もうすぐ5歳になる息子(年中)のイヤイヤがいまだに激しい。
1歳半くらいから始まったイヤイヤ期のそれとは毛色が違い、「こうやったら母親が怒る」と見越した上で難くせをつけてくるからタチが悪い。

こちらは「その手に乗るもんか」と怒りを鎮めるために、あの手この手の独自メソッドを実行してきたのだが、ちょっと待て。もしかして発育上の問題があるのでは?と不安になった。


善は急げとばかり、地域の保健センターの育児相談窓口へ電話をかけた。以下、そこでの保健師さんへのインタビュー、もとい目からウロコの相談内容とその答えだ。同じような境遇のお母さんがいたら参考にしていただきたい。

■息子の現状を説明


まず、息子の特質を説明しておく。彼はなかなかデキるやつである(親バカ承知)。集団生活もそれなりにこなし、人見知りをせず、よく食べ遊び、自分の趣味(レゴやプラレール)に没頭して、大人顔負けの作品をつくる陽気なオタク。こだわりが強いあまり、切り替えが苦手で、妹に作品を壊されたときの怒りは凄まじい。

また、機嫌が良いときはよいのだが、何か些細なきっかけでつまずくと、怒りの矛先は私へ。「ママのせいで〇〇!」と泣き叫び、「ママのバカめ!」とえんえんと暴言を吐いている。完全にとばっちりなんですけどね。

また気にくわない食事が出てきたり、デザートがないと分かるや、テーブルに肘をついて、ため息をつきながら「ぜんっぜん、食べたくないし、楽しくない、ママが悪いんだよ」である。

そのわりには甘えん坊で、寝る前は必ず「ぎゅーして(抱きしめて)」「世界で一番ママが好き」だし、朝、保育園に送るときはべったり離れないこと多数。そのくせ降園時には「なんでこんなに早く来るの?帰らない!(怒)」でダラダラ30分経過。一体この人は何なんだろう……?で一年が過ぎた。

■保健師さんの分析


以上、半ばグチな私の話を聞いてくれた保健師さんがおっしゃるには、「まず、発育の問題はなさそうだ」ということ。年中くらいの子の課題として、「求められている空気を読んで行動できるか」があり、自分と他人との折り合いをつけていく時期らしい。そのあたりがなんとなくできていればOK。

次に母親への対応は「甘えていいんだ」という安心感から来ているようで、ちゃんと親子の関係が作られているらしい。これで?本当に?と驚きと喜びが混ざりました。

とはいえ毎度つっかかられたり、べったり離れないのでは私が疲弊するんだよなあと思った矢先に、「そうはいっても、お母さん、大変ですよね」と汲んでくれるのはさすがプロ! その保健師さんは対処法を2つ授けてくださった。


●1:緊急時の対処法「注目をあげない」
いわゆる「無視」に近いもの。例えばお風呂に入るとなったとき、息子が「いやだ、遊びたい!」となっているとする。しかし母親はそれを意に介さず、「お風呂に入ろう!」と言い続けるというものだ。……そう保健師さんいわく、「根気でたたかう」のである。こちらも辛いが、あちらも苦しい。ねばってねばってあちらの心が折れると、次からは「このシチュエーションで何をやっても無駄」と学習するらしい。なるほど、まずは一勝、次から全勝!……ここは絶対勝っておきたい。

●2:思いを代弁してあげる
我が家のきょうだい喧嘩の8割は、「兄が作ったものを妹が壊す」ことで発生し、往々にして、ぶったり噛んだりに発展する。
壊されてイヤな息子、一緒に遊びたいけど不器用な娘、それぞれの気持ちがわかるので、なんとも言えなかったのだが、母親がそれぞれの気持ちを言語化してあげることが大事らしい。

例えばレゴで家を作っている兄に忍び寄る妹を見たら、妹へ「にいにが作るのを待っていようね~」と声をかける。それでも止めるワケはないのだが、壊してしまったら兄へすかさず、「最後まで作りたかったよねー、悔しいね」などと言う。妹へは「気になって触っちゃったんだよね。一緒に遊びたかったんだよね」と声をかける。


これらは現場にいる子どもたちへ、「ママにはちゃんと気持ちが伝わっているから大丈夫だよ」との表明となり、運が良ければ納得して号泣には発展しないかも、ということだ。運がよければ……「10回に1回納得してくれればラッキー(保健師さんより)」らしいので、こちらも根気がいるのだが。

そして暴力はいつなんどきでも誰でも、ふるってはいけないものと注意することも必要だ。

■目からウロコの「子どもにとって怖い人」とは?


その保健師さんとのやりとりの中で発見があったので、そのことにも触れておく。以前、息子に「パパのことをどう思うか?」ときいたところ、「パパはいつも怒ってる。子どもから見ると怒ってるんだよ!」とのこと。息子へ必要最低限のことを伝え、息子の次の行動をじっと待っている夫をみると辛抱強いなあと思い、むしろギャーギャーどなりちらす私の方が怖いと思っていたのだが。

保健師さんいわく、「パパは黙って待つ→かまってくれない→不安→怖い・怒ってる」一方ママは「ギャーギャー反応→楽しい→もっとコミュニケーション(いたずら含)を取ろう」と解釈しているらしい。この大人からみた逆転解釈は目からウロコだった。

■母親がどこでマジギレするかを観察


厄介なことでは、あえて悪いことをすることで、ママの堪忍袋がどれくらいかを試すこともあるようだ。「ここまでやったらマジやばい」という境界線を見るために。

これには心当たりがあって、数か月くらい前、息子はキレると、けっこう重たいダイニングチェアやリビングのサイドテーブルをぶん投げる、という暴挙に出ていた。大昔のヤンキーと親の喧嘩のシーンさながらである(窓ガラスなどは割れていない)。

投げることもやめてほしいし、下の子にぶつかったら本当に危ない。ここは、まず言葉でさとして……としていたのだが、何度目かで私がキレた。白状すると本当にプッツンしてしまって、高笑いをしながら娘を小脇にかかえ(プッツンしながらもちびっ子の身の安全は確保)息子と同じことをやり出したのである。

「もうやだ~♪ もうやだ~♪ ママも、ママをやめて好きに生きる~♪」と笑いながらダイニングチェアを投げる母。「一度やってみたかったんだ~!」とサイドテーブルをなぎ倒す母。ソファの背もたれを下して、その上で「わーい!」と飛び跳ねる母。

息子は非常に恐ろしい思いをしたに違いない。その日からピタッとモノを投げなくなった。
(ちなみにその日の夜、息子は私が投げた椅子を元通りにしてくれ、「ママ、椅子は投げちゃダメだよ」と枕元でささやかれた)。申し訳ない。

■とりあえず抱きしめる


保健師さんの助言を実行して数日。気が付いたのは、対処法を実行するにもけっこうな根気、忍耐、我慢、粘り腰がいるということだ。気づいていたがもう一度書いておこう。子育てにライフハックできるテクニックはない。

しかし、息子の煮えたぎっている怒りを過剰に代弁していると、どうやら怒りは収まるようだ。ホラ、大人でも「それ、ひっどーーい!」と代わりに怒ってくれる友だちがいると溜飲が下がる、アレである。そうなるとしめたもので、息子からの「ママぎゅーして」要請がくる。

あとは存分に抱きしめて一件落着。そう「抱きしめさせてくれる息子」でいる今は、最も効率よく、最も平和的で簡単な手段なのだった。息子よ、ありがとう。

この賞味期限のある現状に感謝しつつ、抱きしめられるだけ抱きしめよう。

最後に息子へ、いろいろ暴露してごめんなさい。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。