
1億人以上が視聴するという米国最大のスポーツの祭典で、アメリカンフットボールの最高峰、NFLの優勝決定戦である「スーパーボウル」。2月5日に行われた試合の前に流れたテレビコマーシャルのひとつは、コカコーラの『It's Beautiful』だった。
さまざまな人種のアメリカ人たちが、英語を含む7ヵ国語でアメリカ賛歌『America the Beautiful』を歌うこのコマーシャルは、2014年に初めて流れた。"Together Is Beautiful"の言葉で締めくくっていたが、あの時も賛否両論になったこのコマーシャルが、それから3年後、ますます必要とされると同時に、新たに物議をかもす世の中になっているとは想像もできなかった。
Coca-Cola | It's Beautiful
【参照】America is Beautiful and Coca-Cola is For Everyone
http://www.coca-colacompany.com/stories/america-is-beautiful-and-coca-cola-is-for-everyone
先月20日の就任以来、トランプ新大統領が、アメリカを、そして世界を日々騒がせている。
この国の半分は彼に投票をしなかったわけで、反対の声をあげる活動があちこちで行われるのは当然だろう。女性の権利保護や男女平等などを訴える「Women's March」は、米国史上最大規模の抗議活動として歴史を作り、世界各地でも展開された。トランプ氏を大統領にしてしまったアメリカの責任は重大だ。
就任式から1月31日までに新大統領が署名した大統領令は7つ(ちなみに、オバマ前大統領は同じ期間に9つの大統領令に署名)。公約どおりといえばそうなのだが、その7つの大統領令の中で違憲論争に発展しているのが、先月27日にいきなり発表があった、イスラム圏7ヵ国からの市民・難民・移民の入国を一時禁止する大統領令13769号だ。
「この特定7ヵ国からの入国者はテロリスクが高い」という、ものすごくシンプルな考えにより、縦横の連絡も十分でないまま施行されたこの大統領令が引き起こした混乱ぶりは、日本でも少なからず伝えられているとおり。これらの国からアメリカに来るのは、難民や移民以外にも、世界のトップとされるアメリカの研究機関や企業で必要とされる(働いている)専門職もいるというのに、とりあえず十把ひとからげに「テロリスクが高い」でまとめられてしまった。
発令から数時間後、移民・難民の支援者による抗議活動、弁護士による影響を受けた人たちの支援活動が始まり、ワシントン州の司法長官による政権の提訴、連邦地裁による大統領令の一時差し止め、政権による上訴、そしてその上訴の却下と、いろいろなことが次々と起きている。新政権を初めて提訴したのがワシントン州司法長官だったことから、アメリカでも注目を浴びた。
「誰も法を超越できない ――大統領といえども」
(="No one is above the law - not even the President.")
この大統領令の全米での一時差し止めの決定が下されたとき、ワシントン州の司法長官が述べた言葉だ。2月6日の時点で、公式ツイートは8400件を超えるリツイートで拡散されている。
この発言に私は、日系アメリカ人の人権活動家の故フレッド・コレマツ氏(※)による、
「間違いだと思うならば、声を上げることを恐れてはならない」
(="If you have the feeling that something is wrong, don't be afraid to speak up.")
という言葉を思い出した。
今大きな変化を迎えているこの国に、私の息子は日系アメリカ人として生まれ、6歳にしてすでに「自分はアメリカ人」というアイデンティティを持ち始めている。そんなわが子に親として伝えられることは何だろう?と考える。
アメリカは、移民と移民の子孫が作っている国だ。私と息子のアメリカの家族親戚にいる、もともと難民としてアメリカに来た人たちも立派なアメリカ人であり、そのアイデンティティを誰も消し去ることはできない。
多数決で選ばれた人の命令でも、間違っていることは間違っている。この国では、誰もがそれを主張することができる。正しいと思うことを主張する力は、いつも自分の中にある。
時にはそれはとても勇気がいることで、誰にでもできることではない。私にだって、いつもできる勇気があるかわからない。私が息子の前でその選択をするチャンスを与えられた時、私にはそれができるだろうか。
就任式から1月31日までに新大統領が署名した大統領令は7つ(ちなみに、オバマ前大統領は同じ期間に9つの大統領令に署名)。公約どおりといえばそうなのだが、その7つの大統領令の中で違憲論争に発展しているのが、先月27日にいきなり発表があった、イスラム圏7ヵ国からの市民・難民・移民の入国を一時禁止する大統領令13769号だ。
「この特定7ヵ国からの入国者はテロリスクが高い」という、ものすごくシンプルな考えにより、縦横の連絡も十分でないまま施行されたこの大統領令が引き起こした混乱ぶりは、日本でも少なからず伝えられているとおり。これらの国からアメリカに来るのは、難民や移民以外にも、世界のトップとされるアメリカの研究機関や企業で必要とされる(働いている)専門職もいるというのに、とりあえず十把ひとからげに「テロリスクが高い」でまとめられてしまった。
発令から数時間後、移民・難民の支援者による抗議活動、弁護士による影響を受けた人たちの支援活動が始まり、ワシントン州の司法長官による政権の提訴、連邦地裁による大統領令の一時差し止め、政権による上訴、そしてその上訴の却下と、いろいろなことが次々と起きている。新政権を初めて提訴したのがワシントン州司法長官だったことから、アメリカでも注目を浴びた。
「誰も法を超越できない ――大統領といえども」
(="No one is above the law - not even the President.")
この大統領令の全米での一時差し止めの決定が下されたとき、ワシントン州の司法長官が述べた言葉だ。2月6日の時点で、公式ツイートは8400件を超えるリツイートで拡散されている。
“No one is above the law ? not even the President.” ?BF
— WA Attorney General (@AGOWA) 2017年2月3日
この発言に私は、日系アメリカ人の人権活動家の故フレッド・コレマツ氏(※)による、
「間違いだと思うならば、声を上げることを恐れてはならない」
(="If you have the feeling that something is wrong, don't be afraid to speak up.")
という言葉を思い出した。
今大きな変化を迎えているこの国に、私の息子は日系アメリカ人として生まれ、6歳にしてすでに「自分はアメリカ人」というアイデンティティを持ち始めている。そんなわが子に親として伝えられることは何だろう?と考える。
アメリカは、移民と移民の子孫が作っている国だ。私と息子のアメリカの家族親戚にいる、もともと難民としてアメリカに来た人たちも立派なアメリカ人であり、そのアイデンティティを誰も消し去ることはできない。
多数決で選ばれた人の命令でも、間違っていることは間違っている。この国では、誰もがそれを主張することができる。正しいと思うことを主張する力は、いつも自分の中にある。
時にはそれはとても勇気がいることで、誰にでもできることではない。私にだって、いつもできる勇気があるかわからない。私が息子の前でその選択をするチャンスを与えられた時、私にはそれができるだろうか。
※フレッド・コレマツ:第2次世界大戦中の日系人強制収容を違憲と主張して提訴した日系2世。
故フレッド・コレマツ氏について私が知ったのは、恥ずかしながら、9.11の後だった。
コレマツ氏の生誕98周年にあたる先月30日のGoogle Doodleは彼の似顔絵だったが、イスラム教徒差別が広がりつつあったことを懸念し、「日系人にしたことを繰り返してはならない」と述べたことは広く知られており、Googleの政治的立場の表明と受け止められている。
January 30, 2017
Fred Korematsu's 98th Birthday
https://www.google.com/doodles/fred-korematsus-98th-birthday
![]() | 大野 拓未 アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。 |
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