皆さんは、100円ショップのDAISOから、赤ちゃん絵本が出ているってご存じでした? 「DAISO お子様向け書籍」が、子育て中のママ・パパの投票で選ばれる「第13回マザーズセレクション大賞2021」を受賞したと聞いて売り場に行くと、あるわあるわ。「0.1.2さい あかちゃんえほん」シリーズなどは、角を丸くしたボードブックで、オノマトペを効果的に使い、食べ物や動物を親しみやすい絵で表現…。「こんな知育絵本、100円でできるはずがない!」と鼻息荒く、出版元の大創出版の西田大社長にお話を伺ってきました。



絵本が100円で、ホントに利益が出るの!?


「なんで100円でできるんですか?」って、本当によく聞かれるんですよ。

特別すごいことをしている感覚は、編集部員のみんなももっていないと思います。大きく違うのは、皆さんの協力、理解があってのことだということです。印刷会社、紙業社、クリエイター、イラストレーター、DTP、編集も含めて、携わる方全員の協力があって、やっと100円でできる。そういうことに尽きます。

制作費は、紙代や印刷代のウエイトがすごく重いんです。弊社も20年やってきましたが、その間築き上げた印刷会社さんとの信頼関係と、「100円でつくるためには、こういう単価じゃないと」というご理解の上に成り立っていると思います。

もちろんDAISOという会社が大量に販売してくれるのも大きいです。ただDAISOは別法人なので、弊社はメーカーとして一度商品を卸します。つまり、100円より低い金額でつくって利益を出さなきゃいけない。ある意味、皆さんが考えているよりもっと厳しいですよ。

ところで、弊社の商品の返品率ってどのくらいだと思いますか? 例えば懸賞つきのパズル雑誌は、3%弱(※)。DAISOという売り場が一元化されているから、データが取れて達成できることです。出版業界から見るとこの数字はすごいと思うんですよね。でもDAISOとしては、仕入れたものは全部売って当然という感覚で、本も売り切って当然となります。だから初版で終わるわけではなくて、ほぼ確実にリピートがくる。だから最初は赤字でも版を重ねて利益を出していけるというのもありますね。
※『出版月報』によると、2021年の書籍の返品率は32%台

赤ちゃんが手にするもの。安心・安全は当たり前


今の編集部員は7人で、年間90冊以上は制作しています。普通の出版社よりもいろいろな仕事を求められていると思いますよ。赤ちゃん向け絵本は、ストーリー構成からラフまで担当がしっかりつくっています。どういうテーマや題材にするか、「じゅわーん」とか「ぱちぱち」とかのオノマトペを使うなどもこの段階で決めています。企画が通ったら、今度はイラストレーターを自分たちで探します。この価格で、求めている雰囲気の絵を描いてくれる人に行きつくまで探します。

製造面では、赤ちゃんは本をあむあむとかじるでしょうから、厚手の紙を使ったり、角を丸くしたり、PP加工をしたりして、安全性や耐久性はどうかということも考えます。

「100円なのに」ってこれもよく言われるんですが、安心・安全って製品としては当たり前のことですよね。結果として100円で売っているだけであって、100円だからという感覚で誰一人仕事はしていないです。100円ショップも世の中に認められた存在になっているからこそ、よりしっかりしたものをつくらなければダメだと思います。

「100円の絵本だから、破れたり壊れたりしてもいい」の先に見えるもの


「こどもしゃしんブック」シリーズの『うみのいきもの』は、『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)の今泉忠明先生が監修してくださっています。監修費もそんなに払えませんが、「みんなが100円で買える手軽さがいい、子どもが生き物に興味をもつきっかけになる」と共感して、監修を受けてくださって実現したことです。

子どもにとって絵本は、世界を知る大事なツールですよね。絵や写真に触れたり、科学的なことを知ったり、物語に聞き入ったり、主人公になりきったり。すごく学ぶ機会がある。そういう子どもの成長にすごく大事な学びが、100円という価格で気軽に買えるわけです。

これが1000円くらいの一般的な絵本だと、赤ちゃんがなめたりかじったり破いたりしたら、「コラ!」と怒りたくもなります。でも、私が言うのもなんですけれど、100円だったら、破れたり壊れたりしてもいいじゃないですか。怒られるのも時には必要でしょうけれど、子どもにとってみれば、本だっておもちゃみたいなもんですから。金銭的だけではなく、親の心の余裕が生まれるならば、すごく喜ばしいことです。せっかくDAISOという立場にいるわけですから、手軽さや身近さ、加えて知育的なことという理想を大事にしていきたいです。

驚かれる自信作「英語で学べる名作おはなし絵本シリーズ」


今度出すのが「英語で学べる名作おはなし絵本シリーズ」で、タイトルは、『ももたろう』『3びきのこぶた』『にんぎょひめ』『赤ずきんちゃん』。まず、英文が先にくるバイリンガル仕様で、音声が、英語・日本語ともにダウンロードできるんです。監修は、『あらしのよるに』(講談社)でよく知られる、きむらゆういち先生が受けてくださいました。上製本で紙もしっかりしたものを使っています。材料費は上がるけど、いいものにしたいから、まぁいいやって(笑)。 今泉先生もそうですけれど、著名な方々が共感して協力してくださったことが、驚かれる商品づくりにつながっていると思います。4月中旬頃には店頭に並ぶ予定です。