NHK、朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』を毎日見ている。
もともと朝ドラを見る習慣があまりなく、朝8時は娘がすでにEテレを見ている時間&私も家事をしたりでテレビを見る余裕がないのだが、今回ばかりは見逃せないぞと意気込んでいた。

なんてったって、ヒロインのモデルは「ファミリア」創業者の坂野惇子(ばんの あつこ)さん。「ファミリア」といえば神戸を代表する子供服メーカーであり、神戸出身の筆者としては並々ならぬ思い入れがある。


第1回の冒頭、主人公・坂東すみれが母・はなに刺繍教えてもらうシーンで、「わあ、ファミリアっぽい!」と気分が盛り上がった。

少女時代のすみれと姉・ゆりが着ている洋服も、いかにもファミリアの洋服の原点という感じで、自分の幼少期を思い出した。そう、私もあんな感じの洋服をハレの日には着ていたのである。……といってもファミリアの商品ではなく、「ファミリア風」なのだが。

幼稚園に通っていた頃から、入園・卒園式や、ピアノの発表会などで着る服は、洋裁を習っていた母が作ってくれていたのだが、それらはほとんどファミリアの型紙を使ってできたものだった。

「ファミリアの服は高級でなかなか買えないから、真似して作っていたのよ」と笑っていたが、ドラマに出てくる洋服はどれもこれも自分の記憶にあるものと近く、懐かしさでいっぱいだ。

また、地元の女子校は通学用のサブバッグにファミリアのお稽古バッグを持つことが多く、共学校に通っていた筆者も、その雰囲気を真似したくて、ファミリアのバッグを通学カバンにしていた時期があった。

幼少期のみならず成長してからも割と身近な存在だったので、ブランドの成り立ちがドラマでわかるなんて新鮮だなと期待していたのだが、最初のうちは「なかなかストーリーが展開しないものだな、まあでも半年続くんだからこんなもんなのかな」とぼんやりと見ていた。

しかし、出征していたすみれ(役・芳根京子)の夫・紀夫(役・永山絢斗)が戻ってきて、かなり大きくストーリーが動き出す予感がしている。

裕福な家庭に生まれ育って、不自由をしたことがなかったすみれが、戦中戦後の困窮した状況のなか、食い扶持を求めて始める子供服作り。欧米の育児法や子供用品を採り入れた商品は画期的ではあるけれど、なかなか売り上げは伸びない。

生活必需品でさえ満足に手に入れられない時代で、子供服は「ぜいたく品」とみなされて苦戦するも、友人や周囲の人間の協力を得て、自分たちの店「キアリス」のオープンにまでこぎつけたすみれ。

ところが仕事の楽しみを見出し始めたすみれに、紀夫は難色を示す。

現代でも、妻が働くことにパートナーの理解を得られないという悩みは度々耳にするが、紀夫の頑なな態度はなかなかのもので、すみれに向かって「僕が仕事をして養うから、君は家に入ってほしい」と告げるシーンは、思わず「昭和~!!」と叫びたくなった。

先日も男女平等ランキングで日本が過去最低の順位だったというニュースが話題になったが、今でさえこれだけジェンダーギャップが大きいのだから、戦後間もないころ、約70年前なんて想像もつかないほどだろう。

宴会の席でお尻を触られたことを憤る姉のゆり(役・蓮佛美沙子)が、「処世術なんだから受け入れろ」と祖母にたしなめられるシーンもやはり昭和的だ。

ただ、兵役から戻ってきたら何もかもが様変わりしていて、自分が強く信じていた「日本」ではなくなっていた現実に、紀夫が困惑しているのも明らかで、一口に「男のプライド」なんて言葉では片づけられない複雑な心理を思うと、ただブーイングすればいいってもんでもない。

しかも、紀夫のモデルである坂野通夫さんは、妻・惇子さんが創業した「ファミリア」の社長を務めていたことを考慮すると、紀夫の反発が妻への共感・協力に変わるときが来るはずで、徐々に変化が起きるのか、突然ブレイクスルーが生じるのかが気になるところだ。

今後、物語の中で「キアリス」が大きく成長していくことは、女性たちの自立はもちろん、それまで紀夫をはじめとする男性たちが縛られてきた「男らしさ」から下りる手がかりにもなりそうだ。


帰還兵の苦悩や家族とのギャップというのは、海外小説や映画でもよく語られているテーマで、男性は男性ならではの抑圧に苦しんでいるのだとしたら、そこから解放された方がいいはずだ。

女性が女性の手だけで幸せになれるかと言ったらそうじゃないし、どちらかというと「母親と子どものもの」という子供服の世界に、男性がどのように関わっていくのかを注目して見ていきたい。

登場人物が全体的にいかにも朝ドラ的なちょっとオーバーな方言で喋っているのに対し、紀夫を演じる永山絢斗さんが異常に関西弁がうまい(永山さんは東京都出身)のは何なんだろう、というのが個人的に気になるポイントでもあるが……。

戦時中の神戸を描いた作品といえば、野坂昭如氏の『火垂るの墓』で育った筆者なので、ブルジョワ層のそこはかとない余裕に、最初は「へ~」と若干距離を感じてしまっていたのだが、『べっぴんさん』はこれから親近感のわく内容になるんじゃないかな、と考えている。

真貝 友香(しんがい ゆか)真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。