフックが掛かると、自分も参画できて、意外と楽しいね、となっていくはずです。そんなフックを掛けられるような場所を、行政としてたくさんつくり、裾野を広げられたらいいなと考えています。

流山市公式PRサイト
http://www.nagareyama-city.jp/

江頭紀子江頭紀子
調査会社で情報誌作成に携わった後、シンクタンクにて経営・経済に関する情報収集、コーディネートを行いつつ広報誌も作成。現在は経営、人材、ISOなど産業界のトピックを中心に、子育て、食生活、町歩きなどのテーマで執筆活動。世田谷区在住、11歳5歳の二女の母。