ここ米国北西部の夏の終わりを告げるレーバー・デーの祝日が明けた9月上旬、息子が小学校に入学した。

近所に住む一番仲のいい従兄とのスクールバス通学がそれはそれは楽しみで、数日前から「あー、待てない! 楽しみ!」と何度も言い、初日の朝も「早くしないと、バスが来ちゃうかもしれないよ!」と、セカセカ、ソワソワ。

それでも、家から見える集合場所まで私と夫と手をつないで歩く息子に、「まだ6歳だなあ」と喜んでいたら、従兄が歩いて来るのが目に入った途端、パッと離した手を従兄に向かって振り、"Can I sit with you on the bus?" と、子どもの世界に行ってしまった。

同じ集合場所からスクールバスに乗るのは小学校付属の幼稚園生から5年生まで15人ぐらい。それぞれに一人または二人の保護者がついて、おしゃべりをしている。私たちが初めてと知るや、向かいの家の人が「帰ってくるときはバスは坂の上から来るからあっち側にいたほうがいいわよ」とアドバイスしてくれたりする。そういう会話はこれまでしたことがなかったので、なんだか新鮮だ。

予定到着時刻より10分ほど遅れて、山吹色のスクールバスが角を曲がってやって来た。

いよいよだ。


道路のど真ん中にバスが停車し、ドライバーが扉を開いて手招きしたら、乗車スタート。子どもたちは適当に一列になり、乗り込んでいく。さまざまな人種の保護者たちが "Have a good time!" と口々に叫ぶ中、私が日本語で「楽しんでね!」と声をかけると、従兄の後ろに並んだ息子は、チラッと振り返って、笑顔でバイバイと手を振った。全員が乗り込んで着席するとドアが閉まり、中から手を振り続ける子どもたちを乗せたバスは大きな音を立てて去っていく。


小学校入学というものすごく大きな節目に、私もやっぱり感極まって泣くかなと思っていたが、涙は出なかった。「すごいなあ」と感心していたからだ。

登校初日の約2週間前、新一年生と保護者が参加する「Popsicle Night」があった。校庭の一角に置かれたテーブルの横に校長先生と副校長先生が立ち、新一年生と保護者が並んで、順番が来ると先生方に自己紹介し、popsicle(日本で言うアイスキャンデーのこと。今はある会社の商標になっている。アイスポップなどとも言う)をいただいて食べるというだけなのだが、学校としての新しい試みだそうだ。Tシャツとショートパンツ姿の先生方と握手しながら、照れながら小さい声で挨拶しつつ、どのpopsicleがいいかときかれた時は大きな声ではっきり答える息子。キャラは変わっていない。

そして登校初日の約1週間前には、全校生徒が参加する「BBQ Night」があった。初めて自分の教室に行って担任の先生に会うという重要な行事だが、教室は明るく、あちこちに息子が好きなドクター・スースの「Cat in the Hat」の言葉や絵が貼られ、元気いっぱいの担任の先生が出迎えてくれたので、息子はすぐに気に入ったらしい。

自分の机は自分で選んでよいとのことで、息子は先生のそばの机を選んで、事前に学校からメールで連絡があったノートや鉛筆などの勉強道具を入れ、寄付する備品を仕分けして箱に入れていた。

ちなみに、アメリカの公立小学校では、一般的に、クラスで共有するクレヨンや消しゴムなどの備品を各家庭が寄付するようになっている。息子が通う学校では、今年はどの学年も備品リストが短くなったらしく(理由は不明)、私も義姉も一つの店で買い物を終えた。

常にネタ探しをしている私は付箋やマーカーまで寄付するのかと面白がっていたが、こんなふうに店まで出かけて買うシステムを続けているところもあれば、「先生が安くまとめ買いして保護者は支払いをするだけ」「オンラインで保護者がクリック一つで全部購入できて配達される」など、さまざまだ。「昔は初日に子どもが持参してたけど、小さい子供には無理だから、親が車で学校に届けている」というところもある。

その後、校庭でバーベキューを食べながら、「学校はいつ始まるの?」「スクールバスは何時に来るの?」「早くその日にならないかなあ」と、息子の中でワクワク感が高まっていく。

2歳半から5歳半までのプリスクール、そして6歳半までのキンダーガーテンと、車で送り迎えしてきた日々は、これにてついに終了である。長いようで短かった、これまでの6年間。次の夏休みもきっとあっという間にやってくるに違いない。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。