カチャカチャカチャ……。
毎朝鏡の前で化粧下地のボトルを振るたびに、仮面ライダービルドの“ベルトさん”の声が脳内で再生される最近の筆者である。

「ベストマッチ!」

子どもを通しての“ニチアサ”との付き合いはそろそろ4~5年になろうか。

最初の年にはなぜか果物がライダーに?と驚き、ライダーなのに車乗ってる!と驚いた年もあった。ゲームがフィーチャーされたライダーの時期には、オールドゲームの登場に「むむ?」と反応し、そして現在の“ビルド”である。


「おもちゃ買って!」になったら正直面倒だなと思っていた我々夫婦、できるだけその手の番組から子どもを遠ざけようとしていたものの、同級生からどうしても情報は入るし、祖父母の家にひとりでお泊りするようになると、日曜朝のチャンネル権は彼に与えられた。

そして、思いのほか「おもちゃ買って!」をいわないこともわかってくると、我々は彼の行動範囲を少しずつ広げていったのである。

そんな中、たまには第一話をちゃんと見てみよう、と録画した「仮面ライダービルド」。

筆者はちょうど“ライダー空白の世代”で、どちらかというと「仮面ノリダー」からライダーの知識を得ているのだったが、“おやっさん的存在”“喫茶店”“久々にちゃんとバイクに乗る”“クラシックデザインに近いライダー”というあたりが妙に引っかかり、しっかり最後まで見てしまったのだ。

≪……うん、おもしろい。≫

以降、長男とは番組の話で盛り上がることも多くなったのである。

■キャラなし育児の理想を掲げ


≪「育児」と「おしゃれ」の両立は無理だ……。≫

赤ちゃん用品専門店で見かける、派手に戦隊ものがガチャガチャ並んでいるデザインTシャツを見ながら、そう思っていた7年前。

当時でもわずかながら、お手ごろ価格のおしゃれ子ども服はいくつかあり、ひたすらネットで探しては買った。部屋に置くものは厳選したい!という私の独断と偏見で、インテリアにもなりそうな北欧系のおしゃれおもちゃに憧れ、通販やセレクトショップでやたら買い込んでいた時期でもあった。

我が家には毎日のようにダンボールが届けられ、運送屋さんにしっかりと顔を覚えられるほどに。

「そこまでやらんでも……」

という感想をお持ちの方もきっといるだろう。

筆者が服飾の専門学校で学び、ファッションデザイナーを本職としていた時期があることを頭の片隅においていただければ幸いだ。

生活におしゃれがなくても生きていける人と生きていけないタイプがあるとしたら、明らかに後者だった。乳児を抱えた時期、無印の授乳用ボーダーチュニックばかりを着ている自分のバリエーションのなさにも、すこし鬱々としていたのである。

子どもが赤ちゃんの時期を過ぎ、だんだんと男児に育っていく課程で、友だちづきあいなどからどうしても避けられないのが“キャラもの”である。遠足の弁当箱、カバン、ハンカチ、友だちの家に遊びにいったら大量においてあったプラレール、ライダーの武器やウルトラマンのソフビ人形……。

小学生になった長男だが、つい最近まで「おもちゃがたくさんあるから」という理由で家に遊びに行きたがっていた友だちがいる。今はそれ以外にも理由はあるのだろうけど、たしかに、無限に遊び道具のある家は楽しいに決まっているのだ。

子どもの成長に合わせ、筆者は段階的に「家に入れるおもちゃリスト」を更新していった。
“外国のアニメはよし”“Eテレ関係のものはOK”“スターウォーズは私が好きだから無制限”などである。

そうして、ある程度筆者の基準がゆるゆるになった頃生まれてきたのが次男であった。

■子どもかわいさにタガが外れる


40も近くなった頃、あらたに我が家のチームメイトになった“小さき人”は、生まれてすぐに具合が悪かったことも相まって、

“生きているだけで100点”
“いるだけでかわいい”
“お人形さんみたい”

……と、大人の寵愛を一身に受けていくのであった。

その“小さき王様”は成長するにつれ、ある趣味がはっきりと見られるようになる。

「でんちゃ!」

新幹線から在来線、特急まで、ありとあらゆる電車が好きなのだ。
長男は一切電車に興味のない子として育ったため、これが世にいう“子鉄”か……、と、興味深く見ている。

保育園からの帰りには「でんちゃみる!(=電車を見る)」といい、踏み切りそばで待機。過ぎ行く電車を何本か眺めて、気が済んでからやっと動いてくれる、ということもある。

──ああ、“子鉄の親”とは、なんとも根気のいることよ……!

筆者の実家には、筆者の両親が長男のために買い揃えたプラレールセットがあった。
当の本人がまったく興味を持たないまま数年が経ち、今は次男が思う存分楽しんでいる。わっかにつなげた線路の真ん中に入り、まるで自分が“電車神”となって、すべての電車を操っているかのように……。

そこまで好きなら……と、ついつい財布の紐がゆるくなってしまうのだ。
ふらっと立ち寄ったおもちゃ売り場、ハッピーセットのおまけ、気づいたら実家だけでなく自宅にもなんだかプラレールが増えている。つい最近は、最新型の山手線を入手。「やまのてちぇん」と言えるようになった2歳児が、リビングで今日も電車を走らせているのだ。

気づけば、我が家のリビングには、日々おもちゃが出っぱなし。

次男はいただきもののアンパンマンの語学ゲーム端末を片時も離さず、ベッドにも持ち込んでいる始末。キャラものだけどデザインがかっこいいから……と買った、ミッキーたちがバンド演奏をしているデザインのパジャマを気にいって、それしか着ない次男は、毎朝服を決めるときにパンダかミッキーじゃなきゃイヤと泣き、スムーズな家庭運営のためにはミッキーの服を少し買い足すか……と思っている今日この頃なのである。

当初に掲げた“おしゃれハウス”には程遠いところに着地したが、ある程度キャラものを投入することで育児がスムーズになる……という、この7年間の観察結果によるところも大きい。

■おしゃれな子ども用品が増えている


小学生前後の子ども、特に男子が欲しがるスニーカーの上位に来るのが“瞬足”であろう。
普段あまりおねだりをしない長男が珍しく「早く走れる靴がいい!」といってきたのが今年の夏ごろだった。運動会を前に、少しでも早く走れそうなスニーカーを!と思ったのだろうか。

しかし「瞬足」といって思い浮かぶのが、あの“ギラギラ”“テカテカ”したテクスチャだ。体育のときならまあいいとして、あれをデイリーユースで履きこなすのはなかなか上級テクがいる。

そんなおり、“おしゃれ瞬足”なるコラボ商品がいくつかのブランドから出ていることを知った。

ファッションアイテムとしての“瞬足”。調べてみたが、悪くない。
本人に聞いてみたが、ビジュアルはなんでもよくて、機能重視だったため利害が一致した。

≪最近は、子どものものもずいぶんおしゃれになったよなあ≫

人の親を7年、その間乳幼児を2回育てているのだが、あきらかに初回と2回目で、子持ちをめぐる世間の空気感は異なっている。

抱っこ紐やベビーカーなどは男性が利用する想定で色やサイズが変わってきた。
マタニティアイテムもずいぶん選択肢が増えたように思うし、かなりファッショナブルになっている。子ども服も、いかにも子ども!というデザインのものは減り、大人と同じデザインを小さくした感じのものが増えてきた。

そう、これが7年前に私が欲しかったものだ。

■言い続けることで流れはきっと変わる


キャラもののアパレルも、ファッションブランドとのコラボで、ずいぶんおしゃれになったものが流通している。

「子どもはキャラものを欲しがるけど、親はファッションアイテムとして着せられるレベルのものが欲しい」という声がこの7年で浸透したのか、それとも、版元の子育て世代社員たちもじつは同じように思っていて、彼らが実権を握れるポジションになってきたということなのだろうか。

似たようなことが最近あちこちで起きる。
たとえばテレビCM。我々世代に刺さるようなキャスティング、選曲、オマージュをよく見かける。

30~40代の乳幼児を育てている家庭向けにとってリアルなコンテンツが増えている気がするのは、おそらくメインで動いているクリエイターが、似たような世代で似たような環境にあるから、かもしれない。

育児界隈、残念なことに男性が発信しないと何も変わらない、ということがいまだに続いている。しかし、それも私が見てきたこの7年で、育児を主体的に行う男性は大変に増えた感じを受ける。

不便を不便だと長年言いつづけ、共感する人を増やしていけば、最終的に発信力のある仲間が加わってムーブメントが起きるのかもしれない。

筆者を含む団塊ジュニア前後の世代は、その下に比べて大変人数が多い。
そこが晩産化により、ちょうど育児世代ど真ん中になっている現在、何か変えるとしたら今なのだろう。

時間はかかるが、言いつづけていくことで確実に何かが変わるのだな、ということは体感としてすでにあるのだ。


そして、時間というのは人の考えも少しずつ変えていく。

今日も私は次男のために……というよりもすっかり自分がはまってしまい、カプセルプラレールのガチャを求めておもちゃ売り場をさまようのであった。
ぜんまいつきのものが、なかなか出ないのである。

ワシノ ミカワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。